242.【6~7日目】夏休み明けの生産作業

 寝る支度も調えてしまい夜のログイン。

 ただ、時間的には大分遅くなってしまっているので、プレイできる時間はゲーム内時間で4時間弱くらいしかない。

 ログインしてみると、ドワンとイリスはログアウト状態だった。

 おそらく既にイベントサーバーでの活動可能時間を使い果たしてしまい、もう落ちたのであろう。

 柚月はまだログインしているようだけど、何をしているのやら。


 メールが届いている事は既に確認済みだったのでメールを確認する。

 メールは教授にドワンからで、どちらも銃の製造についての話だった。

 製造する銃の数と種類については教授の方でまとめてくれていた。

 ドワンからのメールもそれについての事で、イベントサーバーのクラン倉庫に教授から依頼された分のパーツを用意してあるという事だった。


 お膳立ては整っているようなので早速イベントサーバーに移動しようとすると、談話室に柚月がいた。


「あら、トワ、こんばんは。今日は随分と遅かったわね」

「ああ、寝る前の支度に時間がかかってな。それに今日から新学期も始まったし、あまりゲームばかりに時間をかけるわけにもな」

「なるほどね。そこは仕方が無いところよね。それで、これからイベントサーバーに移動かしら」

「その予定。……ああ、その前に薬草を購入してきておこうかな」

「わかったわ。とりあえず明日以降も同じくらいの時間にしかログインできないと思っておいた方がいいわよね」

「そうだな。これから先はあまり長い時間はログイン出来ないと思う」

「了解。明日の会議でそれは伝えておくわ。正直、あなたの生産能力が落ちるのはかなり痛手だけどね」

「そこまで忙しいのか?」

「忙しいわね。私達は装備の供給だから、竜帝装備のレンタルで足りない分はまかなえるけど、消耗品はどうにもならないのが現状ね」

「……それはそうだろうな。それで、足りない分はどうするんだ?」

「正直、どうしようもないわね。最後の防衛戦で消耗品が足りてくれる事を祈るだけよ」

「最後は運営頼みか。どうにもならないな」

「仕方が無いわよ。どうにかごまかせないか頑張ってはみるけど、絶対数が少ないんじゃどうにもならないからね」

「了解。俺も今日のうちに出来る限り銃を作って、明日からの時間は少しでもポーション作りに回せるように頑張るよ」

「そうしてもらえると助かるわ。調合士の人数がどうにもならないレベルで足りてないからね。……そう言えばあなたのケットシーで数だけでもごまかす事は出来ないかしら?」

「ケットシーか……。多分無理だな。眷属召喚をすればイベントサーバーでも活動できるのは知ってるけど、ハイポーション系統を作るにはスキルレベルが足りていない。ミドルポーションならいけるかもしれないけど、そっちはどうなんだ?」

「ミドルポーションなら生産できる人数は足りているわね。素材の問題もあるし、それなら猫の手は借りなくてもいいわ」

「わかった。それじゃあ、薬草の仕入れに行ってくるよ」

「ええ、頼んだわ。ああ、それから、イベントサーバーにはユキもいるはずだからよろしくね」

「了解。じゃあまたな」


 柚月から現状の話を聞いたけど、やっぱり消耗品は不足か。

 この先、防衛戦の当日まで休日はないし、ログイン時間も確保出来そうにないから俺にはどうしようもないんだよな。

 ともかく、師匠のところに行って薬草を買った後、イベントサーバーに移動しないと。


 薬草の仕入れはすぐに終わったので、急ぎイベントサーバーに移動する。

 イベントサーバーのクランホームに着くと、ユキがマーケットボードの前で素材の購入をしているところだった。


「あ、こんばんは、トワくん。トワくんもこれから生産?」

「こんばんは、ユキ。今日は銃製造をやったら終わりかな」

「銃の製造かぁ。そっちもまだまだ足りてないんだよね?」

「足りていないというか、高品質な銃系統の装備については一切出回ってないからな」

「それもそうだよね。トワくん、ずっとポーション作りだったものね」

「まあ、そういうことだ。だから、今日はまとめて銃の製造だな」

「そっか。頑張ってね。私もできるだけ料理アイテムを生産しておくよ」

「そっちの様子はどうなんだ?」

「んー、私はそれなり以上に作れてるとは思うんだけど、柚月さんに聞く限りだと全体に行き渡る程には足りてないみたいなんだよね」

「……流石に、イベントサーバーのプレイヤー全員に行き渡るほどに作るのは無理があるんじゃないか?」

「それはそうだけどね。やっぱり、料理ができるプレイヤーが不足してるんだって」

「どの分野でも生産系プレイヤーの人手不足は深刻か。……俺達の夏休みが、あと一週間長ければな」

「それを言い出しても仕方が無いよ。私達も出来る範囲で頑張ろう?」

「そうだな。それじゃ、俺は先に工房に行って銃の製造を始めるよ」

「うん。私も素材の購入が終わったら合流するね」


 工房に移動したら教授からのメールを読み直して、必要な銃の数を再確認する。

 作らなくちゃいけない銃は全部で200丁ほどで、その半数以上をライフルが占めている。

 教授からのメールでは使用する魔石についても既に購入済みで、柚月経由でクラン倉庫に用意されているらしい。

 クラン倉庫を確認してみると、確かに見慣れない魔石がたくさん保管してあった。

 詳細を鑑定しながら作らなきゃいけないから、すぐには完成しないが数を揃えるだけなら何とかなるだろう。

 さて、準備も整ったし、銃の製造を始めるとするか。


 銃の製造を始めてから3時間半以上が経過。

 ようやく半分ほどが完成した。

 失敗しないように注意しながらやっているから、1丁作るのに数分かけているので生産性が悪いのだ。

 ……これはどう足掻いても明日の夜も銃製造に充てないと追いつかないよな。


 ユキの方は既に生産作業を終えてログアウトしていった。

 俺もこれ以上の時間は明日の学校に差し障りが出かねないので時間切れだろう。

 こればかりはどうにもならないので、キリがいいところまで作ったら切り上げて撤収することにする。

 ……教授に言って銃の受注数はもう少し制限してもらうべきだったかなぁ。


 これ以上、粘るわけにも行かないのでイベントサーバーから通常サーバーへと帰還。

 すると談話室にはちょうどいい事に柚月と教授がいてくれた。


「あら、トワ、お帰りなさい。銃の製造はどんな感じかしら?」

「おおよそ半分ができたってところだな。今日はこれ以上時間を使えないから、残りは明日に回す事にするよ」

「うーむ、トワ君の生産能力がここまで落ちてしまうとは困ったところである」

「教授にも俺の夏休みの予定は伝えてあっただろ?」

「まあ、今日から新学期だとは聞いていたのであるが、ここまで時間が取れないとは思ってもみなかったのであるよ」

「そう言われてもな。こればかりはどうしようもないな。あまりゲームにかまけている訳にもいかないし」

「……それもそうであるな。可能であればトワ君に追加で銃を作ってもらいたかったのであるが」

「ポーションの供給が止まってもいいなら問題ないけど?」

「……流石にこれ以上ポーションの供給を減らすわけにも行かないのである。追加で依頼をしようとしていたプレイヤー達には断っておくのであるよ」

「そうしてくれ。流石にこれ以上はどうにもならん」

「わかったのである。それから、こちらも確認であるが、ケットシーでは無理なのであるな?」

「柚月ともさっき話したけど、ミドルポーションの★6くらいまでしか作れないと思うぞ。それに、イベントサーバーでケットシーを使って生産した事がないからきちんと生産できるかもわからないし」

「……ケットシーを使った生産なら我々で試しているのである。結果は通常サーバーよりも生産難易度が上げられている状態だったのであるよ」

「それなら、俺のケットシーでも不可能だろうな。オッドも頑張ってはいるが、イベントサーバーに来ている生産系プレイヤー以上の実力はないからな」

「……完全に手詰まりであるなぁ。かといって、これまでもイベントサーバーでの活動時間は限界いっぱいまで使ってもらっていた訳であるからして、今までも増産できる状況だったわけでもないのであるからなあ」

「残念だがそういうことだ。すまないけど諦めてくれ」

「……絶対数が足りていない消耗品担当が2人抜ける穴は大きいのであるが、仕方がないのである。では、すまないのであるが、今日頼んだ分だけでも銃は作っておいてもらいたいのであるよ」

「そこまでの分はきちんと作っておくから心配しなくても大丈夫だ。ただし、これ以上の増産は厳しいがな」

「そこは把握したのであるよ。では、これで失礼させてもらうのである」


 ホームポータルから帰っていく教授を見送り、俺も寝るためにログアウトの準備を始める。

 ……そう言えば教授は何をしに来ていたんだろう?


「柚月、教授の用事ってなんだったんだ?」

「ああ、私達の予定の把握ね。この先、どれくらいのアイテムを供給できるかを確認しに来ていたみたいよ」

「そうか。それで銃の増産の話も出ていたのか」

「そう言う事ね。本当は後200くらい頼みたかったみたいだけど……」

「金曜日までかかってもいいなら引き受けられたかもな」

「そうなるとポーションが圧倒的に足りなくなるからね。諦めてもらっていたところだったのよ」

「なるほどな。教授も色々と調整役にまわっていて大変そうだ」

「本当よね。私も『ライブラリ』の調整をしているけど、それだけでも手一杯だからね」

「だろうな。そう言えば、通常サーバーの消耗品とかは品不足が収まったのか?」

「そっちもまだ収束していないみたいね。生産系プレイヤーがイベントサーバーの方にかかりきりになっている事がほとんどみたいで、圧倒的に供給が不足したままよ。素材自体は出回り始めたから、それを加工する職人が不足しているといったところかしら」

「なるほど、そっちも大変そうだ」

「それに私達は関係ないけど、他のイベントサーバーはサーバーごとのランキングもつくわけだからね。通常サーバーの事よりもイベントサーバーを優先しているプレイヤーがほとんどなのよ」

「それについては俺達も何も言えないけどな」

「まあ、そうよね。それで、今日はもう落ちるのかしら」

「その予定だけど何かあったか?」

「特に何もないわ。それじゃ、お休みなさい」

「ああ、おやすみ」


 この日はこれで作業を終了してログアウト。

 残りの銃製造についても、翌日のログイン時間を目一杯利用しての作業となった。

 結局、この2日間は全ての作業時間を銃製造に割り当てるしかなかった事になる。

 ……本当は巻物の解読作業とか、自分の時間もほしいところだったんだがなぁ。

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