第27話
夏の朝は早い。
4時を過ぎた頃から空が薄く白み始めて深い紫の色が追いやられていく。
小鳥がさえずり始め、締め切られたカーテンの隙間から柔らかな陽の光が漏れ始めた。
そんな時分、突然カッと目を開いたのは
腰から伸びるコンセントケーブルを引っこ抜き、服を整え急いで
そのドスドスという衝撃のような足音に、周りで眠っていた人間たちも目を覚ました。
「マスター。起きてください」
ヨダレを垂らしながら口を開けて眠る
「まだもうちょっと食べたい……」
夢から覚醒し切れない
「夢の中でのお食事中失礼します。マスター。ご報告したい事が」
無理やり
グラングラン揺れる
「どうしたんだ……?」
少し離れた所に眠っていた
「先生。工場内の電圧が急激に低下しました。何者かが工場内の電力を使用しています」
変わらず落ち着いた渋い声ではあったが、心なしか緊迫した雰囲気を醸している。
「誰かが工場内の機械のスイッチ入れたんじゃないの?」
起きたてとは思えぬしっかりとした口調で、
しかし、それを否定したのは
「こんな早くにONにする事はないよ」
そう、いくら辺りが明るくなってきているとはいえ、夏の朝だ。工場を稼働させるには、時間的にはまだ早朝過ぎた。
「じゃあ気のせいじゃないの……?」
ようやく覚醒してきた
ふぁぁと大きな
埒があかないと気づいた
「
素早い彼の動きにビクリとした
「え……? あ、あるよ。工場の入り口に1台と、事務所内に1台、あと場内に2台……あ、母屋の入り口の方にも1台」
「クラウド型ですか? クライアント型ですか? ロックはかかっていらっしゃいますか?」
「……どうかな。多分ネット接続はしてないんじゃないかな……爺ちゃんがそういうの苦手だし。設置したのは父さんだけど……ロックはしてないかも。してても初期値のままなんじゃないかな。クラウドじゃないし……」
「この部屋にルーターはありますか?」
「テレビの横に……」
それを聞いて、
「無線型……」
そこに気づいて
「この家の無線LANからホームネットワーク上へ誰かが侵入している可能性があります。直ちに移動する事をお勧めします。それに……」
予想だにしていなかった為、あまりの近さに
「
言われてポケットに入れていたスマホを取り出し、
「あつっ……」
スマホが熱を持っている。
「カメラが起動しています。盗撮アプリが入れられておりますね」
「どういう事?! 突然何?! 説明しなさいよ!」
今まで、手鏡で身なりを整えていた
「今は説明している時間はありません。我々は監視されています。このままここにいたら、
その言葉を聞き、
そして
迷惑はかけられない。
二人の男たちが足早に動き出す。
「よく分かんないけど……とにかく行こう!」
さっきまでボンヤリしていた
それに続く
工場の二階──工場の天井は通常家屋より高い為、実質三階──から、外階段で足早に降りていく
金属製のその階段を降りていた
「どうして──」
急に立ち止まったの?
そう聞こうとした
金属製階段の終了地点すぐそばに──
グレーの袖なしパーカーのフードを目深に被り、ポケットに手を入れて仁王立ちする女──
「あなたはっ……」
彼女の脳裏に、先日
「さ。遊ぼうか」
フードを下ろした彼女の顔は、その言葉の意味とは反して無表情であった。
冷めた目で
と、その時。
ズシャァン!
金属の塊がコンクリートにぶつかるような音がする。
最後尾にいた
着地したコンクリートは盛大にヒビ割れクレーターのようになる。
「脚部損傷率17.4%……即時稼働に問題なし」
そして、階段前に立つ
瞳孔が鋭く紅く光る。
「目標確認。排除します」
短距離走のクラウチングスタートのような体勢でそのまま地面を蹴り、砲弾のような勢いで真っ直ぐに
無表情のままの
しかし、それに反してグローブやブーツから蒸気を立ち上らせて、
「廃棄寸前のスクラップがっ……」
そう憎々しげに呟き、
「今のうちよ!」
そう叫ぶ
先頭を走る
先ほど妹の背中を押した
兎に角
自分の命が狙われている。
その恐怖は尋常じゃないほど彼女を駆り立てる。
「
だんだん引き離される
しかし、
「!!」
走っていた
勢いがつき過ぎていて、転んでも暫くゴロゴロと道を転がった。
「いったぁ……」
全身に走る痛みとデコの痛みに
「
そこへ慌てた
最初蝉かと思った
不自然に周囲を飛ぶその物体は6つ。
暫くの間5人の周囲をグルグルと回ったかと思うと、何かに呼ばれたかのように一方向へと飛んで行った。
「……!」
その変な飛行物が飛んで行った先には、ヨレたシャツに痩せぎすの男──タカが立っていた。
黒い手袋を両手に嵌め、オーケストラの指揮者のように両手を不自然にあげたその男は、下卑た笑いを顔に張り付かせて5人を見ていた。
「よォ。待ってたぜ。ま、こんなのに体当たりされたぐらいじゃ、別になんともないだろ」
赤くなってきたデコを押さえつつ起き上がった
「さーてとォ。どう料理してやろうか……ん?」
ヒビ割れてカサカサな唇を舌舐めずりしたタカは、ふと、その視線を
「お前……」
凝視されている当の
タカの疑問が確信に変わる前に、
立たせた
「早く逃げるんだ!」
「
緊張感なくその場にただ淑やかに立つ
「逃すかよ!」
頭の疑問を打ち消したタカは、右手を高く頭上に掲げる。
すると、彼の周囲を回りながら飛んでいた
「取り敢えず動けなくしてやるわ!」
彼のその言葉と振り下ろされた右手の動きに応じて、飛び上がっていた3つの
「わっ!!」
通り過ぎた
「……ッ!」
再度空中で大きく弧を描き飛んでくる
バヂンっ
彼の背中に命中したソレは地面に落ちてバウンドし、再度空中へと戻っていく。
「3つだけじゃないぜー。気を付けなー」
ニヤニヤし、楽しくて仕方ないといった口調のタカ。左手を
しかもその隙に
「きゃぁ!」
逃げ出そうとしていた
「
彼女の肩を支えつつ、再度空中へと戻って行く
「先生! こういう時は操縦者を狙って!」
その言葉に成る程と納得した
「そうはいくか!」
タカは両手を自分の体の前でクロスさせる。
すると、今まで
「今のうちに!」
しかし
「チッ……」
走り去る3人の背中を目で追いながら、タカは小さく舌打ちした。
そして、足元に転がる
「邪魔なんだよオメェ」
タカが一歩下がって両腕を広げると、その動きに応じて
「まァ、殺しゃあしないよ。後が面倒だからな」
顔を
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