第5話 コップの内の洋
コップの内の
「かんぱいだ」
限りなく大きくてとても広い。そんなものを知るたび僕は自分がとてもとても小さくて意味のないものに思える。
僕は隣を歩くその人に話す。なんてことない顔してその人は言った。
「みんなそうだよ」
そうか。
ながれが速くて航かいの困難な灘を必死におよいでいる。そんな人もいればただただ広い大洋をプカプカとしている人もいる。見上げれば同じように広がる空があって、青くて青くて区別がつかない。境目のすい平線の向こうにはただ世界があるだけだ。遠くて果てしないけれど。
なだめてくれる人がいる。荒々しくなっても。引き止めてくれる人がいる。ながれるばかりで通り過ぎようとしても。みずは繋がっている。合りゅうする。大きく速く広くなって、いつしかうみになる。それは独りよがりじゃなくて。話して離して放して、公開して後悔して航かいして。勝ち負けもなければ上も下もない。言ってしまえば中も外も内もない。
僕はみずの中にいる
周囲をみずに囲まれている
そんな話をしたら不謹慎だと言われた
そのとおり
時にみずは怖い
一粒だってゆ断できない
こぼれおちるなみだの破壊力
雨が降りそそぐ
揺られてなみが起こる
こうかいせず生きることなんてできない
それでも僕らは今をきめられる
ほんの一瞬前のことは過去と呼ぶ
ほんの一瞬後のことは未来と呼ぶ
僕のコップの中には小さな世界がある
この体はいつけっ壊してもおかしくない
かんぱいの際には十分に気をつけて
コップの中の漣 新吉 @bottiti
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