ハシバ国包囲網攻略戦

第64話 戦争前夜

「フムフム……なるほどな。こうですかい?」

「そうそう。その感じよ。飲み込みが早いじゃないの」

「まぁ産まれつき魔法には長けてますからな俺達は」


 晩春の頃、森の広場でジャック・オー・ランタンたちがダークエルフの老婆から魔法の授業を受けていた。カボチャたちは円陣を組んで魔法を詠唱していた。


「ありがとうございます。こんな凄い魔法をタダで教えてくれるなんて良いんですかい?」

「礼を言うのは私の方よ。これで魔法と一緒に墓場に入らずに済むから、私も感謝してるのよ?」




「マコト様、グーン国にいる同族からの情報が上がりました。お受け取りください」


 マコトは間者や、ハシバ国に構えた情報局に務めるラタトスクの代表からもらった書類に目を通す。

 どうやって手に入れたのかは知らないがグーン国の軍備に関する情報が事細かに掲載されていた。さすがに「丸裸」とまではいかないがかなり突っ込んだ情報だ。

 マコトはハシバ国包囲網参加国の中では最も国力の低いグーン国を攻め落とし、包囲網攻略の足掛かりにするつもりだ。


「ふむ……敵国の戦力はこのくらいなら……うむ。これなら行けるな。今年の夏、挙兵する! 召集令を出せ!」


 マコトは挙兵を決意した。




 挙兵が決まった後の別の日




「義理とはいえ父親をまるで傭兵団長扱いするとはなぁ。ずいぶんとまぁ人使いの荒い息子だな」

「こういう時に限って父親面して……ちゃんとお金は払いますから我慢してくださいね」

「まぁ俺とお前の仲だからな。例えタダだったとしても喜んで協力しよう」


 他者から見たら憎まれ口をたたいてるようにしか聞こえないが、お互い納得したうえでマコトは上質な羊皮紙で出来た小切手に、金額と自分のサインを書きビルスト国王カーマインに渡す。


 この世界では1200年程前の話だがかつて西大陸を統一支配した大王国があったらしい。

 その国で使われていた通貨「アケリア王国ゴールド」短くしてゴールドが今も各国で流通しており、特に群雄割拠ぐんゆうかっきょで新たな国が出来ては潰れるを繰り返す乱世でも西大陸内ならどこでもほぼゴールドだけで決済できる。

 古王国の流れを引き継ぐ組織と各国の王による共同作業で古王国自体は滅んだがゴールドの信頼性は維持できている。地球で言うなら「ユーロ」みたいなものだ。


「じゃあ我々は予定通り挙兵しますのでカーマインさんも準備を進めてくださいね」

「おう。任せとけ」


 交渉成立だ。互いに固い握手を結び、準備に取り掛かる。




「敵包囲網の1つ、グーン国は王のギーシュとその部下で地球出身である元異界の王、ネクという2人が主力です。ただ、仲は最悪でしょっちゅう小競り合いをやっているそうです」


 マコトは内定からの報告を聞いていた。

 異界の王が別の王の配下に加わることは決して珍しい事ではない。

 地球からやってきた王のうち、領土を失い流浪の民と化した者を別の王(多くは異世界現地の王や貴族)がその能力を買って配下にすることが結構あるのだ。


「ギーシュか、確か伏兵の使い手だと聞くが地球出身の王まで抑えていたとはな」

「フム。閣下、あの手が使えそうですな」

「ああ。そうだな」

「閣下、ディオール様、あの手とは?」


 兵が2人に気になった事を問う。「あの手」とは何だろう?


「なに、俺達と戦う前に『戦わせればいい』だけの話だ」

「戦わせればいい? あの、おっしゃる意味がよく理解できないのですが」

「理解できなくても大丈夫だ。俺やディオールの発案だから。下がって良いぞ」


 マコトは兵を下がらせ、ディオールと共に話を詰める。




「へー、なるほどね。戦場でギーシュの野郎の首を持ってくればいいのか」

「はい。もし持ってくれるのでしたら我が国の領土をある程度割譲いたしましょう」

「悪くない話だな。よし、乗せてもらうぜ。暗殺したくても警備が厳重で手が出せないからどうしようかと悩んでたんだが、これでうまくいきそうだな」


 ハシバ国の間者から武器や保存食、それに神霊石をもらい、上々の顔をしてネクは答える。裏切る気満々だ。

 戦の季節はもうそこまで迫っていた。




【次回予告】


ついにハシバ国軍がグーン国軍と衝突する。

伏兵に長けるという相手にどう立ち向かうのだろうか。

第65話 「グーン国攻略戦」

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