第26話 第五区へ 


 裁判が終わった次の日、リーシャばあちゃんの家を意外な人物が訪れた。

 例の裁判長だ。

 彼は家に入ってくると、俺たちと同じテーブルに着いた。ニーニャ、リーシャばあちゃん、ミーシャの三人が、とても驚いている。きっと、身分が違う者の家に入るのは、普通ではないのだろう。


「改めて名乗らせてもらおう。

 第五区で裁判官をしている、モーゲインじゃ」


「初めまして、リーシャと申します」


 俺たちも、リーシャばあちゃんに続き、自己紹介する。


「マサムネ君、ニーニャさん。

 先日は、我が孫メラキスが助けてもらった。

 本当にありがとう」

 

 モーゲイン裁判長は、そう言うとテーブルにつくほど頭を下げた。

 聞くと、先日救った女性たちの中に裁判長の孫娘がいたらしい。裁判でもなんとか俺たちの肩を持とうとしたが、身分制度の壁に阻まれたそうだ。


「俺たちこそ、裁判では助けてもらいました」


 最終的には、俺たちが納得いく形に収めてくれたからね。終わりよければなんとかだ。

 彼は、懐から光沢がある白い布に包まれたものを取りだした。


「これを受けとってくれたまえ」


 滑らかな手触りの布を開くと、二枚の赤い金属片が入っていた。銅の様に見える。

 

「こ、これは!」


 ニーニャが驚きの声を上げる。


「第五区への通行証だ。

 それから、『火炎団』の討伐報酬は、後ほど届ける。

 おお、そうじゃった、差しおさえた男爵の屋敷を安く使えるようにしてあるぞ」


 モーゲイン裁判長は胸のポケットから鍵束を出すと、通行証の横に並べた。


「もし、賃貸の金が足りなければ、遠慮なくワシに言うてくれ」


「そこまでしてもらってもいいのでしょうか?」

 

 さすがにこれはもらい過ぎだと思い、言っておく。


「孫を救ってくれた恩人を命の危険にさらしたのじゃ。

 これくらいはせぬと、ワシの気がすまぬ」


「わかりました。

 それでは遠慮なくお言葉に甘えます」


 こうと決めたら引きさがならい頑固者みたいだから、ここはしょうがない。


「そのハンカチは、ニーニャさんがもらってくだされ」


「えっ? でも、これは、シェーラン織りでは?」


「よく分かったの。

 ニーニャさんは、よい家の出なのだな。

 君も遠慮せんでくれよ」 


「分かりました。ありがとう」


「困ったことがあれば、ワシの所に来ればよい。

 第五区では、君たちの身元引受人はワシじゃからな」


「……ありがとうございます」

「ありがとう」


 俺とニーニャは、頭を下げた。


「孫のメラキスも、もう少し元気になったら、君たちに会いたいと言うておったぞ」


「早く元気になられるといいですね」


「かどわかされて三日しかたっておらぬのが、不幸中の幸いじゃった。

 本当に礼を言う」


 モーゲイン裁判長は、もう一度頭を下げた。

 俺とニーニャは、こうして第五区に住むこととなった。

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