第24話 偽りの感謝(下)
ニーニャが乗った客車の屋根に立ち、周囲を取りかこんでいる男たちを見まわした。
彼らが突然姿を現したように見えたのは、草の中に潜んでいたからだろう。
「これは、どういうことだ?」
お約束だから、さも驚いたようにそう言ってやる。
男たちは黙ったまま、腰のベルトから三十センチほどある木の棒、魔術用の武器であるワンドを抜く。
魔力をぶち壊せ、スキルクラッシュ!
ヤツらがワンドを抜く前に、執事を除く全員を指で「撃」っておいた。
男たちが包囲の輪を縮めてくる。
魔術の詠唱を最初に始めた男の額に角が生える。俺が投げた釘に似た金属片だ。
「メラト! どうした?」
「馬鹿っ! 詠唱を止めるな!」
倒れた男の左右の男がそう叫ぶ。
俺はその二人を後まわしにし、一人づつ男たちを片づけていく。
額のまん中に金属片をぶちこまれ、男たちは次々と倒れていった。
この距離で俺が狙いを外すはずもない。後まわしにした二人を残すだけとなった。
「ファイア!
ファイア!」
「ウインドカッター!
なぜだっ!? 魔術がつかえねえ!」
額から金属片を生やした二人がゆっくり草原に倒れる。
残るは、少し離れた所で見ている執事だけだ。
彼は口を大きく開け、ブルブル震えていた。
俺は客車の屋根から草原へ飛びおり、ヤツへ近づいていく。
執事は手と膝を地面に着けた姿勢で逃げようとしている。どうやら、腰が抜けたようだ。
左足の太ももに金属片を打ちこむ。
「ぐあっ! いっ、痛いーっ!」
執事は、地面をゴロゴロ転がった。その背中に膝を落とす。
「生きていたいか?」
執事は、ガクガクと頭を上下させる。その顔は、涙とよだれで、ぐちゃぐちゃになっている。
「お前、ワンドを持ってるか?」
執事は、ぎこちなく頷いた。
「よし、立て」
彼は傷ついた左足を引きずりながら、なんとか立ちあがった。
「お前は、どんな魔術が使える?」
「ひ、火の魔術と水の魔術です」
「水の魔術は、どんなことができる?」
「み、水を出すことができます」
「やってみろ」
俺は、ヤツの斜め右斜め後ろに位置取りした。こちらを攻撃しようとしたときに対処できるようにだ。
執事がワンドを構え、呪文を唱える。
「ウォーター」
最後の言葉で、ワンドの少し先から水が放射状に放たれる。到達距離は、五メートルくらいだろうか。なるほど、これでは攻撃に使えないな。
しかし、この男が魔術を使えるということは、スキルクラッシュが壁などを通りぬけないということだ。
それは、能力の弱点になるかもしれない。
執事からワンドを取りあげると、用意していた縄で彼を縛っておく。念のため、ニーニャにワンドを持たせ、彼を監視させる。
執事を問いつめると、なぜ男爵が俺たち二人を狙ったか、その理由がやっと分かった。
男爵は、自分の娘が傷物になったのを隠すため、そのことを知っている俺とニーニャを消そうとしたそうだ。
「男爵は、私たちを本気で殺す気だったのね」
ニーニャが、心底呆れたように言う。
まあ、ガルーダは、貴族のくせに、娘が命を助けてもらった恩人を殺そうとしたのだから、彼女が呆れるのも無理はない。
始末した男たちの持ち物から、目ぼしいものを回収する。
ワンドも全て回収しておいた。
死体に刺さった金属片も、回収しておく。
俺の灰色のコートには、その内側にいろんな武器が吊るされている。武器の重さでもへたらない、しっかりした作りの服を探すのは大変だったが、元は取れたようだ。
死体の処理をどうするか少し考えたが、ニーニャによると、森には夜行性の魔獣が棲んでいるので、朝には骨も残らないそうだ。
乗馬ができるニーニャが御者台、俺が客室、執事は俺の足元という配置で、北の『ゴミ箱』へ帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます