第6話
その日、
薄紫のトップスにグレーのタイトなスカート、黒のチョーカーペンダントを揺らし、裏が赤で表が黒のエナメルピンヒールをカツカツ鳴らし足早に歩くその姿は、誰がどう見てもキャリアウーマン。
だが、彼女がいるのはネオン輝く都会ではない。彼女の地元の住宅街である。
この時期は太陽が沈み切る時間が遅く、時間的には『夜』であるが、微かに一等星のみが見えるほどの暗さである。
西の空はまだ夕日の名残が残った色をしていた。
──が、
予定外の事が発生したからだ。
連絡を受けたのだが、イマイチ要領を得ない。
又聞き又聞きで『らしい』『のようだ』『詳細は不明』とか、嫌いな言葉がワンサカ出てくる。
小一時間嫌味の一つや二つや三つ延々垂れ流してやりたいところだが、今はそれどころではない。
今が一番大事な時だ。
この為に一ヶ月前から準備して来たのだ。
どうでもいい事に簡単に覆されてたまるか──
彼女は歯ぎしりしながら、やっと辿り着いた自宅へと駆け込む。
恐らく事件の発端であろうその場所──茶の間へと飛び込んだ。
そして、その惨状に唖然。
割れたというより砕けたという表現が正しいであろうちゃぶ台と、落ち窪んで歪んだ畳。
散乱した教科書とノート、畳の上に落ちたグラスは幸い割れてはいなかったが、落ちてそのまま放置された為、中身が畳に染み込んで跡になっている。
ついたままのテレビ、煌々と部屋を照らす電灯。
小さい羽虫が電灯の周りをパタパタ飛び回っている事で、庭に面している縁側がある方の窓が開きっぱなしになっているのに気がついた。
部屋の状況から、起こったであろう事を冷静に判断しようとする。
窓を閉め、鍵をかけてカーテンを閉める。
落ちたグラスを台所へ片付けた。
その時、スマホが落ちている事に気づく。
見た事がないカバーがついてる事から、妹のものではない事を察する。
拾い上げ、もう一つないかと辺りを探ると、開いたノートの裏から見覚えのあるスマホを見つけた。
ここに居たであろう人物たちのスマホが落ちている。
スマホを置いたままにしているという事は──
──なるほど。
受けた連絡とこの状況を見て、
手にしたスマホ二台ともを鞄にしまい、砕けたちゃぶ台を見下げて──右の耳たぶを一度スルリと触った。
状況は確認した。起こったであろう事も想定した。
次は確認する番だ。
至極冷静になって、大惨事の茶の間からフラリと出て行った。
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