体育倉庫

「ふふっ、初めての共同作業ねっ 」

「共同作業って、そういうのとは違う気もしますが 」

「二人きりね 」


 そう、今はなんと日奈子先輩と二人きりなのだ。

 何故こんな事になったのかと言うと、委員長の集まりがあって本当は陽太が行くはずだったのだが何故か来ないということで恵が呼ばれたのだ。




「ほんとすみません 」

「いいよ、しかないわ 」

「陽太が悪いしね 」


 恵は心配そうな目で僕を見てきた。


「先輩、あんまり係君に変なことしないでくださいね 」

「えぇ、変な事ってなにかなー」

「それは、その 」


 恵の顔が赤くなる。


「まあ、心配しなくても大丈夫よ 」

「そうですか…。それじゃあ、行ってきます。係君、ほんっとに気をつけてね。終わったら直ぐに帰ってくるから 」




 そう言って終始心配していた恵がいなくなり、直ぐにこの調子というわけだ。


「ふふっ、さぁ倉庫に入って準備するわよ 」


 身の危険を感じるのは気の所為だろうか…。


 恐る恐る倉庫に入る。

 中はかなり整理されているので直ぐに運ばなければ行けないものが見つかりそうだ。


「ガチャ 」


 振り向くと日奈子先輩が扉を閉めていた。


「日奈子先輩、鍵かけたんですか 」

「やぁねぇ、ちょっと雰囲気出したかっただけで閉めてないわよ 」

「ほんとですか 」

「そんなジト目で見なくてもいいじゃない。、さぁ早く始めるわよ 」


 どうやら真面目に準備する気はあるみたいだ。


 ここから運び出さないといけないものは主に小物、ボタンを押すとピーッとなるホイッスルや旗などで、他には得点板かな。


 重くはないが量は多そうだ。


「結構多いですね 」

「そうね、2人だと3往復くらいしないといけないかしら 」


 小物を2往復、得点板は2人で1つずつ持っていくとしたら1往復ですむ。


 まあ、軽めだしすぐ終わりそうだ。


「まず、小物から持っていきましょう 」

「了解です 」


 先輩が倉庫の扉を開けようとして手をかける。

 そして直ぐにバッとこちらを振り返った。


「開かない… 」

「そんな冗談いいですよ 」

「それが… 」


 どうしようといった表情でこちらを見てくる。

 いつものからかいだろうか。


「騙されませんよ 」

「ほんとなのよ 」


 なんだか、いつもより真剣な感じなので一応確認してみる。


「開かない… 」

「でしょ。なんで疑うのよ 」

「すみません 」


 普段から思わせぶりなからかい方するからですよ、とは言えない。


「どうしましょ 」

「先輩、スマホは? 」

「鞄と一緒に置いてきたわ 」

「僕もです 」


 よく見ると日奈子先輩の体が少し震えている気がする。


「大丈夫ですか 」

「ええ、もちろんよ 」

「そんなこと言って体震えてるじゃないですか 」


 手が震えている。


「ほら 」

「どうしたの 」

「手握ってあげますよ 」

「やったサービスありがと 」


 嬉しそうな声をするがあまりキレがない。

 恐る恐るといったふうに僕の手を握る。


「あのね、別に怖いとかじゃないのよ、その、狭くて暗いとこが苦手で 」


 体育倉庫は2つに別れていて小物を入れていた倉庫は狭く、あかりはついているが扉を閉めていると結構暗い。


「大丈夫です、恵が直ぐに帰って来るって言ってたじゃないですか 」

「終わったら、でしょ。そんなすぐ来ないと思う 」


 なんだか、すごくネガティブになっている。


「楽しい事考えましょ 」

「楽しいこと? 」

「そうですね、なにかしたいこととか 」

「じゃあキスして 」

「それは駄目です 」

「じゃあそのギュッはぐしてくれない?、それか腕に抱きついていい? 」

「それも… 」


 断ろうとしたら日奈子先輩の目がうるうるとしていた。

 よっぽど怖いのだろうか。


 ああ、涙目には弱いなぁ僕は。

 それに泣来そうな顔がほんの少し姉に似ている。


「ちょっとだけですよ 」

「ありがと、ごめんね 」


 腕にギュッとしがみついてきた。

 まだ震えている。

 よほど狭くて暗いのが苦手になるような事があったのだろうか。


 それにしてもしおらしい日奈子先輩は新鮮でかなりグッとくる。

 それに腕が胸に挟まれて…。


「きゃっ 」


 急にガチャガチャと無理やり扉を開けるような音に怯えより強く抱きついてくる


 そして、強引に扉が開き光が差し込む。


「係、い、る 」


 なんと扉の開いた先にいたのは歩美だった。


「歩美 」

「歩美ちゃん? 」


 日奈子先輩は怖くてギュッと閉じていた目を開けた。


「ありがとう、歩美。扉がしま 」

「早くはなれて 」


 僕のお礼を遮り、歩美が日奈子先輩と僕の間に割り込んできた。


 日奈子先輩を強引に引き剥がし僕の腕にしがみつく


「なにしてたのよ 」

「べ、別に何もしてないわよ。ちょっとイチャイチャしてたのよねー 」

「そんなことないでしょ 」


 日奈子先輩の震えは収まっていていつもの調子が少し戻ってきていた。


「それより、どうして歩美がここに? 」

「恵が、係君と先輩が倉庫でイチャついてるからヘルプ。って 」


 なるほどさすが恵だ。

 自分が遅くなるのを見越して抑止力になる歩美に頼んだのか。


「それにしても、そんな面倒くさそうな事よく引き受けたね 」

「それは、だって… 」


 ごにょごにょといいながら俯いてしまった。


「さぁ、その辺にして荷物を運びましょ 」

「そうですね 」


 直ぐに歩美がきたとはいえまあまあな時間閉じ込められていたから、早く準備を始めないと。


「歩美も手伝ってくれる? 」

「いやよ 」

「だよね、だと思った 」


 僕と日奈子先輩は荷物を持ち倉庫を出た。


「きっと中から開きにくくなってるのね 」

「そうなんですか 」

「多分だけどね 」


 歩美は相変わらず僕と日奈子先輩の間に入って僕に寄りかかっている。


 良かった、日奈子先輩は完全にいつも通りに戻ったようだ。


 そうだ。


「さっきの怖がってた日奈子先輩可愛かったですよ 」

「なっ、別に怖くなんてなかったわ 」

「そんな、またまた 」

「怖くなんて…、そう、からかってたのよ。全部演技よ 」


 珍しくかなり狼狽えている。


「そういう事にしておきますか 」

「もう、係君はいじわるね 」


 いつもの日奈子先輩程じゃないですよ。


「いてっ 」

「堂々とイチャイチャするな 」


 歩美が腕をつねってくる。


「ふふっ、相変わらず可愛いわね歩美ちゃん 」

「ふんっ 」


 また2人の間に火花が散っている。


 これは準備するのにまだまだ時間がかかりそうだ。

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