第89話 ギャンブル

「勝負だ! 4の3カード!」

「私は7の3カードですね。ふぅ、危ない危ない。もう少しで負けるところでしたよ」

「クソ! まだ終われねえ! もう一勝負だ!」


 酒場「母乳」の一角に設けられた賭場でドワーフの頭領3人組のうちの1人が流れのディーラーとポーカーで勝負していた。

 勝った負けたはあるものの、トータルではドワーフのドルガムの方が負け越していた。


 次のゲームでのドルガムの手は4、5、6、7、8……つまりはストレート。だいぶ強い役だ。


「来てるぜ……よし! MAXベットで行くぜ!」

「良いでしょう。コールします」


 ディーラーも勝負に乗る。


「勝負だ! ストレート!」

「はい残念でした。フルハウス」

「うがー畜生!」

「ドルガムさんはドワーフだから腕っぷしは良いけどバクチはからっきしですねぇ」

「ドルガム! 代われ! 仇は俺が討ってやる!」


 ドワーフ一行は3人とも賭け事には熱くなる性格なのか目の前の男がペテン師だとは気付かない。


 トランプを切ったように見せかけて実は順番が一定になる「フォールス・シャッフル」

 セカンド・ディールやボトム・ディールなど山札の一番上のカードを配ったように見せかけて実は別のカードを配る「フォールス・ディール」

 マジックのネタとしても使われるこの方法はトランプを使ったゲームでイカサマをするのに悪用される。


 彼の手さばきが優秀というのもあるが、ドワーフ一行はイカサマをしているとは分からずにボロ負けをしていた。

 結局この日3人組は食い物にされ、スッカラカンになるまで搾り取られた。


「今日はこの辺にしますか」


 ドワーフ3人組から取れるだけ取った後ディーラーは席を立ち、バーのマスターに金を渡す。


「ではこちらが賭場料と、閣下への税金ですね。ここの国の王はギャンブルにずいぶん高い税金を課すんですね。ギャンブルは退屈な日常に良い刺激となりうるスパイスだと思ってるんですが、迷惑な話ですな」

「私たちは王様の言う事を聞いてるだけよ。文句があるのなら王様に直訴したらどう? 聞き受けられるかどうかは分からないけどね」


 酒場のマスターはそう言って軽く流す。ディーラーの不満げな態度はお決まりのトークだとわかっているのだ。




 酒場「剣と盾」には最近、大げさに言えば「国営」のルーレット台が設置された。

 もっとも実際には国が雇った元流れの女ディーラー1人とルーレット台が1つがぽつん、とあるだけだが。

 ポーカーと違ってイカサマは無い(というか出来ない)し、比較的「長く遊べる」ため人気だ。

 エディも最初は店がうるさくなると否定気味だったが、今では賭場料と人が集まり長時間店に滞在することで酒の注文が増えてホクホク顔だそうだ。


「ようエディ。ルーレットはどうだ?」

「おかげさまで儲かっております。閣下の提案はハズレなしで助かりますな」


 台を見ると10名ほどの客がルーレットに興じていた。

 チンチン、とベルが2回鳴る。BET終了の合図だ。客は球の行方を真剣に見つめる。

 ボールは誰もかけてない「14」のポケットへと入っていった。ため息と落胆の声が漏れた。


「オイ嬢ちゃん! あんたイカサマやってるんだろ!?」

「ルーレットの出る目は神のみぞ知るという物です。イカサマなんてしたくてもできませんよ」

「じゃあなんで俺は5連続でハズレるんだよ! ええ!? 言ってみろ!」


 酒を飲んで気が大きくなった男が自分より15歳は年下の女ディーラーに向かって怒鳴り散らす。


 ルーレットはディーラーが狙ったポケットに球を落とせると信じている者は多い。

 それは「一応は事実」なのだが、たとえ狙った場所に落とせても勢いのついた球が転がって別のポケットに行ってしまうことが多々あり、実践レベルで狙うことは出来ない。

 そもそも球をルーレットに入れるタイミングはBET前であり、客が賭けた目を外すように入れることは不可能である。


「おい嬢ちゃん。大人をからかうんじゃねえぞ。舐めた態度してっとお仕置きだから……」

「おっと兄ちゃん、そこまでだ!」


 ガラの悪い客がディーラーの腕をつかむのを見て、エディが彼のみぞおちに丸太のような腕についた拳をたたき込む。酔った客は「うぐ……」とうめき声を漏らしぐったりと倒れ込んだ。

 バーのマスターは男を担いで店の入り口に捨てに行く。


「お客さん、ここは公共の場です。酒を飲んで気が大きくなってるかと思いますがくれぐれも暴力行為だけはお辞めいただけるようお願いしますね」


 口調は実に丁寧だが、威圧感あふれる図体から発せられるのと、ぶちのめされた客を担ぎ入り口まで捨てに行く光景を見せられたのでは、黙るほかない。


「ああいう客、いるのか? バーのマスターも楽じゃないな。ご苦労なことだな」

「なぁに、戦場に比べりゃ屁みたいなものですよ」


 マコトの問いかけにエディは笑って答える。さすが歴然の猛者。この程度では全く動じない、か。




 自宅に帰るとクルスが疑問を持ちかけてきた。彼は途中までしか見ていなかったが、酒場「母乳」での出来事を父親に問う。


「なぁオヤジ、ギャンブルは禁止しないのか?」

「禁止しても裏でやるやつが必ず出てくるから下手に禁止するより税金かけた上でコントロールしたほうがうまくいくのさ。

 クルス、覚えとけ。下手に禁止するよりも片目つぶって見逃す方がうまくいくこともあるってわけさ」


 国にとって都合が悪い事を下手に禁止しても必ず抜け道を探すか、違法だと知りつつも隠れてやるかのどちらかになる。そこでマコトが採ったのは「課税しつつ合法化する」事である。

 サイコロやトランプ、チップなどギャンブルに使う品物に税金をかけ、さらには許可を得た場所でのみ賭場を開けることにし、そこでも売り上げに応じて税金を取ることにした。

 こうすることで一方的に禁止するよりもうまくコントロールしつつ税金も取れるのだ。


「ふーん、そうか」

「ま、お前も成人したらやってもいいが小遣いの範囲内でやれよ。のめり込んで借金するのだけはやめろよ」

「安心しろって。そこまでのめりこんだりしねーから」


 クルスは不満げに言う。反発はしているが嘘はつかない性格なので多分大丈夫だろうとは思った。




【次回予告】

ついにマコトの悩みの種であった銃対策の案が出る。

だがそれは到底受け入れられるものではなかった。


第90話 「不死隊誕生」

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