第41話 トラマルとリア
「ぬわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
リアが走っていた。その通ったあとの地面を、光の弾が次々と掘り返す。すでに月光が辺りを照らす時間になっていた。
「ちょこまかと」
リアは一定の距離を保ってメリルの周りを回っていた。特に考えがあってのことではない。あまりにも離れすぎると、メリルに攻撃ができなくなると思ってのことだった。だが、これがメリルの光魔法を制限していた。
メリルの光魔法は威力が大きいために、ある程度の距離がないと威力が発揮できない。先ほど放った一撃は、もともと威嚇のための一撃だったのだ。あれほどの威力の光魔法を使うなら、やはり先ほどと同程度の距離が必要であろう。そのためにも、メリルはリアが自分から離れてほしかったのだ。
「いい加減に、離れてください!」
「は、離れたら、私が攻撃できないでしょう! 私の武器はこの錆びた剣だけなのよ!?」
「『勇者』の癖に、魔法も使えないのですか?」
「あんた知っていて言っているでしょう! 魔法なんて、私含めてほとんどの人が使えないわよ! 使えるあんたが特別なの!」
当たり前のことを馬鹿にされ、リアも言い返すことは言い返したが、口で勝ったとしても意味がない。今は、なんとしてでも武力でメリルに勝たなければならないのだ。
そこに、サイゾウとの戦闘を終えたトラマルが合流してきた。
「トラマル!」
「無事か、馬鹿女」
「……相変わらず、その呼び方は変わらないのね」
「細かいことだ。それよりも、あいつ、あんな魔法まで使えたのか」
トラマルもメリルの光魔法を確認している。その威力は、まさに兵器といっても過言ではないほどだ。一撃でも食らってしまえば、五体がバラバラになって命はないだろう。
「『勇者』って言うよりも、あれじゃあ悪魔だな」
「失礼な人ですね」
メリルはおもむろに右手をトラマルのほうに向けると、光弾を発射した。トラマルは飛び退りながら影のナイフを光弾にぶつけてみる。すると、耳を劈くような爆発音がし、爆風でトラマルとリアが吹き飛びそうになった。光魔法は影のナイフで弾くのも危ない。避けるしか現状では対処のしようがないようだった。
「馬鹿女。あの光の弾はまずい。絶対に当たるな」
「言われなくたって、わかっているわよ! どう見ても普通じゃないもの、あんなの!」
トラマルはメリルの攻略を考える。『影縫い』で動きを止めようにも、警戒されていては難しいだろう。『影絵』で攻撃しようにも、図体の大きい虎の『影絵』では、すぐに光魔法の餌食だ。かといって、影のナイフで光弾を撃ち落そうとしても、今やったとおり大爆発を起こして被害がこちらにも及んでしまう。まさに、手の打ちようがなかった。
(どうする。やはり、俺ではメリルを倒すことが出来ないのか……?)
メリルとにらみ合っているトラマルの肩を、ツンツンとつつく人物がいた。
「ちょっと、今忙しい」
それでも、さらにツンツンとその人物はつつく。
「だから、今忙しいから」
さらに、その人物はツンツンとつつく。
「何なんだ! 今真剣にあいつを倒す方法を考えているんだよ! 邪魔をするな!」
「私を無視するなー!」
トラマルをつついていたのは、もちろんもう一人の『勇者』候補、リアであった。自分ひとりで戦おうとしているトラマルを見て、いても立ってもいられなくなってトラマルの肩をつついていたのだ。
リアは真剣な目つきで、トラマルを見つめる。
「私だって、戦える。トラマル。私を、信じて……!」
「……」
トラマルはリアの真剣な目つきから逃げるようにメリルを見た。聖剣レグルスを構え、右手はいつでも光魔法を放てるように待機している。確かに、今のままではトラマルがメリルに勝つことは出来ないだろう。
「お前、死ぬことになるかも知れないんだぞ?」
「死なないわよ。だって、あんたが守ってくれるんでしょう?」
「人任せかよ」
トラマルは呆れたように嘆息した。
「その代わり……」
リアは錆びた剣を握り締め、メリルのほうを向いた。
「私が、あんたを守ってあげる。『勇者』だからね。仕方ないわ」
「……なるほど」
トラマルはリアの言いたいことがわかったようで、鼻で笑った。素直じゃない。それはトラマルも一緒だったが、今は自分のことを棚に上げてそう思った。
「それじゃあ、不本意だが、二人で戦ってみるか」
「一言多いわね。どうせ、私が囮になるんでしょう?」
「わかっているじゃないか。しっかり囮として働けよ」
「あんたこそ、抜かるんじゃないわよ」
トラマルとリアは同時に頷いた。
「行くぞ!」
「行くわよ!」
二人の絆の深さを証明するための戦いが、今始まった。
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