2-4

目が覚めると病院にいた。看護婦さんに何があったのか聞いたが、看護婦さんは話すのを躊躇した。


だがどうにか言って、やっと話してもらえた。

どうにも若葉は相手に全力で腹に蹴りを入れられ鳩尾にクリーンヒットして気絶したという。

そして顧問が起きあげたところ、それはそれはお見事なマーライオン芸を見せてしまったらしい。


世の中知らない方が幸せなこともある。

これがまさにそうだろう。


目さえ覚めれば元気な若葉は、病院から歩いて家まで帰った。

だが家に帰る道中、あまりにも希望のない目をしていたので通行人が振り向いた。


「あぁぁぁぁぁぁ、あぁぁぁぁあぁぁ!!」


と叫びながら家中をゴロゴロと回る。

その様子を翔也は笑ってるような、哀れむような顔をして若葉を見ていた。


「死にたい!!!!無意識のうちにマーライオン芸って!!死にたい!!」

「まあそんなこともあるさ....。」

「無いよ!普通は無い!」

「バラエティの一環で無理してリバースする芸人だっているぜ?試合中にやらかす選手だって....」

「うるさい!今はそんな話はいい!月曜から私のあだ名は柔道部のゲロインよぉ!」


女の子の少ない柔道部にいて、失態晒せばそんなあだ名もつくだろう。

いっそ、「私が柔道部のゲロインです」という名札でも付けて校内練り歩いてやろうか。と若葉は脳内でぐるぐると考えた。


「いやつかねーだろ、デリケートすぎるから。」

「それか、道場のマーライオン....。」

「だからなんのあだ名もつかねーよ、いじめじゃん。おまえみたいな女のくせに大男をぶん投げられるような奴いじめたところで結果は明白なんだから誰もそんなことしねーって。」


翔也にそう言われると、若葉は落ち着いた。

目に少し涙が浮かんでいる。


「しかし驚きだな、脳みそまで筋肉で出来てるから気にしないかと。」

「あぁ?」


翔也は若葉のことを根っからの脳筋と思っているが、若葉も女の子だ。

意識が無かったとはいえ、とんでもない恥を晒してしまったのだし、彼女は年相応に怖かったのだ。


「脳筋と頭切れるやつはいじめたら最後って言われてるから。」


と翔也は笑いながら、再び演技の練習をしていた。

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