急
第42話
とある無駄広いマンションの一室。
気怠い空気が相変わらず部屋に充満していた。
カウチソファの上でダラリとダラシなく寝そべる大男。
ダンボールや散らばった細かいコードや機材、そして1人の美女に囲まれた痩せぎすの男。
じっと窓の外を睨む女。
誰も彼もがお互いの事に興味がなく、空気のように扱っていた。
最初に言葉を発したのは、痩せぎすの男だった。
「動いたぞ!」
端末画面に映された地図に、ピコピコとアイコンが複数表示されている。
その横の別のウィンドウには、人がマンションの入り口からぞろぞろ出てくる姿が映し出されていた。
「いよいよか!」
カウチソファに寝そべっていた大男が、飛び起きて自分の拳をガッチリと握りしめる。
腰を浮かせようとして、1人動かない女の背中に気がついた。
「おい
大男──
ただ、ひたすら夕焼けに彩られる街並みを見下ろしているだけ。
「おい
無視されて
立ち上がって
そして一言
「待機だ」
それだけを告げてまた夕焼けの方へと視線を戻してしまう。
「はぁぁ?! 何言ってんだオメェ。あちらさん動いてんだぜ? なんで行かないんだよ! 逃げられるぜ!」
端末画面と
すると
「監視アプリも問題なく稼働してるんだろう。ならどこへ行っても分かる。問題あるか?」
彼女の低くゆっくりとした声に、焦っていた自分が気恥ずかしくなるタカ。
そうだけどよ、とブツクサ文句を言いながらもそれ以上は追求しなかった。
視線を戻すと、横でニコニコしていた美女──
「笑ってんじゃねぇよ!」
左手で彼女の頬を思いっきり殴りつけた。
殴られてヨロけた
「はい、申し訳ありません」
変わらずニコニコといた顔で謝罪するだけだった。
膝で貧乏揺すりが始まる。
納得できない。
しかし、ボスの言う事は絶対だった。
勝手に動けば、何をされるか分からない。
再び、部屋に沈黙が舞い降りる。
今度は酷く息苦しい沈黙だった。
しかし、彼女の目には、オレンジに焼ける街並みは写っていなかった。
オレンジに焼ける街並みのその先──記憶と想像の中で──
手を伸ばすオートマトン。
その手を振り払い、メチャメチャに破壊する事だけを繰り返し繰り返しイメージし続けていた。
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