第25話 不平等裁判
例のごとく、最も身分が低い官吏に執事を引きわたす。先日、俺が娘たちを預けた官吏二人は、夜中に強盗に襲われ殺されたとのことで、新しい二人になっていた。
口封じのため、ガルーダ男爵に始末されたのだろう。
次の日、俺とニーニャは、第五区にある裁判所にいた。
日本の法廷とよく似た、しかし、かなり小さな部屋で裁判が行われた。この世界では、裁判を迅速にとりおこなう仕組みがあるらしい。日本なら、裁判までに何日もかかるからな。
他に日本の裁判所と違うのは、部屋のまん中に大きな円盤を三段重ねにしたような場所があることだ。背が低い、三段重ねのケーキみたいな形だ。
俺たちは「ケーキ」より下の床に立たされていた。
執事は一段目、男爵は二番目の台に立っている。
「それでは裁判を始める」
白いローブを着た、裁判長らしき大柄な老人が、正面の一際高い台の上から宣言する。
彼の前には机があり、小さな
裁判は俺とニーニャがまず発言し、次に執事、最後に男爵という順で進んでいった。
昨日、役人たちの前では、企みを全て白状した執事が、一転して無罪を主張した。全てを俺とニーニャのでっち上げだと訴える。
その次に発言した男爵は、なおひどかった。俺とニーニャが『火炎団』の一味であり、娘の誘拐に関わっていたと主張した。発言した後、俺とニーニャの方を見てニヤリと笑う。
この国の裁判は、より内側の居住区に住むものの発言が優先される。同じ居住区内なら、身分の高い者が優位となる。法廷にある台は、身分の上下をはっきりさせるためのものだ。
まさしく不平等裁判そのものだ。
休廷の後、再び始まった裁判では、裁判長が俺たちそれぞれの発言を要約した上、最後の判決を言いわたした。
「『離れ』住民マサムネ、同じくニーニャ、その方らを極刑に処す」
つまり、死刑という事だな。しかし、なぜか裁判長は、ものすごく
傍聴席で見ていた男爵側の人々が拍手する。一方、その後ろに座っていたミーシャが怒鳴り声をあげた。
「『火炎団』からお前の娘を命がけで助けた二人を、逆に罪に陥れるなんて、どこまで恥知らずなんだっ!」
彼は暴れたが、五、六人の衛兵によって、つまみ出された。
裁判長が暗い顔で、こう発言する。
「マサムネ、ニーニャ、最後に何か言うことはないか?」
俺が手を挙げる。
「あります」
「申してみよ」
「はい。
娘を救出したお礼にと、男爵の家に招かれ夕食を振まわれましたが、そのとき、あることを耳にしたのです」
「なんだ?」
「そこの男爵と執事が、自分たちに魔力が無いにも関わらず、何かの道具でそれをごまかしているというのです」
男爵と執事を一人ずつ、しっかり指さした。
言葉に出さず、【スキルクラッシュ】を発動する。
やつらの魔力をぶち壊せ!
「本当か!?」
裁判長が大声を上げる。
「嘘です!」
「その男のでたらめだっ!」
二人は、血相を変えわめく。
「この場で試していただければ、すぐに分かる事かと」
俺は二人と対照的に、冷静な声で答えた。
「もし、それが本当なら、その二人はこの国で二番目に重い罪を犯したことになる。
その上、先の判決も
裁判長が重々しく言う。
「たわごとです!
裁判長、ワンドをお渡しください。
すぐに、この男の嘘を証明してみせます!」
男爵が叫ぶ。
裁判長が、後ろに控えていた黒ローブに合図する。
「法廷では魔術の使用は禁じられておるが、その必要性から今回だけは許そう」
「あ、ありがとうございます!」
男爵は涙を流さんばかりだ。
男爵と執事は、黒ローブからそれぞれワンドを受けとる。
「唱えるのは、『ウォーター』だけじゃぞ」
裁判長が告げる。
「分かっております」
ワンドを渡された男爵は、自信たっぷりに呪文を詠唱しはじめる。
ワンドで天井を指すと、それを勢いよく前方へ振った。
「ウォーター!」
しかし、当然だが何も起こらない。
魔力を失った男爵が、魔術をつかえるわけがないのだ。
「ウォーター!
ウォーター!」
何度やっても同じだ。一つ下の段に立っている執事も、同じ目にあった。
傍聴席がざわつく。男爵の関係者は、潮が引くように部屋の外へ消えていく。彼らは、重罪人との関りを恐れたのだろう。
後に残ったのは、男爵邸へ俺たちを案内した、若い女性だけだった。
「こ、このワンドが、壊れているのです!
自分のワンドを使えば必ずっ!」
傍聴席に残った女性が立ちあがると、二本のワンドを袋から取りだす。
「おお、ルチア!
早う、私のワンドを渡せ!」
黒ローブが女性からワンドを受けとり、男爵と執事に手渡す。
「これぞ吾輩のワンド!
裁判長、よくご覧ください!
ウォーター!」
シーン
当然、何も起こらないよな。
狂ったようにワンドを振りまわす二人が連れだされ、裁判は終わった。
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