第27話 屋敷とメイド


 モーゲイン裁判長がリーシャの家を訪れて七日後、俺とニーニャは、第五区の元男爵邸へ移った。

 リーシャばあちゃんの家を出る時、ミーシャが涙を流して悲しがった。それを見たニーニャも、もらい泣きしていた。

 元男爵邸には、例のメイドさんだけがまだ住んでいた。裁判所から、屋敷の管理を任されているそうだ。


「改めて自己紹介させてください。

 私は、ルチアと申します。

 もし、お二方がお嫌でなければ、引きつづき私をお雇いください」


 ルチアが上品に頭を下げながら言う。


「マサムネ、雇ってあげて」


 ニーニャが望むなら、俺に嫌はない。今までの給料を尋ねてみると、払えないほどでもない。俺は、ルチアを雇うことにした。

 さっそく、彼女にワンドを何本か見せる。森の中で襲撃されたとき、手に入れたものだ。


「ルチア、これって売れるかな?」


「はい、ワンドはいつも供給不足です。

 これなどは、よい値がつくと思います」


 彼女は、ワンドの中で、やや赤っぽい一本を指さした。


「では、これの売却は君に任せるよ」


「かしこまりました」


「あと、こういった生地があれば、買ってきてくれ」


 俺は、ルチアが着ているスーツとメイド服が合わさったような服の何か所かを指さす。指さしたのは、全部メイド服の部分だ。


「はい、承りました」


 渡したコインを手に、ルチアは颯爽さっそうと街へ出ていった。


 その間に、俺とニーニャは、屋敷の中を見てまわった。部屋数は二十近くあり、浴槽つきのバスルームもある。バスタブには、水とお湯を注ぐ蛇口がついている。

 これには、ニーニャがとても喜んだ。毎回、タライに水とお湯を溜めるのは、かなり大変だからな。


 広い屋敷を使いこなすには、あと何人か雇う必要がありそうだが、俺とニーニャしかいないから、当面はルチアだけでいいだろう。

 

 俺たちは寝室をどこにするか悩んだが、とりあえず一度泊まった部屋にすることにした。勝手も分かってるから。

 こうして、屋敷での新たな生活が始まった。


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