『日比月リリィの淫靡なる奇行』(14)エピローグ 狙われた財宝
結局夜美とパルムの二人は、お互いを侮り難しと思ったのか、ヤスへの告白を取りやめることとなった。
ヤスの心がいまどちらに傾いているのかわからない……と二人ともが判断したためだ。
はっきり言って夜美以外にヤスがなびくことはないと思ったけれども、ヤスは夜美以外の女の子には優しくなるので、そこで色々な勘違いが起きても仕方がない。
「……先輩、ヤスに告白したらダメですからね? 私は先輩の傷つく顔を見たくありませんから。どうせヤスは、先輩のことなんて何とも思ってないわけですし……」
「……それはこっちの台詞だぜ、夜美。アタシはあいつの魂ともいうべきペンタブを譲られたんだ。これはもう、他の女なんて一切見ないっていうあいつの意志の現れだろうし……」
「……ヤスは優しいですからね? 好きでも何でもない人も、その気にさせちゃうんです」
「……ああ、お前を見てるとそれがよくわかるってもんだ」
そうしてパルムが門限の時間を思いだし、帰り支度を始める最後の最後まで、二人はねちねちと相手サゲを続けていた。
禍根は残った――というか、今後のことに心配しかなかったものの、私はひとまずの危機が去ってほっと安堵の息を吐いた。
……ああ、焦った。これからは、もう少し獲物にする女の子は選別しよう。
※
その三日後、私は《サキュバス界闇の権力》の中でもっとも力ある機関――《色欲五覇星》の招集を受けていた。
《色欲五覇星》とは、五人の最上級サキュバスによって形成される組織で、そこに席を置く誰もが色欲さまの大のお気に入りであり、一度はそのお方から直接の託宣を賜ったことのある『巫女』たちである。
いったいなぜそんな機関が私に用があるのかと考えてみて、最初に思いついたのはもちろんパルムのこと。
サキュバス界闇の権力の中で幅を利かせるサキュバムート家の一人娘の心を弄んだとして、お叱りを受けるのだろう、と。
パルムはあれから屋敷に帰ってから改めて考え直してみて、やはり私のやり方を快く思わなかったのかもしれない。そして、母親に泣きついたのかも……。
「入りたまえ」
ドアをノックしてしばらく待つと、壁の向こうから凛とした声が響いた。
その日に私を待ち受けていたのは、五覇星の筆頭巫女さま。
黒い着物に身を包むその姿はあまりにも美しくて気高く、流石の我慢強い私も思わず劣情を催してしまうほどである。
「足労だったな、日比月リリィ」
「……いえ」
「我々がお前を呼んだ理由がわかるか?」
筆頭巫女さまの鋭い視線が、私を射抜く。
勘違いされるのが困るので白状するけれども、私はどっちかというとMだ。
可愛い子をいじめたくなるという気持ちも当然あるものの、どちらかというと組しだかれたいという願望の方が強い。
「……いえ、わかりません……はあ、はあ……」
「なぜそんなに息を荒げている?」
いまのシチュエーションに興奮してるからです、などとは口が裂けても言えない。
「私が何か粗相をしたのでしょう。そのお叱りを受けるのでは、と……」
「粗相? 勘違いをされては困る」
筆頭巫女さまは、かたちのいい眉をくいっと上げる。それだけで、並みの男ならば絶頂に導かれるだろうと思った。
「サキュバムート家から受けた報告のことだ」
「ああ、やはり……」
パルムは母親に泣きついたのだ。そして私にお叱りを受ける機会をくれたに違いない……。
しかし。
「――お前がすばらしい欲求素材を見つけたというではないか。そしてその発掘に、サキュバムート家のご令嬢であるパルム殿があたっていると」
「は、はい?」
筆頭さまの言葉が予想していたものではなく、私は途端に困惑することになった。
「ラクト殿が直接ご令嬢から聞いたらしい。そして他ならぬ色欲さまのためと考え、我々に報告してきたというわけだ」
「ちょ、ちょっと待ってください……すばらしい欲求素材とは……?」
「それを隠し持つ人間は、分類するならば、いわゆる不能者に属するのだろう。しかし、特別な対象にだけ欲求を向けることもあるという。極めて難しい条件であるがゆえに、我らサキュバスが、その欲求を完全なかたちで手に入れたことはないと思われる」
嘘でしょ……?
私は、目の前が暗くなるのを感じた。
お叱りを受けるのではなかったのか。ではこの身体の疼きを、どうやって鎮めればいいというのか。
絶望の中、筆頭巫女さまは言葉を続けた。
「……お前の意見を聞きたい。心の中に財宝を隠し持つ、津雲康史という男について」
続く
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