50.魔弾の射手

「別にいいんじゃない? 武闘大会、出たいならでれば」


 夜にログインして皆に武闘大会の件を相談したが、帰ってきたのはそんな言葉だった。


「そうじゃのう。別にトワが優勝したからと言って『ライブラリわしら』が優秀なわけではないからのう」

「そうだねー。でも出場するなら優勝目指してねー」


 ……それなりに悩んだのに軽いな。


「ちなみにユキはどう考えてるの?」

「わたしとしてもどちらでもいいかなって」


 ユキもどちらでもいいと。


「そういう訳だから出場するなら、お好きにどうぞってところね」

「……わかったよ。とりあえず出場する方向で考えておく」


 ここまで来たらあとは個人的な考え方次第だな。


「ああ、でもレベル上げに行くなら火曜日まで待ってもらえるかしら。例のクエスト関係で、お店の在庫がまずい事になっているのよ」

「了解。とりあえず月曜日までは商品在庫の作成に全力を注ぐよ」

「そうしてもらえるかしら」


 結局その日はそれで解散となり、月曜日までひたすらポーション作りに明け暮れる事になった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「おめでとうございます! これでガンナーギルドランク10の試験を受けられるようになりました!」


 例のクエスト対応が終わった、火曜日の夜。

 いつものごとく、ガンナーギルドで拳銃製造をこなしているとそんな声がかけられた。

 ……というか至近距離で叫ばれたせいで、少し耳が痛いぞ。


「ああ、そういえば前にそんなこと言ってたっけ」

「そうですよ。ランク10の昇格試験ですよ。うれしくないんですか?」

「そうは言われてもなあ……」


 ガンナーギルドランクなんて普段の日課のついでぐらいにしか考えてなかった。


「ランク10になったら新しい銃のレシピが買えるようになるって説明しましたよね?」

「……ああ、そんなことも聞いた気がするなぁ」

「……まさかここまで興味を持っていないとは思いませんでした。それで昇格試験受けますか?」

「じゃあ受けてみようかな。新しい銃っていうのも気になるし」

「はい、それではクエストを発行しますね」


〈クエスト『魔弾の射手』を受注しました〉


 ―――――――――――――――――――――――


 クエスト『魔弾の射手』


 クエスト目標:

  東の森でアカヒグマから魔石を入手(0/2)

  ???を作成

 クエスト報酬:

  ???


