第11話 聖 (創作、現実)
ショムーブの町では、セクハーラ・トウゴウの魔の手から解放されたことを喜び、そして俺たちを称える宴が一晩中繰り広げられた。
俺達の行動が、これほど感謝されたということに、少しの照れと、そして大きな達成感や喜びを感じることができた。
しかし、これで満足してはいけない。
この世界には、まだまだ闇に『堕ちた』俺達の元同僚や、諸悪の根源たる『邪鬼王』が存在しているのだ。
宴の日だけは夜更かしをしたが、翌日の昼過ぎには、もう次の戦いに備えて、拠点としているアイザックの館に戻らねばならなかった。
老魔術師による転移の魔法にて、俺たちが姿をかき消すその瞬間まで、町人達は手を振り続けてくれたのだった。
館に戻った俺たちは、さっそく次の戦いに備えて、会議室へと集まった。
「皆、よくやった! 特に、劣勢を逆転させたユウの行動、そしてセクハーラ・トウゴウにトドメを刺したヒロの殊勲はすばらしいものじゃ!」
アイザックが、珍しく絶賛してくれた。
シュンも攻撃を当てていたのだが、やはり、妖魔化しているとはいえ、元同僚にトドメを刺すことの精神的な負担はかなり大きい、それを成し遂げたからこそ意義がある、と、連続で褒めてくれた。
あらためて、各々のステータスを確認してみた。
名前:ヒロ
称号:勇者
戦闘力:1300
生命力:1400
魔力: 680
名前:ミキ
称号:魔術師
戦闘力:200
生命力:490
魔力: 700
名前:ユウ
称号:聖治癒術師
戦闘力:250
生命力:420
魔力: 600
名前:シュン
称号:弓使い
戦闘力:800
生命力:800
魔力 :210
名前:フトシ
称号:商人
戦闘力:3
生命力:1401
魔力: 0
「あ……なんか私、『聖』っていう文字がついていますっ!」
ユウが、嬉しそうにそう叫んだ。
「ふむ……『聖治癒術師』か、これはめずらしい」
「……えっと、『聖』が付くと、どうなるんですか?」
称号が変わった彼女は、少しだけ不安そうに尋ねた。
「確か、同じ魔力量で、同じ魔法を使ったとしても、効果が2から3割増しになるはずじゃ。デメリットは特にない」
「……すごい、今までよりずっと魔力を節約できるんですね!」
「同じ魔力でより高い効果を得られる、とも言い換えることができるのう」
アイザックも、最も年齢の若いユウが成長著しいことを喜んでいるようだ。
ミキも、シュンも、相応に成長している。
フトシの攻撃力については……これはもう、突っ込むまい。
生命力、俺より1だけ高いのが無性に腹が立つ。
そしてアイザックは、次に戦うべき敵を教えてくれた。
「商業都市カイケーイが、恐ろしく強力な口撃力をもつ女妖魔の侵攻を受け、犠牲者を大勢出しているという。そやつは、セクハーラ・トウゴウと同じく、異世界から召喚された元人間。元々は同じ職場の人間ということになるじゃろう」
彼の言葉に、どうしても重い雰囲気となってしまう。
「そやつの名は、『ヒステリック・モラハーラ』、ヒステリックもモラハーラも人格の一種を現したものだと思われる。そして固有の名前を当てはめた、『ヒステリック・ヤマモト』という別名も持つ。ハラスメント四天王の一人じゃ」
この言葉にも、「三人しかいないだろ」と突っ込む者はもういなくなった。
まあ、一人倒されて、残り二人になったし、今更だ。
「ヤマモト……ヒステリック……まさかっ!」
ミキが口元に右手を添え、目を見開いて立ち上がった。
「……会計課のヤマモト係長……」
ユウは、青ざめていた。
ヤマモト係長は、ちょっとしたことでもすぐにヒステリックに喚き散らす、アラフォーの独身女性だ。
書類にミスでも見つけようものなら、鬼の首を取ったようにその社員がいるフロアに乗り込んで来て、大勢が見ている前だろうが容赦せず、徹底的に叱責する。
その様子から、社内でも彼女の登場を恐れ、おののく者は多かった。
新入社員のユウも、一度被害に遭ったことがある。トラウマになっていなければいいが、と思っていたが、今の様子を見れば、しっかり恐怖が刷り込まれているようだった。
「……ふむ、今の皆の表情……それほどの強敵なのか?」
「「「「「はい……」」」」」
俺たちの声は重なり、そしてそれ以上続くことはなかった――
**********
(現実世界)
土屋が最新の話を公開すると、ほんの三十分ほどで最初の感想がついた。
『投稿者:カワウソ 20歳~25歳 女性
新しい中ボス? 名前が明らかになりましたね。
今回はどんな戦いが見られるのか、とても楽しみです。
ところで、ヒロさんが好きな女性は、やっぱりユウさん、ということでしょうか。
個人的な意見ですが、勇者のヒロさんは、幼馴染みのミキさんに対しては、なんとも思っていないのかなとちょっとだけ気になりました。あと、ミキさんにも、もっともっと活躍してもらえればいいのにな、とも思っています』
(はて? カワウソさん、ミキのファンのようだけど、彼女はフトシを魔法で丸焼きにしたのと、セクハーラ・トウゴウに言葉によって辱めをうけた以外、特に見せ場は無かったと思うけど……)
土屋は少し首を傾げたが、
(彼女はちょっと気が強いところがあると自分で書いていたし、似たような性格のキャラクターのことを好きになるのかもしれないな……)
と、あまり気にとめなかった。
そして、返信として、
『カワウソ 様
感想、ありがとうございました、励みになります!
カワウソさんは、ミキが好きなんですね。彼女、今回の冒険では、大活躍する予定です! 恋愛に関しては、これはどう転ぶのかは、実は作者の僕にも予測がつかないです。幼馴染みが彼女、っていうのも、アリかもしれないですね!』
とだけ返して、特に深く考えることもなく、ただ昼間の優美の可哀想な姿を思い出して、何もできなかった自分のふがいなさを悔しく思いながら、なかなか寝付けない夜を過ごしたのだった。
----------
※土屋はいろいろ鈍感です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます