259.【防衛戦2日目】謎の天使との戦闘
「なんなんだ、あいつ……」
「アークデーモンのラストアタックとられた」
「いや、今はそんなことどうでもいいだろ」
「アークデーモンが死にかけとはいえ一撃ってやばくね?」
「っていうか、勝利条件がおそらくあいつの撃退になってるんだけど」
「とてもじゃないけど勝ち目がありそうに見えないんだよなぁ……」
いままで、アークデーモン相手に盛り上がっていたプレイヤー達の間に困惑が走る。
なにせ、いきなり登場したと思ったら、アークデーモンを一撃で撃破、そしてそのままこちらの様子を窺っている、というか、見学しているのだから。
「アークデーモンを倒せるほどとは、異界の人間達の力も侮れないという訳か。ならば、この場で少し手合わせをしてやるとしよう」
そのセリフが終わると同時に、黒い炎で囲われたフィールドが発生する。
「この場は私が支配した。私と戦う勇気があるのであれば一人ずつかかってこい。
なるほど、一対一がご所望って事ね。
看破を使ってステータスなどを調べようと思っても、レベルが100である事しかわからない。
……まあ、プレイヤーのレベルキャップが70の状況下で、レベル100の敵を相手にするだけでもかなり厳しいけど。
「そんな制限知ったことか! 全力で行くぞ!」
「おうよ、レベル100だかなんだか知らないが一気にかかればいけるだろ!」
「援護は任せろ!」
イキの良いプレイヤー達が、一斉に黒い天使に襲いかかろうとする。
だが、黒い炎で作られたフィールドに足を踏み入れた瞬間、その勢いが一気に失われる。
「なんだ、急に体の力が抜けてきたぞ……」
「俺もだ。一体何があった……」
「スキルも魔法も発動しない。何が起こってやがる」
他にも数十人のプレイヤーが、同時に攻撃しようとフィールド内に入ろうとしていたが、誰もが同じ状況らしくその動きを緩慢にしていた。
「一人ずつと言っておいたのに、誠に愚か。お前達では戦う相手に値しないな」
黒い天使のセリフの後、フィールド内に入っていたプレイヤー達が一斉に黒い炎の柱に焼かれてしまう。
炎の柱が消え去った後には何も残されてはいなかった。
「……トワー、これってどう思う?」
「強制イベントだろうな。一対一にならない限りは、確実に瞬殺されるって言うギミックだろう」
「それはまたえげつないわね。……それで、どうしたらいいのかしら」
「……そうだな。とりあえず様子を見るか」
最初に突撃をかけて以降、誰も黒い天使には襲いかかろうとしない。
流石にあの攻撃を見せられた後では、一度に襲いかかるというのはためらわれるのだろう。
かといって、誰も戦わないのでは先に進まないのだが。
「それなら、遠距離攻撃ならどうだ!」
「そうね、遠距離攻撃なら、あのフィールドの外から攻撃できるわね!」
何人かの遠距離アタッカーがフィールドの外から攻撃を仕掛ける。
だが、遠距離攻撃は黒い炎のフィールド内に入ろうとすると、その炎で焼き消されてしまう。
流石に、遠距離攻撃を許してくれるほど甘くはないか。
近接戦闘もダメ、遠距離もダメ、そんな状況下では膠着状態になるかと思われた。
だが、そんな矢先、一人のプレイヤーが歩みでた。
「こいつは面白そうな相手だね! 一番槍はあたしがもらう事にするよ!」
進み出たのは【剣豪】霧椿だった。
確かに、あいつなら一対一にも慣れてるだろう。
「えっと、トワくん。神楽舞でサポートした方がいいかな?」
「いや、やめておいた方がいいだろう。神楽舞も複数での戦闘扱いになるかも知れないからな」
「うん、わかった。止めておくね」
霧椿は俺達と同じレイドチームに所属したままだ。
