第98話 味方か、罠か(現実、創作)

(現実)


 日曜日の朝、9時過ぎ。


「……黄金騎士団長、って名乗っているけど……どう思う?」


 俺は、突然届いたダイレクトメッセージを美香に見せた。


「……S社とかB専務とか……これって、完全にバレてることない?」


 彼女は、驚きと困惑の入り交じった表情を見せながらそう口にした。


「そうだよな……でも、作者が俺だとバレているかどうかは分からない」


「……あ、そっか。ツッチーが小説書いてるなんて、知ってる人ほとんどいないもんね。私と、優美ちゃんと……風見君は知らないんだよね?」


「ああ、少なくとも俺が話したことはないし、そもそも、あいつだったらこんなまどろっこしい事はしてこないな」


「そうね。『ツッチーさん、水くさいっすよ、秘密にしてるなんてー!』とか言ってきそうだもんね」


 悪戯っぽく風見の口調をまねる美香。


「ははっ、似てるな……あと、虹山さんも……知らないはずだな」


「それはどうかな……でも、虹山さんでもないと思うよ。何か協力してくれるなら、今までみたいに直接言ってくれると思うから。今更わざわざ素性を隠すようなことはしないと思う」


「そうだな……もちろん、優美でもないだろうし……」


「うん。ダンディーさんでもないね。そもそもアカウントが違うし」


「……なんでそこでダンディーさんが出てくるんだ?」


「えっ、何でって……なんとなく」


 美香が、ちょっと慌てた様子だったので気にはなったが、今はそれよりも黄金騎士団長の正体を突き止める方が先だ。


「今まで、感想とかも一度ももらったことのないアカウントからの、いきなりのダイレクトメッセージだ。協力したいと言われても、すぐに信用する訳にもいかないな。何かの罠かもしれないし、あるいは、単なる愉快犯かもしれない」


「そうね……無視するっていう手もあるかもしれないけど、『現在の大きな問題も踏まえて』っていう一文が気になるね。ひょっとしたら、本当に協力してくれる気なのかも。備前専務のこと憎んでた人、いっぱいいたと思うし、会社が大変な状況なのも間違いないし」


「なるほど……この人が同じ会社の人で、パワハーラ・ザイゼンのモデルが備前専務だと気付いているのなら、現状なんとかしたいって思っててもおかしくないな……この作品の作者がシーマウントソフトウエアの社員だと気付いてはいるけど、誰か分からないから、自分も正体を隠して俺にメッセージを送ってきた……そういうことか。けど、俺の方から正体を明かすのはリスクが大きいな。あと、『黄金騎士団』って言ってるところも気になる」


「……どういうこと?」


「つまり、一人じゃないってことだよ」


「……ツッチーって、意外と細かいことに気付くんだね。小説家に向いてるかも!」


 美香が、大げさに驚くようにそう言った。


「こんなの、誰でも気付くよ。っていうか、気付くようにメッセージを送ってきているとしか思えない。つまり……試されてるんだ」


「……何を試されてるの?」


「多分だけど……俺が本当に、一度備前専務を打ち負かした張本人なのかどうかを、だよ」


「……すっごーい! ツッチー、推理小説家になれるよ!」


 美香が、今度は幾分、本当に驚きを含んだ表情で声を上げた。 


「このぐらいで推理小説家になれるとは思えないけど……黄金騎士団長、か……こいつ、パチンコ好きかも」


「えっ……ぱちんこ?」


「いや、何でもない……そもそもあのストーリーに、黄金騎士は一人しか登場しないけど……まあ、いいや。ちょっと試してみるかな」


 俺はそうつぶやいて、小説の続きを書き始めた。


**********


(創作) 


 サイトウ遊撃隊長から衝撃の事実を知らされた俺たちは、対策を練るべく、ミイケ副団長と共に一旦、城へと戻った。


(ちなみに、サイトウ遊撃隊長はバグ退治の残りを引き受けてくれている)


 すると、ミイケ副団長の部下の一人から、黒い封筒に入った手紙を受け取った。

 そこには、


「パワハーラ・ザイゼンの復活に危機感を抱いている。是非、勇者殿に協力したい。その気があるなら、その意志を示して欲しい。その暁には、仲間と共に闇に紛れて貴殿の元に馳せ参じよう――黄金騎士より」


 と書かれていた。


「黄金騎士だって!?」


 俺が驚きの声を上げる。


「……なんて胡散臭いんだ……」


 これはフトシ課長代理の台詞だ。


「……この人、どうしてパワハーラ・ザイゼンの復活を知っているの?」


 ミキも懸念を示している。


「うーん……なんか、怪しいっすね。信用しない方がいいっすよ」


 普段脳天気なシュンも、ここは慎重だ。


「そうだな……けど、もし本当に協力してくれるなら、味方は一人でも多い方がいい。今はそういう状況なんだ。だからせめて、黄金騎士とやらの正体が知りたいな。どう意志を示せばいいかも分からないし……何か事情があるなら、そのヒントだけでも教えて欲しいところだ」


 俺は一言、そうつぶやいた。

 この言葉に、仲間達は全員、深く頷いた――。

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