第28話
行動起因判定処理に負荷がかかり、
暴力事件発生中。介入不可。
暴力事件発生中。介入不可。
暴力事件発生中。介入不可。
例えそれが、借主に危険が及んでいる場合でも。
企業への連絡通信。エラー。接続不可。
警察への連絡通信。エラー。接続不可。
緊急時対応メソッドへの通信。エラー。接続不可。
通常、事件性が認められた場合、所属している企業と警察へ連絡したのち、その場を離れるようにプログラムされている。
しかし、未来のシステムで組まれた
連絡出来ない場合の行動規範への情報アクセスも出来ない。
借主への接触。現在暴力事件発生中の為、選択エラー。
企業や警察への連絡不能の場合、近隣にいる人間へと依頼し通報する。現在近隣に人間なし。エラー。
守る?
──暴力事件発生中の為、関連していると思われる人物への接触不可。エラー。
追いかける?
──借主、もしくは借主の自宅から100m以上離れる事は、企業及び借主自宅へと戻る時、留守番などの待機命令時以外は不可。エラー。
子供たちを──どうすればいいのだ?
「うぐぅッ……!」
全身に電流が駆け巡る痛みに、
電流から解放された直後に
全力疾走した後のような絶大な疲労感と痛みに顔を歪めた。
その様子を少し離れた場所で見ていたタカは、チラリと立ち尽くす美女──
「やっぱりか」
「おい! グズ! こんな所で何してんだ! 説明しろ!」
苛ついて額に青筋を立てつつ、棒立ちする彼女を怒鳴りつけた。
しかし、
離れた後は、また呆然と立ち尽くしてタカと
「
詰まって上手く声が出ない
しかし、
「
タカが、離れようとする
離れようとはしたが、手首を掴まれても
「グズ、お前なんで言う事聞かねぇんだよ」
タカの振り上げた右手が、
叩かれてもなお、
「お前……」
そこでふと、タカは違和感を感じる。
いつもと違う。
何が違う?
何処が違う?
──あ。
「ちっ……制御装置が取れてんじゃねぇかよ」
彼女の細い首を見て、そこにあるはずのものがなくなっている事に気づく。
成る程。
だから初期化されて言う事を聞かないのか。
大方、過去へ移動した時に何かがあって外れてしまったんだろう。
納得したタカは、
「オラ、さっさと登録しろグズ」
顔を間近に寄せられると、
しかし、さほど強い力でもない為、タカの腕は外れない。
本当に抵抗しているワケではなかった。
「出来ません。現在既に登録中。登録情報変更には、一時企業への返却が必要となります。申し訳ありません」
タカの顔を真っ直ぐに見返して、
「あっそ。じゃあいいわ」
解放された事により、すぐさま距離を取ろうとした
「あとでまたゆっくり可愛がってやるよ」
いやらしく、下卑た笑い方をして舌舐めずりしたタカは、腰についていたポケットに手を突っ込んだ。
すぐに引き抜いたその手を、
バヂンッ
激しい電流音がした直後、
「
膝に手をかけて何とか立ち上がった
歯を食いしばり、痛みと疲労感で笑う膝に力を入れ、
しかし、その事にすぐに気づいたタカは、体を翻してタックルを避けた。
自分の体の勢いすら殺す力が残っていない
「触んじゃねぇ!」
途端、激昂するタカ。
起き上がれない
すかさずタカは
「コレは俺ンだ! 気安く触んじゃねぇよ!」
腹を蹴られて息が詰まる
苦しさにお腹を抱えてその場に
タカは、動けない
「たかが道具に入れあげてんじゃねぇよ気色悪い」
そう吐き捨てて、タカはインカムのスイッチを入れた。
「こちらTK。目標ロスト。代わりに無くしたモノ回収。一時帰還するわ」
一方的に報告を入れてスイッチを切る。
そして、
倒れた
「
呼びかけるが、返事はなかった。
返事の代わりに
「緊急コード確認。入力された座標へと移動を開始します」
機械じみた抑揚のない
傀儡が糸を引っ張られるかのように不自然に起き上がった
「さてと」
よっこいしょと言いながら立ち上がったタカは、起き上がろうとする
「ぐぅ!」
走った痛みに顔を歪めて地面に転がる
そんな彼を、再び嗜虐的に妙な熱を持った目で見下げる。
「人のモノにベタベタ触った代償は払ってもらうぜ」
そう言うや否や、タカはゆっくりと両手を広げた。
その瞬間、今まで彼の頭上でクルクル回って待機していた
「死なない程度にしといてやるよ」
ゆっくりと舌舐めずりし、タカは腕を振りさげた。
その瞬間──
ブシャァッ
容赦ない放水が、
水の一撃を食らった
「なっ……」
予想外の出来事に、タカは地面に転がった
拾い上げて付いた水滴を拭くが、くぐもったショート音をさせるだけで、独楽は動かなくなっていた。
「あらまァ。防水仕様ではないのかい? なんて雑な作り」
コロコロと笑う妙齢の女性の声が、タカの背中の方から浴びせかけられた。
慌ててそちらへと振り返り、タカはギリリと歯軋りした。
「婆ァ……」
そこには、大量に水を垂れ流して小さな虹を作るホースを手にした、
「ま、アタシのセンサー壊したお返しだよ。ありがたく受け取りな!」
すかさず
腕で顔を庇いつつ、タカは
しかし
「このォ!」
全身の残りの力を振り絞った
膝カックンの要領で地面に崩れ落ちるタカ。
なんとか地面に腕をついて顔面から着地するのは防いだ。
「離せクソがっ!」
膝に抱きつく
転がって離れたタカは、怒りに震える拳を地面に叩きつけてから立ち上がった。
「婆ァ……テメェ……」
「あらあら。水も滴るなんとやら──とはならないねェ。残念だこと」
相手の怒りなどどこ吹く風とばかりに、
しかし、次の瞬間には剣呑とした目つきに変わる。
「早朝といえど、騒ぎを聞きつけて人が集まってくるよ。さっさと消えな」
その言葉に、タカは目だけで周囲を伺う。
確かに、近隣の家からは人が動く音が聞こえ始めていた。
「ちっ」
「覚えてろよ婆ァ!」
雑魚敵さながらのセリフの吐き捨てて、タカは走って逃げて行った。
「最近物覚えが悪いから保証はできないね!」
そんな彼の背中に言葉を投げつけ、
蛇口閉めてホースを地面に起き、
「大丈夫かい、アンタ。アイツに酷い事されてたようだけど、ひょっとして……」
肩で息をしながら、敵が消えた事に安堵して地面に大の字になる
誰だろうと
「りっちゃん──
その言葉に、
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