第95話 公務再開
「さて、やるか」
マコトは執務室にこもって書類の山と格闘する。
始まりの島での1週間の滞在、さらに船での移動に往復で8日程度。
丸々半月の休みを取ってリフレッシュし、無事にハシバ国まで戻ってきたのは良いが、その分王の判断でなくては処理できない仕事が溜まっていた。
だいぶ昔にディオールに宰相の地位を与え(代わりに戦場からは完全に引退させた)、
特に優秀な部下たちに王の権限の一部を与え、王であるマコトがいなくてもある程度は国が回るよう設計はしていたが、
それでも国王の判断でなければならない書類は山のようにあった。
(ふーむ……銀行からの融資案件が多いな)
マコトの国、ハシバ国は西大陸南部の統一支配が現実的に見えてくるくらい大きな国になった。
そうなると銀行が「優良な投資相手」と思うようになり、今までは「カネを貸してくれ」とマコトが頼む側だったが、ついには「カネを借りてくれ」と銀行側から頼まれるようにまでなった。
無論、マコトも国益のために借りてはいるが、もし万が一のことがあっても返済できるように2重3重の対策は取っており、それ以上の融資は断っている。
(ん?)
そんな中気になる案件を見つけた。グレムリンの
「ヒヒイロカネの試作が完了したけど、言われていた兵器を作るには今までの炉よりも火のマナを使った炉を新たに作ったほうが結果的に安く済むし、兵器の製作後も使えるから得なので建設許可と融資が欲しい」のだという。
(ふーむ……いいだろう。許可を出すか)
「ちょうどいい、アズール。手が空いてるならギズモたちに火のマナ炉の製作を許可すると伝えてくれないか? 前金も渡すから持って行ってくれ」
「ハッ。承知いたしました」
彼は前金としてマコトが振り出した小切手を持ってエンジニアたちの工房へと向かっていった。
(後は……神学校の増築か、間に合わないかもしれないが許可しよう)
「十分な数の僧兵を確保できなかった」
10年後の未来からやってきた47歳のマコトがヴェルガノン帝国と戦い、悔いたことの1つだ。
そのためヴェルガノン帝国の侵攻に備え、1人でも僧兵として戦力を確保しようと3年前に神学校を設立、開校していた。
3年間で1人前の僧侶を輩出するという一般的な訓練期間の学校で、今年の3月末に1期生が卒業する見込みのこの学校は、
西大陸でも有数の実力のある僧侶を講師をとして招いて教育を施してもらっている上に学費も大陸で最も安いものとなっている。
その分経営的には大赤字を垂れ流すのだが、ヴェルガノン帝国との戦力が確保できるのなら安い投資だ。
(他には……そうだ。あいつらを騎士にでもするか)
あとはミノタウロスの傭兵部隊、とは言え実質的にはハシバ国軍の軍隊と化している彼らを騎士にすることにした。
ウラカン達ミノタウロスはかつて勘違いとはいえハシバ国を攻め落とす1歩手前まで追い込んだ相手である。
それを今までは損害が出たからその補填として働かせていた(もちろんきちんと雇用契約を結んだうえで互いに納得がいく額の給料は出していたが)のだが、度重なる戦争でもう十分と言える位には戦果をあげてくれていた。
彼らをねぎらう意味でも、騎士として召し抱えてもいいだろう。そう思ったのだ。
夕刻になり……書類の山の半分は片付いた。まぁ上々だろう。
「あなた」
執務室にメリルがやってくる。
「もうすぐ夕飯できるから」
「わかった。もうそんな時間になるのか。じゃあ一緒に……あたた、こ、腰が」
イスに座りっぱなしだったせいか腰が痛みを訴える。歩けば楽になるだろうとそれを無視して2人で廊下を歩き、居間へと向かう。
「お前と結婚してもう3~4年がたつのか。結婚したての時はもっと小さかったのにずいぶん背も髪も伸びたな」
「そうね。今年で私は16になるのよ。それくらいたてば成長するわよ。さすがにもう子供じゃないからね」
「ああそうだな。お前が今年で16ってことは俺はもう40、今年で41か。
「『ふわく』って何?」
問うメリルにマコトは滑らかに返す。
「学び続ければ40歳になれば迷うことがなくなる。っていう地球の言葉さ。そこから40になるのを
「ふ~ん。いろいろ知ってるのね」
「まぁお前よりは長生きしてるのは無駄じゃないからな」
マコトは地球にいるころから「無駄に年を取ること」だけはしないよう心がけていた。職場の上司を反面教師にしているのだ。
今のところは人を束ねる者として、その上司よりは知識でも実力でもまともな人間にはなっているだろうとは思っていた。
「ところで、今日の晩飯はなんだ?」
「トマトソースが安く手に入ったからピザでも焼いてみたの。結構上手くできたから安心して良いよ」
「そうか。そいつは楽しみだな」
25歳差の夫婦は
【次回予告】
戦もひと段落して平和な日常が続いていた。
第96話 「一家団欒」
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