 ―――――――――――――――――――――――


 これまた謎だらけなクエストが発行されたものだ。

 とりあえずアカヒグマを倒してくればいいのか。


「なあ、この依頼ってどうなんだ?」

「ガンナーは戦闘職ですからね。ヒグマ程度は狩れるようでないと困ります」

「……ああ、聞き方が悪かった。この『???なぞの』部分って銃の作成だよな? 俺みたいな錬金術士以外が受けた場合はどうしてるんだ?」

「え? そうですね、信頼のできる錬金術士に依頼してると思いますよ。何もすべて1人でこなす必要はありません」

「そう言われればそうなんだけどさ、それって昇格試験と関係あるのか?」

「関係ありますよ。優秀な錬金術士という人脈をもつ事もガンナーにとっては重要な事です……まあ、試験を受けてもらえればわかりますよ、きっと、多分」

「……まあ、俺には関係ないからいいけどさ。じゃあ行ってくる」

「あなたでしたらアカヒグマ程度に遅れはとらないと思いますが、お気をつけて」


 受付嬢に見送られてガンナーギルドをあとにする。

 するとそこに、


「っと、悪い」


 外に出たとたん人とぶつかりそうになってしまった。

 実際にはハラスメントブロックのおかげでぶつかることはないんだけど、こう言うものは気分的なものだ。


「……あなたも猫探しですか?」

「おう。アンタもそうか?」

「いえ、俺はここに用があったので」

「こんな家に用? まあいいか、ぶつかりそうになって悪かったな兄ちゃん」


 そう言い残して男性は去って行った。


 ……そう、公式生放送で落とされた爆弾、『眷属捜し』をしている人達だ。

 運営が存在を示した3種類の眷属を探す人達でいろいろな場所にプレイヤー達が歩き回っているのだ。


『猫妖精・ケットシー』を探す人は街中を猫探し。

『一角獣・ユニコーン』を探す人は森や平原を探し回る。

『守護石像・ガーゴイル』を探す人はいろいろな街の石像を調べてまわる。


 こんな感じで行動している人が少なからずいる、と言うよりも、同じような行動している人達で街はあふれかえっている。


 なお、フェンリルについてはお察しと言うやつだ。


 まず、フェンリル戦に行くまでの間で多くの人が30分間耐えきれずに敗北する。

 運良く、あるいは実力で30分間耐えることに成功した人がフェンリルに挑むが、軽くあしらわれて全滅する。

 どうやらHPが残り2割を切ったときの特殊行動まで行けたPTはいなかったらしい。

 昨日の掲示板は、『試練の大狼戦とフェンリル戦の爆死報告で大荒れだった』というのが教授の言葉だ。


 ちなみに大多数の人達は普通に試練の大狼に挑み、試練を乗り越えたPTは幻狼の腕輪をゲットしていたらしい。


 教授も『十分に儲けが出たので試練の大狼相手の基本戦術は掲示板に載せるのである』と言っていたし、来週もまた試練の大狼に挑む人達であの湖は混み合うだろう。


 さて、いつまでも突っ立っていないで、早くクエストをクリアしに行くか。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「オンオン」


 眷属召喚で呼び出したシリウスに案内させながら東の森の中を歩く。

 シリウスは『前衛アタッカータイプ』で育てようと思っているので、索敵を任せているのだ。

 実際、シリウスのスキル欄には【索敵】スキルが存在しているし。


 ……しかし、こういうときに限ってなかなかアカヒグマに遭遇しない。

 道すがら薬草類を収集したり、木材を伐採したりしながら進んでいるが、目的の相手にはなかなか出会えなかった。


「……東の森の奥の方だったっけな。よし、もう少し急ぐぞシリウス」

「オン!」


 その後、アカヒグマには出会えたが、なかなか魔石をドロップせずに討伐数だけ重ねることとなった。

 ……結局、アカヒグマの魔石2個を集めるのに2時間を要してしまった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「あ、おかえりなさい。もう少し時間がかかるかと思いましたが、意外と早かったですね?」

「個人的には予想以上に時間がかかりましたよ……」


 ガンナーギルドに戻り魔石を集め終えたことを受付嬢に報告する。


「確かにアカヒグマの魔石が2つですね。それでは次の段階に進みましょう。奥の部屋にどうぞ」

 受付嬢に案内されて入ったのはいつもの作業部屋。

 ここで新しい銃とやらの組み立てをするのだろう。


「トワさんは錬金術士でもありますから、ここでレシピを覚えても大丈夫ですね。と言うわけで、これが新しい銃『魔砲銃マナカノン』のレシピになります」

「『魔砲銃マナカノン』?」

「はい、『魔砲銃マナカノン』です。どんな銃かは実物を見てもらった方が早いですからね。ちゃっちゃとレシピを覚えてしまいましょう」


 受付嬢に急かされて『魔砲銃マナカノン』とやらのレシピを覚える。

 ……レシピの内容自体は、普通の拳銃に魔石が1つ追加されただけだな。


「それでは『魔砲銃マナカノン』の製造に取りかかりましょう……と言っても、やることはいつもお願いしている拳銃の製造と大差ないんですけどね」

「わかった。とりあえずやってみよう」


 受付嬢から銃の部品と先ほど渡したアカヒグマの魔石2個を受け取り、早速【錬金】スキルで合成してしまう。


 すると完成品の『魔砲銃マナカノン』とやらが出てきた。


 ―――――――――――――――――――――――


 アイアンマナカノン(アカヒグマ) ★3


 鉄の銃身とアカヒグマの魔石からできた魔砲銃


 MATK+35

 耐久値:120/120


 ―――――――――――――――――――――――


「うん、完成しましたね」

「ああ、完成したな。ちょっと品質が悪いけど」

「そんなことないですよ。ここにある設備で作ったにしては上出来です」


 とりあえず完成したがこれは……


「まずは説明させていただきますね。『魔砲銃マナカノン』は使用者の『魔力』を『弾丸』として発射する銃の事です。通常の弾丸は使用しません、と言うか、出来ないのですが。代わりに魔力MPを消費して攻撃することになります。また、魔砲銃マナカノンは魔力を飛ばしますので敵に与えるダメージも使用者の魔力依存となります」

