第9話 勇者誕生! (創作、現実)
セクハーラ・トウゴウを倒した俺たちは、未だ捕らわれていると思われる、ショムーブの町から誘拐された女性達を助け出すために廃城内へと入っていった。
ちなみに、先程のユウの質問は、
「えっと、まだ子供っぽい男子のことを『どーてー』って言うんだよ」
というふうにごまかしておいた。
「ふーん、じゃあ、みなさん、その『どーてー』なんですね。別に恥ずかしい事じゃないですよ。三人とも、『どーてー仲間』ですね!」
と笑顔で慰めてくれる。
可愛いし、悪意がないのは分かっているのだが、それだけに何とも言えない気分になる。
とりあえず、
「いや、男にとって『子供っぽい』と思われることは結構傷つく時があるから、あまり口にしない方がいい。人によっては怒ったりするから、禁句だよ」
とアドバイスすると、真顔になって、納得してくれた。
うん、素直で良い娘だ。ますます気に入ってしまう……。
城内に入ると、危惧していた妖魔の姿はなく、意外と小綺麗に清掃されていた。
うろうろしていると、客間がいくつも並んでいる廊下があって、そこから女性達のすすり泣く声が聞こえたので、ドア越しに問いかけると、予想通りショムーブの町の女性達だった。
錠がかかっていたが、一番奥の書斎みたいなところに束になっていた鍵を見つけたのでそれで解錠。二人部屋が七部屋あり、計十四人もの女性を助けた。
たしかに客観的に見て、容姿の優れた女性達ばかりだった。
俺たちがセクハーラ・トウゴウを倒したことを告げると、涙ながらに感謝の言葉を述べられた。
思ったほど酷い扱いを受けたわけではないらしく、清潔な部屋で、質素ながら三度の食事もきちんと出ていたし、決まった時間にシャワーも浴びることができたという。
なぜかメイド服を着せられていたが。
しかしながら、毎日、
「そろそろ、俺のものになる気になったんじゃないかね?」
と誘惑され続けたという。もちろん、彼女たちは拒み続けたのだが、
「せっかくもっと良い暮らしができるというのに……残念だ」
と、以外とあっさり引き下がっていたらしい。
「ふむ……力尽くではなく、東郷課長なりにプライドを持って『落とそう』としていたということか……突然地位と権力を持った者が陥りそうな罠だな……」
フトシが、深く頷きながらそう話す。
あんたも、もし邪鬼王の元に召喚されたら、同じ様になってたんじゃないか……とは、思っても口に出さない。
女性達によると、後三人足りないという。
城内をくまなく捜していると、一回り大きな寝室がいくつか並んでいる場所があり、それぞれの個室に、毛皮のコートをはべらせ、指に大きな指輪を着けた女性が三人見つかった。
「やだ……トウゴウ様、死んじゃったんだ……ま、しょうが無いわね……せっかく贅沢できていたのに……」
「ホントね……でもまあ、あいつ、気持ち悪かったし」
「そうよね。結果オーライ、ってとこかしら。ちょっと観光旅行に来てたと思えば良いわね」
どうやら、セクハーラの誘いに『落ちた』女性達のようだった。
その態度に多少呆れたのだが、
「セクハーラが死んでしまった以上、ここにいても誰も養ってくれないので帰る」
ということとなった。
三人は、自分達が『落ちた』ことを隠すために、他の女性達と同じ、メイド服に着替えた。
そしてみんなでぞろぞろとショムーブの町に戻ると……。
「……あなた! 会いたかった、怖かったのよー!」
「お父さん、お母さん、心配かけてごめんなさい!」
「ああ、ダーリン! また生きてこうして会えるなんて、神に感謝します!」
大泣きしながら真っ先に家族や婚約者の元へと走っていったのは、『落ちた』三人だった。
女の人って、ずるいと思った。
他の女性達も家族と感動の再会を果たし、待っていた町人達にも俺たちがセクハーラ・トウゴウを倒したことを告げると、さらに盛大な歓迎を受けた。
特に俺に対しては、
「勇者様、勇者様!」
と、照れるほど持ち上げられた。
「やだなあ、僕はまだ『勇者候補』ですよ!」
そう謙遜したのだが、アイザックが微笑みながら、
「果たしてそうかな……自分のステータスを確認してみなされ」
と言ったので、その通りにしてみると……。
名前:ヒロ
称号:勇者
戦闘力:1300
生命力:1400
魔力: 680
「あ……称号が、『勇者』になってる!」
思わぬ昇格に、俺は思わず声に出してしまった。
「邪鬼王軍の幹部、ハラスメント四天王の一人である『セクハーラ・トウゴウ』を倒したのじゃ。もはやヒロは、『候補』ではない。正真正銘の『勇者』じゃ!」
アイザックが高らかに宣言する。
「おおっ! 勇者様誕生の瞬間に立ち会うことができるとは!」
「なんという良き日だ! この町は救われ、娘達も戻った! いずれここにいらっしゃる勇者様御一行が、世界を解放してくださるだろう!」
町人たちが大歓声を上げている。
「すごい、すごいです、ヒロさん! やっぱり、勇者の素質があったんですね! 私、前からヒロさんなら、何か大きなことをやり遂げてくれると信じてました!」
そう言葉にしながら、ユウが目をウルウルさせて、俺の両手を、彼女の両手で包み込んでくれた。
急に顔が熱くなり、心臓が早鐘を打つのが分かった。
そして俺は確信した。
ああ、俺は、ユウのことを本気で――。
**********
(現実世界)
土屋が最新の話をネット上にアップして、約二時間後。
そろそろ寝ようかと考えていた時に、スマホにメールが届いた。
送り主は、高専時代の同級生で、かつ、同期で同い年、同僚の火野美香だった。
二人は、特に交際しているわけではないが、同僚として、友人として、一週間に一回ぐらい、会社の愚痴などをメールでやりとりしていた。
また何か、嫌なことでもあったのかなと思い、その内容を読んで、彼はひどく混乱した。
そこには、こう書かれていた。
「ツッチ-って、優美ちゃんの事、好きなの?」
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