第99話 航空母艦ソルディバイド
収穫祭も終わり、秋本番を迎えていた頃……数か月前に落とした港町の元領主に向かってマコトは低い声で脅すように言う。
「港の規模に対して税収が全然合ってないぞ。まさかお前横領してねえだろうな?」
「とんでもない! そんなことがばれたらどんな恐ろしい目に遭うか!」
「じゃあなぜだ?」
「エンリケ海賊団の仕業です。彼らとは商船に手を出さない代わりに税収の半分を渡す協定を結ばされているのです」
「倒すことは出来ないのか?」
「不可能です。奴らはマーメイドやマーマン、サハギンといった海の魔物を従えています。そいつらが船の底に潜り込んで、
ましてやマコト様の海軍は創設したばかりでまともに海戦を経験した兵も将校もいないんですよね? だとしたらなおさら勝ち目はありませんよ」
現在は統治を委任している元港町の領主はおびえきった表情でマコトに話す。演技をしているようではなさそうだ。
「フム。エンリケ海賊団、だけっか? そいつは俺が何とかするよ。それまでは税収の面であれこれ言うつもりはない。ただし終わったらきちんと納税してくれよ」
「マコト様、アイツらと戦うつもりなのですか? 老婆心ながらおやめいただいたほうが良いですよ。我々でさえ完全に手も足も出ない相手なのですから」
「だからと言ってこのまま指をくわえて黙って見過ごすわけにはいかんだろ?」
「そこまでおっしゃるのなら止めはしませんが……正直な話負けると思いますよ」
「まともな海軍を持てなかった」
これは未来から来たマコトが遺した後悔したことのリストの一つだ。
ヴェルガノン帝国はまず最初海から襲ってきて、都市国家シューヴァルを落として西大陸南部を攻める拠点にしたそうだ。
それを防ぐためにリシア領内の端にあった寂れきった港町にカネをつぎ込み、軍港を作っていた。
あくまで「軍港」であるため商船は緊急事態のみ受け入れることにすることで都市国家シューヴァルとの摩擦を避けている、そんな港だ。
元領主との対談から数日後、その軍港をマコトが訪れていた。
「しかしよりによってあのエンリケ海賊団を相手にするなんてよぉ」
「元の領主様は完全にお手上げ状態だったそうだぜ? 間に合わせの海軍でどうこうできる相手じゃねえぜぇ?」
「大丈夫だ。策はある」
影でコソコソと愚痴っていた兵士を見かけてマコトは声を開ける。彼らは慌てて
「!? ゲッ! 閣下!?」
「も、ももも申し訳ありません! 口が過ぎました! なにとぞ! なにとぞお許しください!」
「まぁそう思われても仕方ないだろう。でも安心しろ、俺達が勝つ」
「閣下……本当にあのエンリケ海賊団相手に勝てるのでしょうか?」
「何もわざわざ敵の得意な戦いに付き合う必要はないのだよ。こちらの得意な戦法で戦えばいいだけの事さ」
「??? あの、おっしゃる意味がよく分からないのですが……?」
意味深な言葉を残してマコトは去っていった。彼は対海賊用の兵器の視察に来ていたのだ。
そこへ、軍港という場所には不釣り合いなターバン頭の来客をみかけて声をかける。
「ジェイクか。こんなところまで来るなんて珍しいな」
「ああ。海に住んでる魔物と交渉して貿易ルートを開拓できねえか色々やってたところだぜ。
ところでマコトさんよぉ。海賊退治するらしいが相手は相当な手練れと聞いてるぜ。勝ち目あんのか?」
「フフフ。安心しろ。この秘密兵器を持っている限り、俺達は負けない。その名も、『航空母艦ソルディバイド』だ!」
マコトがカッコつけた名前を付けたその船は……軍艦に追いつけるように帆を増やしてはいたが、ただの大型な商船だった。
「……なぁマコトさんよぉ。『こーくーぼかんソルなんとか』とか言ったか? 御大層な名前付けるのは構やしねえけど、こんなのが『秘密兵器』なのかい? 俺にはただの商船にしか見えねえんだが?」
「ああ。見た目は……というか中身もほぼ商船だが、こいつはこの世界初の「航空母艦」だ」
「はぁ。その『こーくーぼかん』とやらは本当に役に立つのかい?」
「俺の予想が正しければ大活躍できるはずだ」
力強く語るマコトの言葉に「これっぽちも」と言っていいほどジェイクはピンとこない。戦いは専門外とは言えどそんな素人から見ても突拍子もない事続きで頭では一切理解は出来ない。
「ただの商船を秘密兵器と呼ぶとは……うちの王もとうとう焼きが回ったか、俺は帰るぜ。どっちみちドンパチは専門外だ。アンタに任せる。一応は健闘を祈ってやるよ。じゃあな」
ジェイクはマコトに呆れながら帰路についた。
のちの世、このエンリケ海賊団制圧戦はこの世界における海戦の姿そのものを大幅に書き換える革命的な技術が2つ導入された初めての戦いとなるのだが、この時のジェイクは知らなかった。
【次回予告】
2つの新技術を手にマコトはエンリケ海賊団へと勝負を挑む
第100話 「エンリケ海賊団制圧戦」
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