神楽舞を使えばバフを与えることができるが、余計な手出しは無用だろう。
「さて、それじゃ、行かせてもらうよ」
「ふむ、その心意気やよし。存分にその腕前を見せてもらおう」
「ああ、そうさせてもらうさ! いざ、参る!!」
霧椿がその最高速と思われるスピードで肉薄し、大太刀を一気に振り下ろす。
天使の方は半身になってその攻撃を躱すと、バックステップで一旦距離をとる。
「ふむ、なかなかに楽しめそうだ。それでは、次はこちらが手の内を見せるとしよう。一撃で倒れてくれるなよ?」
天使の右手から炎が吹き出したかと思うと、その炎が凝縮され、一振りの剣となった。
黒い炎の色そのままの漆黒の剣を構えた天使は、先程の霧椿以上の速度で襲いかかる。
だが、その攻撃は、霧椿によって受け流され、逆にカウンター攻撃を天使に向かって行った。
天使の方もその攻撃を完全に見切っていたように回避して、さらに追撃を行う。
霧椿はその一撃をガードしてはじかれる勢いのまま、距離をとって仕切り直しをした。
「やるねぇ。これほどとは思ってもみなかったよ」
「そちらもな。まさかこれほどの使い手がいるとは。さらに楽しくなってきたぞ」
天使の方もなかなかなバトルジャンキーのようだな。
体勢を整え直した二人は、さらに激しい勢いで戦闘を繰り広げる。
時折、霧椿の方はスキルも繰り出して攻撃しているが、天使のHPはなかなか削れていかない。
クリーンヒットがないと言う問題もあるだろうが、単純にHPも高いのだろう。
互いに譲らない攻防はしばらく続くかと思われたが、3分ほど経ったところでその戦いはいきなり終わりを告げた。
「なかなか楽しい戦いだったぞ。それでは、この続きは次の機会だ」
天使のセリフと同時に、黒い炎が巻き起こり霧椿を吹き飛ばしてフィールドの外にはじき出した。
霧椿のHPを確認してみたが、そこまで大きなダメージは受けていない。
だが、霧椿の状態を表す部分に見慣れないアイコンが表示されていた。
実際、霧椿は吹き飛ばされた後、立ち上がろうとせず膝立ちの状態になったままだ。
ある種の状態異常にかかったとみられるが、霧椿の動きを封じるくらい何だから相当強いデバフなんだろう。
「さて、次に挑む者は誰だ? まだまだ戦い足りぬぞ?」
「そーこなくっちゃ! 2番、ハル行きます!!」
2番手として出てきたのは、我が妹様、ハル。
登場した勢いそのままに天使へと斬りかかっていく。
「ふむ、勢いは見事。だが、私と戦えるだけの技術は持っているかな?」
「とーぜん! まだまだギアは上がっていくよ!」
その言葉通り、戦いを続けるにつれてハルの勢いは増していく。
細かいダメージは受けながらも果敢に攻撃を重ねてくことで、ダメージを積み上げることを狙っているのだろう。
だが、その戦いも3分間が経過すると同時に黒い炎による攻撃でフィールド外へとはじき出されて終わりとなってしまう。
「さあ、次は誰だ? 一人で挑む勇気のあるものならば歓迎するぞ?」
「そうこなくちゃな。次は俺だぜ」
3番手は鉄鬼か。
さて、どこまで戦えるのやら。
鉄鬼と天使の攻防もかなり激しいものであったが、3分間経過した時点でまたもや終了となった。
その他、リクや白狼さん、十夜さんに【双腕】、【追跡者】、【無刃】、ホリゾン、エインヘリアル等々、腕に自信があるプレイヤー達が次々と参戦しては、3分間の戦闘の後に追い出されるという事を繰り返していた。
なお、挑んだ面々の中にはプロチームである『アビスゲート』と『ヴァルハラリーグ』のメンバーが多めに入っていた。
それから、二つ名持ちは【流星雨】以外は知っている限り全員挑んでいるかな?
