第12話 移民

 暖かいというよりは少し暑い位の陽気になってきた、ある日。

 王の間でオヒシバと石工、大工、レンガ職人達の頭領を務めるドワーフ3人組がマコトと謁見していた。


「王様の指示で言われていた農地の整備にある程度のめどがつきました」

「親方、言われてた増産態勢が整いました。後は人さえ入れればいつでも稼働できますぜ」

「分かった。ご苦労だったな。引き続き規模の拡大を頼んだぞ」


 去っていく彼らを見てマコトはようやくこの時が来たかと感激していた。


「いよいよか……」


 マコトの国、ハシバ国ではようやく農業や産業の基盤が整い、本格的に移民を受け入れる態勢が出来た。


「フム……工作ですか。資金はどうなさいますか?」

「ああ、ようやく銀行からの融資が下りたんだ。当面の間は大丈夫だ」


 ディオールと話をする前にマコトは移民を集めるためいくつか策を考えていた。

 まず狙いはアレンシア国、次いでミサワ国とランカ国。アレンシア国は重税と圧政を敷いているし、ミサワ国とランカ国も軍備強化の資金をねん出するためにだいぶ重い税を課しているらしく、それを嫌った住人達が国外逃亡をしているらしい。

 表側では広く移民を募集する傍らで、彼らを手助けしてマコトの国であるハシバ国に引き入れるための工作も同時進行で行われていた。


 そんなある日、ランカ国国境にある関所で動きがあった。


「おっと待ちな。お前たちを外に出すわけにはいかないなぁ」

「……これで」


 そう言って領民はハシバ国の間者からもらったワインを5本渡す。


「……へぇ、かなりの上物じゃねえか。通だねぇ。OKわかった。通ってよし」


 ワイロを渡すことで10名の領民が無事に国を抜け出した。




 その日の夜中。ハシバ国の偵察担当が関所の様子を探る。


「グオオオオオオ……」

「んがあああああ……」


 予想通り、関所に詰めていた兵士全員がいびきをかきながら寝ていた。ワインに混ぜた睡眠薬が効いたのだ。そこに昼間、この時間に集合するように伝えていた領民たちが集まる。


「今です。兵士たちが目覚めないうちに行きましょう」


 そう言って70名ほどの難民たちを引き連れ、新天地へと先導していった。

 同様の手口でミサワ国やアレンシア国にも工作を行い、着実に国民を増やしていった。



 後日……



「マコト! 噂じゃお前が領民の国外逃亡を手助けしているそうじゃないか! どういうつもりだ!」

「証拠はありますかね? あくまで噂話じゃあありませんか? 失礼ですね。同盟国にそんな非道な事をするわけがないじゃないですか」

「ぐぐぐ……」


 ランカ国とマコト率いるハシバ国の外交に関する首脳会談でひと騒動が起きた。ランカ国側がハシバ国の工作の噂話を聞いて抗議したが、マコトは何食わぬ顔でやり過ごす。

 『外交とはテーブルの上で握手しながら下では足の踏みつけあいをする事である』

 ディオールに仕込まれたしたたかな、ある意味ふてぶてしいとさえいえる態度が光る。これも単純だが重要な外交術の一つだ。


「とにかく! アレンシア国のこれ以上の横暴を許すわけにはいかない! 引き続き奴を監視する。動きがあったら即座に対応できるように連携を強めてもらいたい。以上!」


 ひと騒動あったが何とか無事に会談は終わった。




ハシバ国へと帰る途中、ディオールはふとマコトに気になる事を尋ねてきた。


「閣下、ずいぶんと王らしくなってきましたな」

「? そうか? まぁ人が増えてきたから、ってのもあるがな」

「リシア国の王も正直最初は頼りなかったですが、最後は立派な王になられていました。それに似ています。成長の速さでは勝っているとも思いますぞ」

「そうか。でも褒めても給料は上がらんぞ」

「閣下ならお判りでしょうが、そう言う意味で言ったわけではありません。率直な感想を述べただけですぞ」

「ま、俺もそれだけ王らしくなったって事か。ありがとな」


新たに仕えた王は着実に成長している。いつの日か、かつての王だったリシア国の王をも上回るだろう。あの時は守れなかったが、今度こそは守りたい。そう思いながら共に歩いていった。

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