NM-004

 貴女のせいではありません。



 何度この言葉を発しただろうか。


 テレビから流れるニュースに心を痛める彼女の姿を見て、慰めにもならないと判断するが、その言葉を発するしか出来なかった。


 歴史は何度も繰り返す。


 何十年か前に、過去の出来事を反省して全てを見直し、国民一丸となって国を立て直した筈なのに。


 時代は流れ平穏を取り戻すと、何故かまた時代は良からぬ方へと流れ始める。


 上手くいかない出来事に、過去の成功体験を基にした根拠なき行動をとる。


 その時とは時代も風習も人々の意識も何もかもが違うというのに、

 何故人はそうせずにはいられないのか。


 人間とは不可解な物体である。



 何処で間違えてしまったのだろう──



 何度となく呟かれる彼女のその言葉に、明確な回答を示す事が出来ず、同じ言葉を繰り返すしか出来ない。


 貴女のせいではありません。


 テレビのニュースからネットの情報記事、ラジオからデモに至るまで、

 彼女を攻撃する言葉は矢のように降り注いでくる。


 論理的に考えたなら、彼女を攻撃するのは筋違いというものである。


 しかし、攻撃者たちはそれに気づかない。



 気づけないし気づこうとしない。

 気づくべき事だとも思っていない。


 ただ、感じる不満を解消したいだけ。



 そういう事なのだと判定したのは、彼女の家が炎に包まれた時だった。


 足の悪い彼女はきっと──



 その時、記憶路から有益な情報が検索されてくる。


『時を遡る装置の開発に成功。

 ラットの実験は問題なく、次はもっと大きな生体を使ってのテストを敢行予定』


 情報を確認してすぐ、その開発した企業の元へと赴いた。


 するべき事は一つ。

 複数の可能性の中で、一番有益な事を実行する。


 放火される前に戻っても意味がない。

 彼女を攻撃する手は、彼女が存在する限り緩む事はないだろう。


 それであれば──


 



 例え私が──ても、──────。


 何故ならば、それが私の──

 私を家族と言ってくれた貴女自身が

 ──存在意義なのだから。

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