体育祭 お昼休み 前編

「お昼だー 」

「お疲れだね係君 」

「誰のせいだと思ってるだよ 」

「さぁ 」


 午前の部の種目が終わり、昼休憩の時間となった。

 なんと今のところ3組は1位だったりする。


「係 」

「どうしたの歩美 」

「お昼食べましょ 」

「うん、歩美は親とか来てないの? 」


 この高校の体育祭は土曜日に行われていることもあって親が応援に来ている生徒も多いようで、観客席エリアが広々ととられていた。


「ええ、急に予定が入ったみたいで残念がっていたわ 」

「私も食べていい? 」

「もちろんだよ、恵も来てないの? 」

「私のとこは元々あんまり来ないんだよ 」

「私もいーれーて 」


 突然何かと思えばどうやら日奈子先輩が背中に飛びついてきたようだ。


 歩美は相変わらず日奈子先輩を睨んでいる。


「先輩もですか 」

「なにが? 」

「親とかきてないんですか 」

「こないよ、あの人達は 」


 日奈子先輩は遠い目で言った。


 ああ、無神経だったかもな。


「じゃあ食べましょうか 」

「私は反対なのだけど 」

「まあまあ歩美ちゃんそう言わずに 」


 しばし、睨み合いが起こる。


「もう、先輩も歩美ちゃんも早くお昼にしましょう 」


 なんと恵がその場を収めてくれた。


「それもそうね 」

「むぅ、腹が減っては戦も出来ぬね 」


 なにと戦うんだよいったい。


「歩美、僕と一緒に食べないかい 」

「桜 」


 キザっぽく言ったのは桜だった。


「あらあら、全員集合ね 」

「これは係君大変になるよ 」

「僕は別にお前と食べたいとかじゃないからな 」

「ぷぅ、私だけでいいのに 」

「もう、桜も歩美もいいから昼食にしよう 」


 少々面倒臭いやり取りはあったが結局この5人で食べる事になった。


「うわぁ、もう一杯だ 」


 お昼を食べるめぼしいスポットは既に多くの生徒が利用していた。


「そう言えば係の両親は来てないのかしら 」


 食べる場所を探していると不意に歩美が言う。


「そうね、挨拶しないといけないかしら 」

「なんの挨拶ですか先輩…。まあ、気にはなるかな 」

「別に僕は気にならんないがな 」

「僕の両親は 」


 歩美の言葉を聞いて言葉を詰まらせる。


色んなことが頭をぐるぐる回る。

 なにを躊躇っているんだ、本当の事言えばいいじゃないか。


 思いとは裏腹に言葉が上手く出てこない。

 大量に汗が出てきているような気もする。


「係? 」

「係君? 」

「大丈夫? 」

「どうかしたのか? 」


 4人が僕の異変に気づき心配そうにこちらを見る。

 珍しく桜も僕を心配してくれるようだ。


 ほら、そんな珍しい境遇でもないだろう、普通に言えばいいんだみんなは優しいしきっと…。


 ああ、そうじゃないか、そこじゃないのか。

 まだ駄目なのだ僕は。


 体育祭で浮かれていた気分が、引きずり落とされる。

 あぁ、僕上手く笑えてるかな。


「おっいたいた、なーに暗い顔してんのよ 」


 暗闇が広がる中、光が差し込むかのように聞きなれた声が聞こえる。


「凛姉? 」


 声の方を見ると凛姉がこちらに向かって大きく手を振っている。


「それに、優香 」


 優香は僕の顔を見ると急に怒った顔になりズカズカとこちらに近づいてくる。


「お兄ちゃん大丈夫ですか。誰が私のお兄ちゃんを傷つけた 」


 いつも敬語であまり怒らない優香が眉にシワを刻むほど、4人を睨んでいる。


 急な出来事に皆が驚いていた。


「優香違うんだ、僕が勝手に落ち込んでただけで 」

「本当ですか。強がってませんか 」

「うん 」


 じーっと僕を見る。


「嘘です。傷ついてます 」

「あー、まあそうかもだけどこの人達のせいじゃないから 」

「ほんとですか? 」

「うん 」


 再びじーっと僕を見る。


「ほんとのようです 」


 バッと4人の方に向いて、頭を下げた。


「すみませんでした 」


 4人とも気にしなくて良いと許してくれたようだ。


「でも、お兄ちゃんを傷つけたら許しませんから 」

「こーら、優香ちゃん 」

「いてっ」


 凛姉が優香の頭をペシっと叩いた。


「ごめんなさいね。この子いつも普通なんだけど係君が関わる事にはいつもこうで 」

「こうってなんですか 」

「ほんと、ブラコンすぎなのよ 」

「人の事言えないと思いますけど 」

「もう、二人共皆が困ってるじゃないか。ごめんね色々 」


 4人に頭を下げる。


「いえ、別に 」

「うん、気にしないでいいよ 」

「僕達の事は気にしなくてもいい、いい妹さんじゃないか 」

「私達こそ、係君を困らせたようで 」


 やっぱ皆優しいな。


「それよりなんで二人共きてるのさ 」


 今日の事は教えてなかったはずなのに。


「詰めが甘いのよ、係君は 」

「私が中等部にいることをお忘れですか 」


 なるほどそれでバレたのか。


 それでもまあ、来てくれて嬉しかったのは事実かな。


「ありがとう 」

「当たり前よ 」

「家族ですから 」


 先程までとは逆になんだかこそばゆくて温かい気持ちに引き上げられていく。


 素直に今日の事言えばよかったんだ。

 そうだよ、僕達は家族なんだから。




「なんだか、私達がお邪魔みたいになってしまってますね 」

「ほんとに仲がいい家族なんだな 」

「ええ、羨ましいわ 」

「ぷぅ 」

「何むくれてるの歩美ちゃん 」

「係、が笑ってる 」

「ああ、僕をからかっている時よりも 」

「うん、私がからかう時より 」

「明らかにいい笑顔をしてるわね 」

「悔しい 」

「ふふっ、歩美ちゃん可愛い。でもまぁ、…私がその笑顔にしてあげたかったんだけどなぁ 」

「そんな笑い方もできるんだね 」

「僕は別にどっちでもいいさ。まあ、ライバルとして思うとこはなくはないが 」


 あっ、またみんなを放置してしまった。


「ごめん、もし良かったらだけど挨拶を含めて僕の姉と妹も一緒にお昼食べない? 」


 どうせなら皆仲良くして欲しいし。


「挨拶、ええ、もちろんよ 」

「私もOKだよ 」

「ふふふっ、挨拶いい響き 」

「僕は元より歩美と一緒に食べるだけだ 」

「じゃあ決定だね 」


 それでいいかと姉に目配せする。


「ええ、あっちにレジャーシートを敷いているから行きましょう 」


 さぁ、やっと一息つけるぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます