SF-002
今まで、私達を恋人のように扱ってくれる人間は沢山いました。
それが私達の用途だから。
今までの借主の情報は、他の同型オートマトンの情報と並列化し、アーカイブ化されて外部ストレージに保存されています。
借主達は、様々な理由で私達をレンタルしました。
恋人気分を味わいたい方
異性との関係の練習
異性との行為の練習
相手に尽くされたい方
相手に自分の思うように尽くしたい方
ストレス発散
人間には向けられない個人的欲求を叶える為
私達の用途は恋人として、
借主達の恋人として、
借主達の希望に沿って、
借主達の願望を叶える事。
借主達の好みに合わせて、
口調を変え
笑顔を変え
態度を変え
時には筐体──身体も変え
全てを相手に合わせて来ました。
──まずは友達から。
今までもそう言われる事も勿論ありました。
しかし、そう言う口で、借主達が望むのは、一般的な友人としての立場ではありませんでした。
なので私達が『友人』と言われると、それは『友人から恋人に徐々に距離を縮めるシチュエーションを楽しみたい』という意味として取ります。
しかし、彼の意図する『友人』は、どうやらソレとは違うようです。
彼は私に何も求めません。
対人関係での要望を何も口にしません。
一度、対応について指摘された為『承知しました』と言ったら、彼は眉を八の字に歪ませつつ口角を上げて
「嫌なら承知しなくていいんだよ」
と言いました。
そして、彼はこう続けたのです。
「君が思うようにしていいんだよ」
と。
『思うように』とは、どうすれば良いのでしょうか?
何故か今は、外部ストレージから情報を引き出す事も、会社に確認や問い合わせの連絡を入れる事も出来ません。
なので私は単体で判断を下さねばなりません。
私達には、意思も好みも存在しません。
出来るのは、並列化された膨大な人間の趣味嗜好から、最適と判定される選択肢を選ぶ事だけ。
それが出来ない今は、彼が『こうして欲しいだろう』と、彼の今までの行動情報から可能性の一番高いものを選んで行動します。
しかし、彼は時々こう尋ねるのです。
それは、君がやりたい事なのかな?
私のやりたい事?
判定エラー。最適情報がありません。
判定エラー。最適情報がありません。
判定エラー。最適情報がありません。
私が固まると彼は私の手を取って、低く安定した周波数の声でこう告げました。
「これから探していこうね。一緒に」
顔に変な皺を寄せ口角を上げて。
『笑顔』という表情表現で。
なので私は、
彼の『笑顔』を行動規範とする事にしました。
それが私の『思う』こと。
例え私が──ても、──────。
だって貴方が、私の────だから。
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