第28話 ユウ、多忙な夏休み

試験も終わり、大学生の長い夏休みが始まった。


ユウは当初の予定通り、自動車の運転免許を取得するべく駅前にある、自転車で五分程の教習所に通い出した。学科と実技でけっこう時間を取られるが思ったより楽しめている。


それと同時にアルバイトを始めた。ユウの母がひいきにしている、夫婦でやっている小さなパン屋があるのだが、そこの奥さんが妊娠してから体調が悪く、アルバイトを探していた。1日の勤務時間が短い上、土日も勤務があって時給もそれなりということで、アルバイトが見つからないのをユウの母が聞いて、ユウに夏休みの間やってくれないかと頼んできた。


ユウも、スチームローラーのパーツやサイクリング用のウェア、バッグなど欲しいモノがたくさんあって、お金がほしかったのでアルバイトをすることにした。


パン屋での仕事は、主に焼き上がったパンを並べることとレジ打ちで、難しい仕事ではない。


朝一番で、まず教習所に行って、授業を受ける。昼前にスチームローラーで10分のパン屋に行って、午後3時までアルバイトをする。そして、また教習所に戻って、授業を受ける。結構きつい。


教習所は年中無休だし、パン屋は火曜休みだが、夏休み中に教習所を卒業したいので、つい授業を入れてしまう。まだ7月中だというのに、ユウは疲れていた。リンにも、全然会えていない。






一方、そのころリンは、



火付盗賊改方ひつけとうぞくあらためかた長谷川平蔵はせがわへいぞうである! 盗賊とうぞくども、神妙しんみょうばくに付けい!!!』



時代劇のDVDを見ていた。


夏休みは特に何もすることがないというリンに、ユウが自分のコレクションだという時代劇のDVDと、時代小説の文庫本をたくさん貸してくれた。


ユウって意外と渋い趣味ね、と思ったが、どのみちヒマなので見てみたらけっこう面白い。おかげで、今年の夏休みはそんなに退屈しないで済んでいる。


それよりも、リンはユウに会えないのが不満だった。教習所とパン屋のアルバイトで、会う時間がない。パン屋に一度行ったが、暑い中片道30分以上かかるので、もう行きたくない。夜ならばと思っても、疲れてるユウは早く寝たいらしくて、出てこない。


「会いたい」とメールしても、「だったら、夜うちに来て。」と返事がくる。別にユウの両親が苦手な訳ではないが、リンは二人きりで会いたかった。第一、このままでは、いつプールに行けるのか?


夜になって、そろそろスチームローラーでトレーニングのナイトライドに行こうと思ったら、玄関の呼び鈴が鳴った。インターフォンのモニターを見ると、ユウが立っている。リンはあわてて玄関を開けた。


ユウは、明日パン屋が休みで売れ残りをもらったので、おすそ分けに持って来たと言って、パンが入った袋をリンに渡した。いつもの笑顔が嬉しい。


「ユウ〜。」


リンは思わずユウに抱きつく。ユウはリンの背中をポンポンとたたく。


ユウは、パン屋はお盆休みがある。教習所もその頃、学科の授業が大体終わる。そうしたら、余裕ができるからプールはもうしばらく待ってほしいと言った。それまでは、夜でいいから遊びに来てほしい。ユウの父母も猫も、リンを気に入っている。と続ける。


「免許が取れたら、一緒に車にスチームローラーを積んで、出かけよう。」


「アルバイト代が出たら、一緒にスチームローラーで買い物に行きましょう。」


リンは、嬉しさで涙ぐみながら、うなづくのだった。


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