第49話

「きゃあっ!」

 胸元から腰まで服を引き裂かれ、四葉ヨツハは羞恥に悲鳴をあげる。


 幸い下着まで手がかかっていなかったお陰で全てを晒す事にはならなかったが──

 白い肌が剥き出しになった四葉ヨツハは、身体を閉じようと身をよじる。

 しかし、掴まれた手首は外れる事はなかった。


「オイオイ、友達がこんなんされても構わないってか。酷い男だなぁ」

 肩を震わせて笑う天龍テンリュウ

 四葉ヨツハは涙を浮かべてその顔を鋭く見上げた。

「そんな事ないっ……」

 歯を食いしばって反論する四葉ヨツハに、天龍テンリュウは侮蔑の視線を落とす。

「お前アイツに何期待してんだよ。やっぱお前も女なんだなぁ」

 下卑た笑いを口に浮かべ、天龍テンリュウ四葉ヨツハの下着に手をかけた。


「やめろ!」

 ポテトガンを携えた真輔シンスケが、天龍テンリュウから少し離れた場所に立っていた。


「あー。状況か分かってねぇのかな? 手にしたそれは捨てろ」

 天龍テンリュウは、四葉ヨツハの下着に手をかけたまま、真輔シンスケにそう告げる。

 四葉ヨツハは声を出さずに小さく横に首を振ったが、真輔シンスケは手にしたポテトガンをそっと床に置いた。


「おら、こっち来い」

 手招きされるまま、真輔シンスケ天龍テンリュウ四葉ヨツハの方へと歩み寄る。

 そして──


 振り抜いた天龍テンリュウの拳をまともに食らった真輔シンスケは、吹き飛んで積まれた段ボールに突っ込んだ。


 強烈な痛みと激しい目眩で、真輔シンスケは起き上がれなかった。

 なんとか手をついて立ち上がろうとするが、歪む視界と回る頭がそれをさせてくれない。


 なんとか段ボールから這い出たものの、真輔シンスケはそのまま床に突っ伏してしまった。


「弱ぇ! お前そんなんでよく『男』やってられんな!」

 やっと思い切り人が殴れた爽快感に、天龍テンリュウは哄笑する。

 四葉ヨツハを床へと放り出し、床に倒れこんだ彼女の胸を踏みつける。

「余計な手出しすんじゃねぇぞ。さもないと服を剥くぐらいじゃ済まさねぇからな」

 踏みつける足に力を入れて四葉ヨツハを脅迫した。


 なんとか意識だけは手放すまいとしている真輔シンスケの髪を、天龍テンリュウは掴み上げて上を向かせた。

「おう、好き勝手やってくれたな。簡単に楽にしてもらえると思うなよ?」

 髪を掴んだまま無理やり真輔シンスケを立たせると、なんとか抵抗しようとする彼の腹に思い切り拳をメリ込ませる。

「ぐふっ……」

 真輔シンスケの口から息が漏れた。

 そのまま一緒に込み上げてきたモノを吐き出す真輔シンスケに、おっとと笑いながら身体を捩って吐瀉物を避ける天龍テンリュウ

 楽しくて仕方ないといった顔だった。


 更に硬く拳を握り込み、腕を振り上げた。


「子供相手に何してんだい外道ッ!!」

 妙齢な女性の怒声が響き渡る。

 折角の楽しい時間を邪魔されて、天龍テンリュウは声の主を激しい憎悪で睨みつけた。


 離れた場所で仁王立ちする老婆──胡桃クルミ京子キョウコの姿を捉え、唾を吐き捨てた。

「老害は大人しく墓ン中で寝てろ」

 加勢が現れようと、天龍テンリュウは自分の優位を疑わない。

 例え老婆の1人が加わったところで、何も事態は変わらないと、天龍テンリュウはそう考えていた。


 が。


「弱点教えてくれてありがとね」

 恐ろしく冷たい声がすぐ側からした。

 老婆──胡桃クルミ京子キョウコに気を取られ、脅迫しておいた筈の少女の動きに気づかなかった。


 四葉ヨツハは手にしたスタンガンのスイッチを入れ、すぐさま天龍テンリュウに飛びかかった。

「そんなの効かねぇって言って──」

 天龍テンリュウは、真輔シンスケの身体から手を離し、四葉ヨツハを捕まえようと手を伸ばす。

 しかし、背中に回り込んだ彼女には手が届かなかった。

 そして──


 唯一肌を露出している首めがけ、四葉ヨツハは火花散るスタンガンを押し付けた。



 スタンガンが放電を終えるまでソレを押し付けられて、声も上げられず身体を硬直させた天龍テンリュウは、ばたりと床に倒れこんだ。

「本当に、この服絶縁効果があったのね……」

 天龍テンリュウにしがみついたままスタンガンを当てた為、自分も感電する事を覚悟していた四葉ヨツハ

 放電し尽くして沈黙したスタンガンを、倒れた天龍テンリュウの上へと放り投げた。


津下ツゲくんっ」

 床に倒れこむ真輔シンスケに駆け寄った四葉ヨツハは、彼の身体を揺すって声をかける。

「気持ち悪いから揺すらないで……」

 弱々しい声で、真輔シンスケ四葉ヨツハに懇願した。

 その声に、四葉ヨツハはほっと胸をなでおろす。

 彼の背中にそっと手を置き、彼の耳元へと顔を寄せた。

「ありがとう…真輔シンスケくん」

 四葉ヨツハは、頬が赤くなるのを感じながらも、助けてくれた少年の名前を、愛おしそうに呼んだ。



「大丈夫かいっ?!」

 慌てふためきながらも近寄ってきた胡桃クルミ京子キョウコは、真輔シンスケを心配しながらも、手にしたガムテープを思いっきり引き出していた。

「先にこっちを片付けちゃうからね」

 笑顔でそう告げ、手にしたガムテープで天龍テンリュウをぐるぐる巻きにする京子キョウコ


 まるで使い終わった食器を片付けるかのようなその口調に、四葉ヨツハは少しだけ彼女が怖いな、と思った。

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