【流星雨】は……相性が悪すぎるしパスだろうな。
「ああ、トワ君。こんなところにいたのであるか」
「うん? 教授か。俺に何か用か?」
「何か用ではないのである。トワ君はあの天使に挑まないのであるか?」
「一応、今の俺は生産職なんだけど」
「そう思っているのはトワ君ぐらいである。ことPvPに関してのみ言えば、トワ君の腕前は10位以内には入るのであるよ。と言うわけで、さくっと挑んでくるのである」
「……俺の意見は無視か」
「無視である。むしろ、武闘大会優勝者が出ていかなければ盛り上がらないのであるよ」
「…………わかったよ。俺も次あたりに戦ってくるよ」
「うむ、それでいいのである」
「頑張ってね、トワくん」
「トワ、がんばれー」
「まあ、死なない程度に頑張ってきなさいな」
とりあえず周囲の仲間に見送られて、中央のフィールドまで歩いて行く。
フィールド内では、ちょうど前の戦いの決着がついたところだった。
「さて、次の挑戦者はお前か?」
「ああ、あまり戦う予定はなかったんだけどね。そう言うことになったよ」
「そうか。だが、気を抜いていればすぐに終わるぞ?」
「流石に戦うときに気を抜くことはしないさ。さて、始めようか」
「よかろう。かかってくるがいい」
開幕と同時に横に走りながら、両手のマナカノンから銃弾の雨を浴びせかける。
その攻撃はほとんどが天使の使う黒いバリアに防がれ、効果を発揮しない。
天使の方はと言うと、こちらの攻撃を無視して一気に近付いてきた。
「その程度の攻撃では私には届かぬぞ」
「だろうね。そんな事、予想済みだよ!」
接近して、その黒い剣を振り下ろしてきた天使の攻撃を躱し、ウェポンチェンジで刀を取り出す。
銃撃の間合いから剣戟の間合いへと移行したため、両手に持った刀で天使へと攻撃を仕掛けていく。
黒い剣1振りしか持っていない天使に対して、こちらは両手に1振りずつの二刀流、手数の多さで少しでもダメージを与えようとする。
だが、天使の剣術は俺以上の腕前であり、黒い剣のみで俺の攻撃を受け流していく。
もし、これが剣による防御であったなら、輝竜装備の効果によって多少なりとも貫通ダメージが発生していたのだが、全ての攻撃を躱すか受け流すかのためそちらも期待できない。
刀による攻撃を1分ほど続けたあと、バックステップのスキルを使って強制的に間合いを開ける。
間合いを開けた後、ライフルを取り出して、一点突破の高火力スキルでの攻撃を試みる。
流石にこの攻撃はバリアを貫通できたらしく、天使に弾丸が届いたが、ダメージ自体は確認できるほど与えることができなかった。
「これでもダメか。なら……間合いを詰めて高火力スキル!」
俺はフォワードステップで強制的に間合いを詰め、天使の頭部めがけてデモリッションバレットを撃ちこむ。
だが、その攻撃は首を反らす事で回避されてしまい、逆に反撃の攻撃を受けることとなる。
ライフルを盾代わりにして何とかやり過ごすことはできたが、それでも受けたダメージは俺のHPを7割以上削りとっていた。
幸い、間合いは開いたため、HPポーションで回復することはできた。
その後も、刀による近接戦闘や銃撃による攻撃など色々と織り交ぜて戦っていったが、有効打と呼べる一撃は決まらなかった。
「さて、お前の実力も見せてもらった。次の機会にまた戦おう」
俺の目の前に黒い炎が集まり、俺を弾き飛ばそうとする。
だが、ここで何もせずに弾き飛ばされるのも面白くない!
「それじゃあ、また今度だな! 最後に受けてみろ、デモリッションバレット!」
距離が多少あるので、当たるかどうかは運試しではあったが、デモリッションバレットは何とか天使に当たったようだ。
……もっともダメージ自体は入っていなかったが。
そうして、俺も黒い炎によって弾き飛ばされて戦闘終了となる。
俺にもデバフが付与されたが……なるほど、これは誰も二戦目に挑まないわけだ。
デバフの内容は、全ステータスの8割減少、装備品によるステータス上昇の消滅、行動阻害、この3つだった。
こんなのを付与されたら誰も次なんて考えないよな。
しかも、効果時間はこの戦闘が終わるまで、ってなってるし。
その後も何人もの腕に自信があるプレイヤーが戦闘に臨むが、有効打を当てられたプレイヤーはいなかった。
そんな戦闘が1時間ほど続いたとき、天使が羽ばたき、空中へと舞い上がった。
「さて、今日はこれくらいにしておこう。なかなか楽しめる者達もいたことだしな。それでは、また会おう、異界の人間達よ」
最後のセリフと同時に、その全身を黒い炎で覆った天使は空高くへと飛び去っていった。
《戦闘終了を確認しました。これにて都市防衛戦を終了いたします。都市ゼロまで転移いたしますので、そのままお待ちください》
どうやらこれで防衛戦イベントは完全に終了のようだ。
流石に、これはハードだったな。
ワールドアナウンス通り、俺達は都市ゼロの転移門広場へと送り返された。
これで、防衛戦も完全に終了だろう。
《これにて防衛戦2日目の戦闘を終了いたします。各種ランキングについては集計完了後発表いたしますのでしばらくお待ちください》
正式な終了アナウンスも流れたし、後はランキング発表だけか。
……個人的にはあまり気にしないのだけどな。
〈乱入者、黒翼の天使との戦闘で一定以上の戦果を収めました。称号【黒翼に届きし者】を取得しました〉
……ほら、何か新しい称号も増えたし。
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