第19話 お清め(上)
手の縄を解かれたニーニャは、気を失い倒れている大男の上に、床に敷かれていた毛皮を積みかさねた。大男が床に落とした木の棒を拾うと、呪文のようなものを口にした後、それを毛皮の山の上で振る。毛皮が、ぼうと燃えあがった。
ニーニャも、魔術が使えたんだね。そういえば、滝の側にある洞窟でも、火種が無いのに焚火おこしてたもんな。
何枚か残しておいた毛皮の一枚をニーニャに着せ、その部屋を出た。
大部屋の中ほどまで来た時、後ろで獣のような叫び声が聞こえたが、俺たちは、そのまま通路の一つに入った。
下調べしたとき見つけておいた部屋の扉を開ける。部屋には、裸同然の女性が七人いた。中には、十四、五才の娘もいる。持ってきた毛皮を一人一人に着せていく。心に傷を負っているのか、ぼうっとした表情の女性たちは、反応らしい反応を見せなかった。
外に出るまでには、俺が始末した男たちの死体があちこちに転がっていた。女性たちは、それを見てもおし黙ったままだった。
俺たちは夜どおし歩き、夜が明ける頃になって東の『ゴミ箱』に帰りついた。
◇
各集落に二人ずついる、最も下っ端の役人に、七人の女性を引きわたす。ついでに、『火炎団』のアジトがどこにあるか教えておく。
こういう事件に慣れていないのか、若い役人二人は、慌てふためいていた。
リーシャばあちゃんの家に帰ったニーニャは、俺とは一言もしゃべらず、ミーシャから
俺はリビングの椅子に座っていたが、水音に混ざってニーニャの泣き声が聞こえてくると、家の外へ出た。
いくつか買いものを済ませてから戻る。
テーブルには食事が並べられ、ニーニャ、リーシャばあちゃん、ミーシャが席に着いていた。
「あんたが、この
ついでに、『火炎団』がつぶれたお祝いだね」
リーシャばあちゃんが、俺に微笑む。じいちゃんみたいだと思って悪かったね。じいちゃんは、そんなに優しく微笑んだりしない。
「よくニーニャを取りもどしてくれた」
ミーシャも、今回に限り手放しで俺を褒めると決めたようだ。
「俺たちは、魔術契約してるから当然ですよ」
ニーニャの身体が、ぴくっと動く。
「さあ、せっかくの料理だ。
残さず食べるんだよ」
料理は、俺がこの世界に来てから味わった、一番上等なものだった。
◇
食事が済むと、ニーニャは、逃げるように奥の部屋へ入った。
俺は食事の後かたづけを手つだった後、椅子に座り、ぼーっとしていた。
リーシャばあちゃんが、呆れ顔で言う。
「あんた、何のためにニーニャと契約してんだい?」
「えーと、彼女を守るためかな」
「なら、さっさと部屋に行ってやりな。この鈍感男が!」
言葉はきついが、リーシャばあちゃんの顔には、懇願の色が浮かんでいた。
「はい、ありがとうございます」
俺は、慌てて隣の部屋へ入った。
◇
ニーニャは、自分のベッドで壁の方を向き横になっていた。
色々話しかけてみるが、彼女は答えなかった。
これじゃ、何もできないな。
俺は灯りを消し、自分のベッドで横になった。
疲れていた俺が眠りに落ちかけ、ハッと気づくと、すぐ横でニーニャの息遣いがしていた。甘く切ない彼女の香りが、以前嗅いだ時より強くなっている気がする。
「ニーニャ……」
俺がささやくと、彼女は俺の胸に顔を埋め、泣きだした。静かで細い、心を締めつけられるような泣き声だった。
やっと泣き声がやむと、彼女は小さな声でこう言った。
「マサムネ……私、汚されちゃった」
俺は胸が熱くなり、彼女を強く抱きしめた。
「君は綺麗なままだよ、ニーニャ。
今も、これからもずっとね」
ニーニャはまた泣きだしたが、さっきとは違う、甘えるような泣き声だった。
「マサムネ、私を綺麗にして」
「どうやって?」
「……あいつらに触られたところ、全部に口づけして」
「君がそれを望むなら」
「マサムネが嫌なら、しなくていいよ」
「俺? したくてしたくて、たまらないよ」
俺は、喜んで彼女の全身を清めることにした。
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