62.ホーム屋にて

本話の内容は作者の偏った考えが含まれております。

実際のところがどうなのかはわかりません。


**********


 予定より大分遅くなったが、俺達はホーム屋を訪れていた。


「……ふーん、ホームの壁紙を変えるオブジェクトねぇ。こっちは部屋全体を変えて、こっちは床だけを変更できるのね」


 柚月がホームオブジェクトで追加されたアイテムに夢中になっている。

 確かに、今までの部屋は小物を追加しても壁が一色だけで寂しかったものな。


「へー、こっちは壁をアクアリウムに出来るのね。変わってるわね」

「アクアリウム?」

「水族館のことよ」

「いや、それぐらいはわかるって。どういう風になるんだ?」

「さぁ? 説明文を見ただけじゃわからないわ」


 わからないのに反応したのか。

 柚月らしいといえばらしいのだが。


「お客様、サンプルを展示したショールームがあります。ご覧になりますか?」

「え、あるの? それなら是非見てみたいわね」


 どうやらショールームなるものまで追加されていたらしい。

 説明文だけじゃわかりにくいものな。


「それではこちらにどうぞ。……お連れ様はどうしますか」


 俺達はどうしたものかな……


「ユキ、どうしたい?」

「ええと、時間が大丈夫なら見てみたいです」

「じゃあ決まりね。トワも一緒に来なさい」

「はいはい。わかりましたよ」


 所詮、男なんて女性の買い物には連れ回されるものなのだ。

 こういう展開を予想してなかった訳じゃないぞ。


「では、この扉の向こうがショールームになります」

「ほらほら、さっさと行くわよ」

「うん、行こう、トワくん」

「了解。今行くよ」


 扉を抜けた先は、一面真っ白な壁と床、天井がある空間だった。

 広さは……10畳ほど? 真っ白なせいで距離感がつかめないな。


「こちらがショールームになります。お好きな壁紙、床材、天井などを組み合わせてサンプル表示できます」

「なるほどね……それじゃあ、まず、この『和風様式の部屋セット』って言うのを表示してもらえるかしら?」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 案内役の住人が設定を変更する。

 すると部屋全体の様子が変わった。

 床の間や、押し入れ、床は畳張り、壁はふすまや障子など古風な民家の一部屋のようになった。


「こちらが『和風様式の部屋セット』となっております。『和風の壁紙』、『畳張りの床』、『和風の天井』のセットとなっております」

「ねえ、これってセットで買って1つずつ設置とかって可能なの?」

「はい可能です。ただしセット内容によっては、壁紙と床、あるいは壁紙と天井などが1つのオブジェクトになっているものもあります」

「ところで、あの床の間とか、押し入れ、後は障子やふすまは何かしら、飾り?」

「床の間は家具などが置けます。押し入れも実際に収納が可能です。障子は窓代わり、ふすまは扉となっております」


 ただの見せかけだけじゃなかったんだな。


「ただ、『和風の壁紙』をご利用になる場合、床の間や押し入れの分、部屋が少し狭くなりますね」


 そうなのか、元が真白い部屋だったからまったくわからない。


「なるほどね。それじゃ、次はこの『ファンシーな部屋セット』をお願い」

「はい、かしこまりました。少々お待ちを」


 柚月の指定に従って部屋の模様替えが行われる。

 変わった後の部屋は……うん、ファンシーだ。

 壁紙とか床、天井の色が、ファンシーとしか表現できないような色になっている。


「うーん、これは私の趣味じゃないわね。ユキとトワはどう?」

「私もここまではいやですね」

「俺だってこんな部屋は趣味じゃないぞ」

「じゃあ、次ね。次は、『スチームパンクな部屋セット』をお願い」


『スチームパンク』って……

 そんなものまであるのか……


「はい。少々お待ちください」


 こうして、柚月主催の模様替え祭りは30分以上続けられるのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――




「じゃあこのプラネタリウムとかどう?」

「部屋の中が一面プラネタリウムっていうのは落ち着かないと思います」

「うーん、じゃあアクアリウムは?」

「あれってアクアリウムと言うより海の底でしたよね」

「そうね。……こうして色々見られるのは楽しいけど、なかなか決められないわ」

「ねえ、トワくんはどれがよかった?」


 こういうとき、答えに困る質問が来るのもお約束だよな……


「ただ見るだけならアクアリウムとかスカイガーデンとかが面白かったけど、そこで生活したいとは思わないな。普段使いするなら大人しめの壁紙や床にするのが一番だろうよ」

「あら、無難な返しね。もっと面白い意見はないの?」

「じゃあ、そういう柚月はどうだったんだ?」

「……『シックな部屋セット』とかかしら」

「自分だって大人しめのセットを選んでいるだろうに」

「……いいでしょ、別に。あ、ちなみにこの壁紙とかってクランホームで利用する場合、設定範囲はどうなるのかしら?」


 話をそらしたな。


「はい。クランホームもマイホームも同様ですが、部屋単位の設定になります。2部屋以上あるホームの場合、それぞれの部屋に設定していただく必要があります」

「……それにしてはお値段が高めよね?」

「設定だけ各部屋で行えばいいだけで、1つの建物に対して1セットお買い上げいただければ、何部屋でも設定可能となっております」

「なるほどね……また今度、皆で買いに来ない?」

「イリスは喜びそうだけどドワンは来るかねぇ?」

「あら、ああ見えて雰囲気作りはこだわってるから、内装にもこだわりがあるんじゃないかしら?」

「……まあ、今度、暇なときにでも皆で来てみるか。店舗スペースの改装とかも出来るみたいだし」

「そうね。各個人の部屋や工房はともかく、共用スペースは全員の意見を聞きたいところね」

「で、今日は何か買って帰るのか?」

「……私の部屋用に『シックな部屋セット』を買って帰るわ。ユキはどうなの?」

「ええと、私は特に気に入ったものはなかったですね」

「じゃあ、『シックな部屋セット』だけお願いできるかしら」

「はい、かしこまりました。お支払いは個人でしょうか、クラン口座からの引き落としでしょうか」

「個人で支払うわ。……それじゃあ、これでお願い」

「はい、かしこまりました。……それでは、こちらをお持ちください」


 柚月がホームオブジェクトを受け取り、模様替えの話はこれで終わりのようだ。

 ここまでで30分以上か……女性の買い物として、長いのか短いのか……


「さて、それじゃ、今日の本来の目的を果たしましょうか」

「本来の目的?」

「試し切りや試射が出来るスペースがほしかったんでしょう? 忘れたの?」

「……この状況についていくので精一杯で、すっかり忘れてたよ……」


 ……本当に、ここまでたどり着くのが長かったな……


「それじゃあその施設を買いましょう……ところで、それってなんて名前なの?」

「それを調べるところからスタートだよ、今日は」

「……なんで、そういう施設があるのは知ってるのに、オブジェクト名は知らないのよ……」

「『インデックス』や『白夜』に置いてあるからだよ……名前まで聞いたことはない」

「……言い切られてもね。それじゃあ、戻ってそれについて調べましょうか」

「……自分の買い物で暴走してたのは柚月だろうに……」

「それはそれこれはこれ、よ」


 そんなドヤ顔されてもな……

 ちなみに、ユキはこのやりとりを楽しそうに眺めていた。




 ――――――――――――――――――――――――――――――



「それじゃあ、その試し切りとか試し撃ちが出来る施設は『訓練所』っていうのね」


 俺達のかなり曖昧な質問に対して、住人の店員さんは答えてくれた。


「はい。本来は名前通り訓練のために用いられる拡張スペースですが、装備品の耐久値や消耗品が減らない特性を利用して、お客様方のような利用方法を行っている方々もいらっしゃいます」


