体育祭 お昼休み 後編

「さて 」


 係がいなくなった後、凛は満を持してといった感じで言う。


 その場は少し緊張の空気に包まれた。


「まず、あなた達に言いたいことがあります 」


 4人の誰かがゴクリと唾を飲み込む。

 先程の明るい感じの凛ではなく真面目にしっかりと4人を見据えているからだろう。


 何を言われるのかつい身構える。


「ありがとう 」

「ありがとうございます 」


 凛と優香はしっかりと頭を下げた。


「えっ 」


 それはついついでた言葉で誰のものかは分からない拍子の抜けた声だった。


「係は、高校に入ってよく笑うようになったの。それに、夕食の場でよくあなた達のことを話しているわ 」

「先に言います、お兄ちゃんを悲しませるのは許しません。けれど先程は申し訳ありませんでした、少し嫉妬してました。悔しいですけどあなた達のおかげでお兄ちゃんが楽しそうなのは事実です 」


 急に感謝を述べられ誰も即座に反応する事は出来なかった。


 ただ、自分達も係を笑顔にできている、一緒にいて楽しいと思ってくれているという事実になんとも形容し難い嬉しさで溢れていた。


「あの、頭を上げてください。私達こそ係君にはお世話になってばかりで 」


 いち早く反応できたのは日奈子であった。


 凛と優香は頭をあげる。


「ありがとう 」


 凛はあらためて例を述べた。


「でも、家族仲が良さそうで私達の方こそ羨ましいと思いました 」

「あの笑顔は僕達の前ではまだ出ないですよ 」

「羨ましい 」


 歩美と恵と桜は本当に羨ましいと思っていた。

 係と関わり始めてもっと仲良くしたいと思いがどのような形であれ現れ始めている、そんな中、仲の良さの差を目の当たりにして、少し悔しかったのだ。


「当たり前です。うちの兄の笑顔は安くはないです 」


 優香は自慢げに言う。

 敬語を使っているため真面目系だと思われることが多い、実際真面目ではあるが兄の事となるとこの通りである。


「もう、優香ったら。まあ、事実ですけど 」


 この姉もこの姉である。


 歩美達は直ぐに彼女達がブラコンであることを悟った。


「あの凛さんって、もしかしてモデルのrinじゃないですか 」


 恵は会った時から思っていた事をここだと思い言った。


「そうよ 」


 凛のバイトはモデルである。

 高校の時スカウトされ今ではかなりの人気を博している。


「優香さんも綺麗ですし、美形な一家ですね 」

「私はまだ中三ですしタメ口でいいですよ 」

「わかったわ 」


 コホン、と凛があからさまに咳をする。


「あなた達、係君のこと欲しい 」

「くださるんですか 」

「ほしい 」

「欲しいです 」

「ぼ、僕は別に… 」


 4人は凛の言葉に係と2人だかの事を想像し即座に反応した。


「まあ、あげるわけないんだけどね 」

「なっ、期待させておいてそれはずるいです 」


 日奈子は少し頬をふくらませながら言う。


「別に奪えばいいだけ 」


 歩美の本心からの一言に皆が釘付けになった。


「そう簡単に奪えるとお思いですか 」

「すでに、係は私にメロメロ 」


 歩美と優香の間に火花が散る。


「奪う、か 」


 桜はしみじみと言った。

 係の事をライバルだと言っているがここ最近の係とのやり取りを思い出し顔を赤くする。


「あらあら、ライバルが多そうね 」


 日奈子はそんな桜を見て何かを察した。


「まだみんなにチャンスがある訳ですし 」


 恵の目は燃えていた。

 恋愛とかはあまり分からないがそれでも係ともっともっと仲良くしたいと思っているのもまた事実であった。


 そのレジャーシートは異様な空気であろう。

 周りを通る人は、美人や可愛い子が笑顔で火花を散らしているのをみて少し恐怖を感じている。


「さて、そろそろ係も帰ってくるし皆そこら辺にしときなさい 」


 1番余裕のあった凛が皆を誘導する。


「そうですね 」

「うん、仕方ない 」


 皆、熱は覚めたようで穏やかな空気感に戻っていた。


 遠くに係の姿に見える。


「あなた達がお兄ちゃんと仲良くなるにはまだ色々と足りていません 」

「私達と同じステージに上がるにはいくつか壁に当たる事になる。……心の壁に 」


 凛と優香は予め決まっていたかのように交互に言う。


「お兄ちゃんを助けてあげてください 」

「私達だけではまだたりない 」

「本当にお兄ちゃんが欲しいならここまできてください 」

「私達の家族を 」

「「よろしくお願いします 」」


 係がどんどんこちらに来ている中聞こえないようにと早口で小さく、けれど真っ直ぐに伝えた。


 凛達からの急な言葉をそれぞれ受け取った。

 4人の頭の中は凛達のどこか切なくて、真剣なお願いがグルグルと回っていった。


「皆、ただいま。なにもなかった 」


 係は心配そうな目で皆を見る。


「なんか空気変じゃない、もしかして何かいったの凛姉 」


 歩美達はまだぎこちない様子で凛達はいつも通りで係は凛達が何か言ったのだと勘違いした。


「よろしくって言ってただけよ 」

「そう、仲良くなったから大丈夫よ 」


 歩美達もたてなおしたようでそれぞれがなにか答えをみつけたように少しスッキリした顔立ちだった。


「それならいいけど 」

「それじゃあ食べましょうか 」


 皆、各自弁当を取り出す。


「それじゃあ 」

「「「「「「「いただいます 」」」」」」」


 こうして、係不在のお昼休みは各自それぞれになにか考える事を残す形で幕を閉じたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます