第19話【一致協力】
色々と情報収集した結果【
でも、結局のところ皆同じような情報ばかりで、私の欲しい新たな情報は得られなかった。
私が地図と睨めっこしていると、
「キョウダイ、そんな難しい顔しても、結果は変わらないだろ」
悠々と毛繕いしつつ、オルグが私を諭してくる。
「そんなことわかってますよ。けど、今ある情報だけでは、心許ないんですよね。私としては、あと一つくらい手掛かりが欲しいです。無駄骨だけは兎に角、避けたいので……」
そう、私達には時間がない。だから、出来るだけ、ローリスクでハイリターンが望ましい。
「まぁ、それはそうだけどさ。一通り
オルグの的確な言葉が私に突き刺さる。
「う、確かに……」
しかし、もうちょい、言葉ぼやかせないかい。仮にも私は主人なんですよ。この使い魔は。
「嗚呼、もう、悩んでても埒があきませんね。ここは気分転換に酒場にでも繰り出しますか。ね! オルグ」
私は場の雰囲気を変えるべく、オルグに提案した。
「お、いいんじゃね。んっ?! って言うかさ。キョウダイ、まだ、酒場には、一度も立ち寄ってないんじゃないの」
「あっ?! ホントですね。私とした事がアホですね。情報収集するなら、先ず最初に浮かぶ場所なのに。完全に頭から抜けてましたね。言い訳させて貰えるなら、散策後、酒場に顔を出すつもりだったんです」
「そんな言い訳しなくたって、別にオイラは責めないし、今回ばかりは、それに気付かなかったオイラも同罪みたいなもんだしさ」
使い魔に同情される主人って、ホント情けないなぁ。私は物凄い自己嫌悪に陥れば、
「はぁぁ」
「何だよ。ため息なんか吐いてさ」
私の思わせ振りな態度に、訝しむオルグ。
「いえ、何でもないですよ、何でも……」
私は額に手を当てながら、ゆっくりと首を左右に振りオルグを制止する。
「何だかな……」
オルグは納得してない素振りを見せつつも、それ以上は追及してこなかった。
「それより、ここでグズグズしてても、しょうがありませんし、早く酒場へ行きましょ」
この状況から脱したかったので、私は話を早々に切り上げて、酒場へと向かった。
酒場のスイングドアを開けると、店内のそこかしらより、煙草の煙がモクモクと立ち昇る。次いでやって来たのは、蒸せ返る程のアルコール臭が鼻を突く。
目の前では、客達の賑やかす声に時々罵声が飛び交ってた。
もっと場末感があると思ってたけど、なかなか繁盛してるようですね。
はてさて、エイブラム達は何処にいるのやら……。
私は出入口より、店内を見渡した。
酒場の奥で、一際騒がしい集団に目を向ければ、そこには見知った顔がちらほらと見える。
「やぁ、ダリエラ。用事は終わった様ですね」
「ん?! エイブラムでしたか」
不意に肩を叩かれれば、そちらに振り返えると、そこには、グラス片手に一人佇むエイブラムの姿があった。
なんだかんだで、絵になる人物ですね。
けど、個人的には少しくらい隙を見せてくれた方が良いかな……。
「アレ、エイブラムは、お一人ですか」
「はい、流石に私もあの中に入るのは遠慮したい」
そう言いながら、エイブラムは苦笑い浮かべつつ、酒場の奥へと目をやった。
エイブラムに釣られて、私もそちらへ視線を送ると、馬鹿騒ぎしてるアホ達の姿がある。
「……確かに、私もアレは遠慮したいです」
その集団に冷ややかな視線を送りつけながら、私もエイブラムの言葉に賛同した。
「立ち話もなんですから、私達も席に着きませんか?」
「それも、そうですね」
なるべく集団とは関わり合いたくないので、アレらに見つからないよう距離を置いて席に着いた。
私とエイブラムは、二人静かにお酒を嗜んだ。
はぁ、美味しい……あ、しまった。
ナニ、ほっこりお酒を楽しんでるのだ、私は。
ココへは、情報収集に来たはずなのに。
しかし、情報収集するにしても、誰彼構わず聞いてまわれないんですよね。特に、この場所では……。
私の見たところ、酒場にいる大半のお客が
だからこそ、ここで有益な情報も得られるだろうけど、それと同じくらい嘘の情報も確実に掴まされる。
それで、やってはいけないことがある。
それらの情報を得ることによって、自身で情報を錯綜させてしまう。これが一番不味い。なので、相手に探りを入れつつ、情報を得るような形になってしまうのたけど、多分、コレ、物凄く労力も時間もかかる。
何にせよ、私には、余り時間がない。
はぁ、何処かに、私の目的と競合しなく、且つ、この【
「あ?! いた……」
その人物と目が合うと、自然と言葉が溢れ出た。
「どうかなさいましたか? ダリエラ、私の顔に何か付いてます?」
不思議そうな顔をして、私を見つめ返してくるエイブラム。
そうです、そうですよ! 私は、何やってんだか。こんな近くに、これ程、お誂えな向きな人物が居るのにさ!
そう、エイブラムは魔導考古学者だった。
エイブラムの目的である【
となれば、話は早いです。
「エイブラム、折り入って、お願いしたい事が御座います」
「突然、どうしたのですか? ダリエラ」
私の変わり様に、眉を寄せるも、
「……何か訳ありのようですね。分かりました。お話、伺いましょう」
私の表情から心情を読み取ったのか、エイブラムは、愁眉を開き、柔らかな面持ちとなれば、私に一つ返事を返してくれた。
「ありがとう御座います。エイブラム、端的に申し上げますと、私に、貴方の魔導考古学者としての知識を貸して頂きたいのです」
「フフッ、本当に端的ですね。そう言って頂けるのは、吝かではありませんが、理由をお聞かせ頂いてもよろしいですか?」
エイブラムの言葉で、私は気付かされる。いつもの様に振る舞ってはいたものの、冷静さを欠いていたようですね。自分でも知らない内に、焦りを感じてたのか。
全く、私はダメダメですね。
「こちらの事情も話さず、気ばかり急いていたみたいですね。申し訳ありません、エイブラム」
「いえいえ、お気になさらずに。それで、お話を聞かせて貰えますか?」
「はい、勿論です」
私はエイブラムに、これまでの出来事を掻い摘んで説明して行った…………。
エイブラムは、卓上に置いたグラスを掲げると、氷をカランカランと打ち鳴らせば、
「なるほど、そういう事でしたか。いくら魔女とはいえ、女性一人で、この【
掲げるグラス越しに、ニンマリと薄笑み浮かべて私を見つめていたエイブラムより、厳しい言葉が吐かれた。
「うっ、エイブラムって、意外と意地悪ですね」
「え、知らなかったですか?」
と、惚けるエイブラムに、
「そんなの知るわけねぇし」
と、突っ込む私。
『プッ、クク、ハッハハハハ!』
私とエイブラムのしょうもないやり取りが、何故だか、二人して妙にハマったらしく、互いに肩震わせ、大笑いしていた。
「いやいや、笑った笑った。ふぅぅ……ところで、ダリエラ」
エイブラムが一息吐いて胸を撫で下ろすと、真剣な表情へと変わった。
「はい……」
私は、じっとエイブラムの次を待つ。
「【
私を気遣って言葉を選び説明してくれてはいるけど、現状では、絶望的だと聞こえる。
くっ、一番欲しく無かった結果。
自分の無能さが憎い。
「捕獲は難しい……そうですか……でも、無理では無いのですよね?」
私は何とか自制を保ちながら言葉を吐き、そして一縷の望みを掛けて、尚もエイブラムへと縋った。
「確かに無理では無いですが、それは、藁山の中から針を探すかの如く、所業ですよ。奇跡に近い。ですが、ダリエラ……」
「は、はい……」
私は固唾を呑みエイブラムを見つめた。
「【
柔和に顔を綻ばせたエイブラムより、齎された言葉。
「そ、それは本当で御座いますか!」
それを聞いた私は、机の上より身を乗り出して、エイブラムに迫っていた。
「ダ、ダリエラ、少し落ち着いて下さい」
「はっ?! し、失礼しました……」
私が姿勢を正せば、再び話を続けるエイブラム。
「それで確率的に言えば、捕獲するよりグンッと上がりますよ。とはいえ、絶対にとも保証は出来ませんけど……」
「いえ、無知で無謀な私には、その言葉が、何より励みになります。エイブラム、再度お願い致します。私に力をお貸し下さいませんか?」
「勿論ですよ。この話を伺った時から力になれたらと思っておりましたから……」
快く承諾してくれたかのようなエイブラムだけど、何処か含みのある笑顔が向けられた。
「ありがとう御座います! エイブラム」
私が謝意の言葉を述べると同時に、エイブラムは、またも深妙な面持ちになり、話を切り出してくる。
「しかしながら、ダリエラ。私が一方的に知恵をお貸しするだけなのも、何かと不公平ですよね。だから、交換条件としてダリエラの魔女の知識を【
確かに、エイブラムの言うことは、理にかなってますね。自分の力を貸す代わりに、私の力を貸せと言うのは……どうしようか? エイブラムの顔を見れば、ニコニコして此方を伺っている。うーむ、私を同行させた時点で、元々、そう言う腹積もりだった様な気もし無いでも無いですが、今は考えないでおきましょう。それに、私にも背に腹は変えられない事情もあります。ここは腹を決めて、承諾するしかありませんね。
「わかりました。【
「ええ、約束を違える様なことは致しませんから、ご安心下さい。では、我々の前途を祝して乾杯といたしましょう」
「ええ、そうですね」
『乾杯!』
私とエイブラムは、互いにグラスを掲げ上げると、そのままグラスを合わせた。
グラスの打ち合うチリンと言う子気味良い音が響いてくると思っていたのだけれど、それは酒場の外より、突然の警鐘に、悲鳴に、叫喚によって、その音が掻き消される。
「な、何事ですか?!」
エイブラムが椅子から立ち上がり、スイングドアの向こうへ視線を送る。
「キョウダイ、嫌な瘴気が漂ってくるよ。これ、ヤバい奴だ」
今まで、私の足下で大人しく香箱座りしていたオルグが、サッサと私の肩まで登って来たなら、私にそっと耳打ちする。
「はい、私も肌がピリピリ粟立ってます」
どうやら、ナニかが現れたようですね。
外から聞こえる阿鼻叫喚が、更に激しくなる。
酒場にいる
「ダリエラ、嫌な予感がします。私は準備の為、一先ず天幕へ向かいます。貴女はどうします?」
「ええ、私も、丸腰ですので、自分の天幕に道具を取りに行きます」
私達も急ぎ酒場の外へと出た。
「……あれが【
それは遠目からでも分かる。その巨大さと異質な姿に、私は息を呑んだ。
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