「……ちなみに、魔力が足りなかったらどうなるんだ?」

「当然、弾は発射されません。あと、1発当たりどれくらいの魔力を消費するかは魔砲銃マナカノンの性能に依存します」

「……とりあえず試し打ちしてみないとダメか」

「そうですね、それがよろしいかと。では、訓練場にどうぞ」


 訓練場で今作った魔砲銃マナカノンを試射してみたところ、1発当たりMP2を消費した。

 消費MPがどこに依存しているのか分からないが、これも要検証と言った所だろう。


「それにしてもアカヒグマの魔石からできているとは思えない威力の魔弾を撃ちますね」

魔力INTは高いからな。そのせいだろう」

「なるほど。狐獣人さんですものね」

「ああ、そういうことだ……あと気になっているんだけど、この銃って魔法触媒としての効果もないか?」

「よくお気づきで。その通りです。魔砲銃マナカノンは、魔術士の杖などと同じように使用者の魔力を高める効果もあります」

「……つまり魔法を使う時にも利用できると?」

「はい、使えますよ。ただ、魔法触媒として使う場合も魔力による焼き付き、要するに銃の耐久度が減ってしまうので注意してくださいね」

「……ちなみに銃身にはどんな金属を使えばいいんだ?」

「本当はご自分で確かめてもらう事なのですが、トワさんにはお世話になっていますからね。特別にお答えします。銃身もグリップも魔力と相性のいい素材がベターです。この辺りでも手に入るものですと、純ミスリル銀の銃身にトレントウッドのグリップあたりがベストですよ」


 これはいいことを聞いた。

 魔法火力に頼りがちな俺にとってはベストな武器が手に入った。

 部品を変えるとどうなるかはクランホームに戻ってから、ドワン達に依頼して試してみよう。


「ああ、それと1つ注意事項が。魔砲銃マナカノンを合成するときに使う魔石は、必ず同じモンスターの魔石を使用してください。違うモンスターの魔石を使って作ってしまうと、魔石同士が反発してしまい爆発……まではしませんが銃として機能しなくなります」

「分かりました、注意するようにします……ちなみに反発し合わない組み合わせとかもあったりしませんか?」

「私の口からはこれ以上は言えません。いくらこの街のギルドマスターとはいえ、言える範囲というのがありますので」

「え、ギルドマスター?」

「ああ、教えていませんでしたね。受付嬢兼ギルドマスターのメリッサです。よろしくお願いします」

「……今までどうして黙っていたんですか?」

「そちらの方が面白いので。それに私一人しかいないギルドなんですから、ギルドマスターであるのも当然じゃないですか」


 確かにそう言われれば納得できてしまう。


「……ふむ。トワさんは魔力の高い狐獣人でガンナー……もしよければ、もっと魔砲銃マナカノンの作成に詳しいギルドを紹介できますが、いかがしますか?」

「紹介よろしくお願いします」


 即決だった。

 こんなおいしい案件を見逃せない。


「それでは明日以降、都合のいい時間で構いませんのでまた当ギルドにお越しください。そのときまでに紹介状をしたためておきます」

「それじゃあ、よろしくお願いします」


〈クエスト『魔弾の射手』をクリアしました。チェインクエスト『至高の魔弾を求めて』を受注しました〉

〈魔砲銃を入手したことにより【銃】スキルの派生技能に【魔砲銃】が追加されました〉


 ―――――――――――――――――――――――


 チェインクエスト『至高の魔弾を求めて』


 クエスト目標:

  第2の街のガンナーギルドにて紹介状を受け取る

  ???

 クエスト報酬:

  ???


 ―――――――――――――――――――――――


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いつもお読みいただきありがとうございます。

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