【継続は力なり】③


 ――空に光の花が瞬きました。

 切り裂かれた魔力の残滓が花火のように炸裂し、彼女に敗れ消え行く敵と共に、雨となって地上へと降り注ぎます。

 彼女の、彼女たちの、勝利でした。

「リーゼ!」

 マーカスが、空より舞い降りんとするリーゼに駆け寄ります。

 純白の翼を羽ばたかせ、金色の風を纏うその姿は、まるで天使。

 彼女は地面に降り立つと、戦友に向かい腕を伸ばしました。

「マーカス、……いい上腕二頭筋を見せてもらったわ」

「お前こそ。心の筋肉、この目でしかと見届けたぜ」

 ――二人は、鍛え上げた前腕部を打ち付け合いました。

 民衆の歓声が、街中に響き渡ります。

 しかし、誰もが勝利の喜びに打ち震えていたその瞬間――。

『くはは……精々喜んでいるがいい……』

 地の底から響き渡るような恐ろしい声が、周囲に木霊します。

『じきに第二、第三の魔王が現れるだろう……終わりなどは、ない、……』

 それだけを言い残すと、魔王の声は徐々に遠のき、溶けるようにして消えて行きます。この先も続くであろう、人間と魔族の戦いを予言して。

 その声に皆が押し黙り、痛いほどの静寂が辺りを支配します。

 誰もがその予言に、自らの立場を示しかねていました。

 ですが。

「――リーゼ様!」

 遠くから駆け寄ってきたエミリアの声が、沈黙を破ります。

 多少は回復しているようですが、相変わらずぼろぼろの格好でした。それでも、加勢をしようと駆けつけてきたのでしょう。

 涙混じりの声に、リーゼとマーカスは頷き合います。

 そして、少女の元まで歩いて行くのでした。


 この物語はひとまず、ここで終わり。

 ですが、魔王の言った通り、彼女たちの戦いはまだまだ終わりません。いつか襲い来る脅威に備え、彼らは鍛錬を続けなければならないのですから。それに――。

 筋肉は、不断の努力によってのみ培われるものです。

「リーゼ様ぁ!」

 ぐしゃぐしゃの顔で飛び込んでくるエミリアを受け止めながら、リーゼは光舞い落つ秋空を見上げました。

 虚仮の一念、岩をも通す。

 千里の道も一歩から。

 そして継続は、力なり。

 彼女たちの戦いは続きます。次なる敵に備えるため、そして理想の筋肉を手にするまで、いや手にしたとしても、トレーニングに終わりなどありません。

 秋は、筋トレを始めるにはベストな季節です。

 だから、リーゼは仲間たちの方を向いて、こう言うのでした。

「二人とも、私たちの戦いは――」


 そう。

 彼女たちの戦いは、これからです。

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ハイルデアムスケル 〜女勇者は屈しない〜 瀬海 令和 @Eugene

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