 確かに、消耗が一切ないならそういう使い方もできるな。

 ただ、気になるのは……


「この『訓練所』だけど、ここで訓練をしたとしてスキルを覚えたりスキルレベルを上げたりは出来るのか?」

「はい、そちらにつきましては、施設のアップグレードにより対応可能です。ただし、あくまでスキルレベルが低い間のみになります」


 なるほど、アップグレードなしだとスキル修練には使えないのか。


「それから、『訓練所』内では生産活動に関するスキルについて使用制限がございます。具体的には素材を使用して、別の物を作ることが一切不可能となっております」


 生産系スキルのレベル上げには使えない、と。

 消耗品を消費しない状況で生産できてしまうと、いくらでもレベルが上がってしまうからな。

 当然の処置か。


「他にはどんな機能があるのかしら?」

「そうですね……正直にもうしますと『訓練所』は多機能になっております。そのため、お客様の利用したい使用法を説明いただいた方が早いかと」

「だってさ、トワ」

「はいはい、わかりましたよ。俺の方から説明するよ」


 一応、利用者の一人である俺の方から希望する内容を説明した。


「……そのようなご利用方法ですと、『設置可能入口最大3つ』『入口ごとの訓練場分割』『射撃場の設置』『仮想標的の設置』『商店スペースにある商品の一時貸出』『利用者の任意による一時的な耐久値減少シミュレーション』、以上のアップグレードが必須となりますね」

「以外と多いわね……それで、その場合、合計金額はいくらになるのかしら?」

「そうですね。……合計で50万Eとなります」

「あら? 意外とお安いのね」

「商売をされる方にとっては必要なオプションばかりですからね。先程申しました訓練場内での経験値取得』をつける場合は、それ1つで150万Eほどになってしまいますが」


 つまり商売目的だけだったら、そんなにお高い施設ではないと。


「それからお勧めのオプションとしまして『仮想標的に対するダメージ表示』があります。こちらは、その名の通り仮想標的を攻撃した際、一定の計算式から導かれたダメージ量がわかるようになる機能です」

「一定の計算式?」

「その装備で普通のウサギを攻撃した場合、どれだけの威力が出るかになります。この場合、ウサギを倒せるダメージ量は10となります」

「ちなみにウサギ以外の標的って出来ないのか?」

「そちらは難しいですね……少なくとも今は不可能となっております」


 うーん、アップデート待ちってことだろうか。


「ちなみに、そのオプションをつけた場合のお値段はおいくら?」

「5万E上がりまして合計55万Eとなります」


 合計55万Eか。

 クラン口座にはもうかなりの額が貯まってるし、5万E増えたぐらいなら誤差ってものだろう。


「私としてはつけても構わないと思うわ。後はトワが決めて」

「俺もあった方が助かるかな。1つの指標にはなるし」

「それでは、こちらの内容でよろしいでしょうか」

「ああ、その内容で頼む」

「かしこまりました。お支払いの方はクラン口座からでよろしいでしょうか」

「ああ、クラン口座から引き落としてくれ」

「かしこまりました。……クラン口座からのお支払いを確認いたしました。それではクランホームにて『訓練場』の設定が行えるようになります。詳しい設定方法はこちらをご確認ください」


 そうして渡されたのは1冊の厚い本。

 これを読めばいいのかな?


〈ヘルプに『訓練場』についての項目が追加されました。詳しくは追加されたヘルプをご確認ください〉


 ん? システムメッセージ?


 じゃあこの本は……?


 不思議に思って本を開くと『訓練場』のヘルプウィンドウが開いた。


 ショートカット用のアイテムか、これ。


「ねえ、トワくん。システムメッセージが表示されたんだけど……」

「心配しなくてもいいわ。私にも表示されたから。今頃、ドワンとイリスにも表示されてるんじゃないかしら?」

「そう言うことだな。どうもクランメンバー全員にヘルプが追加されるみたいだ。ちなみにこの本はヘルプへのショートカット用のアイテムだな。後でクランの共有倉庫にでも入れておくよ」


 そうすればヘルプを見たい人が使いやすくなるだろう。


「本日のご用件は以上でしょうか」

「ああ、今日はこれで失礼するよ」

「かしこまりました。またのご利用をお待ちしております」


 目的のものを手に入れた俺達は、クランホームに帰る事にした。

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