第22話 裏切り 後編
城壁を攻めていたミサワ国やランカ国の兵士がどよめきだし、統制が大きく乱れ始める。異変を察知した王は配下に何が起こったのか問いただす。
「何事だ!? 一体何が起きている!?」
「閣下! 緊急事態! 後方より敵の伏兵および別働隊が多数出現! 包囲されました!」
「何だとぉ!?」
返ってきたのは絶望的なメッセージ。
隠れていたマコトの軍隊が自軍の背後から奇襲を仕掛ける! 王達の顔面から血の気がさぁっと引く。
しまった。
と思った時にはもう手遅れであった。守衛が手薄なのは慢心を産むための罠だったのだ。
「相手は散開している! 一点集中で突破しろ! 活路を開け!」
王は慌てて指示を出す。助かりたいがために。
「全軍進撃! 敵将を討ち取れ!」
ディオール率いる民兵と傭兵たちが斧と槍を構えて敵陣に向かう。突撃ラッパのメロディと共に力強く大地を蹴り、敵軍へと突撃していく!
「総員構え、放て!」
エルフェンの合図でダークエルフ達が放った魔法の矢は空中で分裂し、広範囲に降り注ぐ。さらに突き刺さった矢の先から強烈な電撃が流れ、鉄の鎧を貫通して肉体を直に感電させる。敵の兵士たちがバタバタと倒れていった。
「叩いて潰せえ!」
「ブモ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
ミノタウロス達が雄たけびを上げる。筋肉の壁とも言える猛牛の群れが迫る。それは並みの兵では止められない剛腕で相手を次々と打ち倒していった。
「よし! 総員構え! 放て!」
とどめにマコトが城壁の上から矢を浴びせる。逃げ場を失い、軍の前後から矢を浴びせられる敵軍は見る見るうちに弱っていった。
ダークエルフ達の魔法の矢が飛んでくるたびに、死のシャワーを浴びて前線の兵がごっそり減る。生き残りもミノタウロスの暴力でなぎ倒される。
包囲網が敵国の王目がけてじわりじわりと狭まってくる。それは大鎌を構えた死神が一歩ずつ、だが確実に迫って来る足音であった。
「何をやっている! 早く活路を開け!」
「閣下、それが敵に怯えて皆動けません!」
「オイ! 聞いてないぞ! あんな戦力を隠し持ってるなんて!」
「うるせえ! オレに聞くな! お前こそろくに下調べもしないでオレに丸投げしたじゃないか!」
包囲網が迫り、怯える中で自己保身に走って責任を互いになすりつけ合う王たちのために、道を切り開くほど忠誠心の高いものはいない。
「こうなったら最後の手段だ」
「そうだな」
ミサワ国とランカ国の王は神霊石を取り出し、そして命じた。
「「王が命ず! 我が家臣たちよ! 最後の1兵になるまで敵と戦え!」」
王の言葉と共に持っていた神霊石が砕け、粒子状になって戦場全体に降り注いだ。
「な、何だ!? こいつら死ぬのが怖くないのか!?」
異変に気付いたのは別働隊の最前線にいる兵だった。
敵の前にはパルチザンによる
そこに突っ込むような勇敢な者はそうはいない……はずだった。それが先を争うように前へ前へと突進してくる!
急に勢いづく相手にマコトの軍勢はとまどい、焦りだす。
「何だ!? 急に兵士が突っ込み始めたぞ!?」
城壁の上から戦場を見ていたマコトの目に映ったのはそれまで明らかに怯えてうろたえていた者たちが、急に恐れが吹き飛んだかのように戦いはじめる光景だ。
それを見て彼は噂には聞いてた地球から召喚された王だけが持つ特殊能力を使ったのだと勘付いた。
(まさか、これが王の勅命の力か!?)
王の勅命、それは神霊石を消費して王と契約を交わした配下たちに「絶対に逆らえない命令」を下す地球から来た王なら誰もが持つ能力の1つ。
単純に行動を指示するだけでなく恐怖心を消すなど一種の洗脳に近いことも可能で、直接契約を交わした者以外にもその配下、いわゆる「配下の配下」も対象に含まれる。
マコトは言葉を選ぶ。神霊石を消費して配下に「絶対逆らえない命令」を下せる王の勅命は効果絶大だがその配下たちは命令された内容は覚えている。 下手な命令を下せばそれまでの信頼が一気になくなる両刃の剣でもある。
少し悩んだ後、マコトは神霊石を取り出し、王の勅命を発動させる。
「王が命ず! 我が家臣たちよ! 敵に恐怖することなく戦え!」
神霊石が砕け散り、戦場全体に降り注いだ。
効果はすぐ現れた。
それまで死んだ魚の様な瞳をしながら無表情で襲い掛かってくる敵兵にうすら寒い恐怖を感じていたが、それがきれいさっぱり無くなった。
今ならやれる。マコトの軍勢は皆そう思った。
恐怖に怯えることが無くなったハシバ国軍はミサワ国、ランカ国同盟軍を飲み込んでいく。
「恐れるんじゃないよ! 数では有利だよ! 雄たけびを上げてアタシに続きな!」
「おいらたちの大将を信じろ! 行くぞ! ついてこい!」
お虎とゴブーも配下に指示しつつそれなりに戦果をあげていく。
他の部隊も敵将目がけて敵の兵たちを蹴散らし、総大将が目で見える場所にまで進軍する。同盟軍の王達とマコトの軍を遮るのは線で引いた様な守りしかなかった。
「畜生! 駄目なのか!?」
「おい! どうすんだよこれ!」
2人の王たちは悲鳴に近い声を上げる。同盟軍の数はどんどん数が減ってゆき、やがて瓦解した。王の勅命を受けて強制的に戦わされてはいるが、無駄なあがきなのは目に見えていた。
「た、助けて、助けて! 命だけはとらないでくれ! この通りだ!」
「わ、分かった! 俺が悪かった! 従属しても良い! だから命だけは頼む!」
「閣下に
「俺達を潰そうとするのなら、自分も潰されるのを覚悟の上でドンパチ仕掛けてきたんだよなぁ? 違うか?」
命乞いする2人の国王だったが、当然許してはくれなかった。
エルフェンは腰にさげていた剣を抜きミサワ国王の首を
「ミサワ国が滅亡しました」
「ランカ国が滅亡しました」
マコトのスマホにはそんなメッセージが書かれていた。
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