体育祭 借り物競争 後編

「女子はラストだな 」


 正直何往復もし疲れているのでもう少し待って欲しいのだけれど。

 最後の走者を見る。


「あっ 」

「気づいたか 」


 陽太が言っていたあと1回とはまさかそういうことか。


「歩美がいたんだった 」

「親指姫様はさっきまでの係を見て、たいそうご立腹だったぜ 」

「勘弁してくれ 」


 いや、歩美が僕に関するお題を引くとは限らないし。

 なんて考えていると歩美がお題を拾って中身を見ずにこちらに向かって走ってきた。


 歩美が走ってるのはレアだな。


「係 」

「なんだい 」

「いくわよ 」

「まだお題見てないんじゃ 」

「いくわよ 」

「いや、だから 」

「いくわよ 」


 こうなったらもう何言っても無駄だな。


「はぁ、わかったよ。じゃあ行こ 」


 渋々立って走ろうとするが歩美は着いてこずその場で手を広げている。


「あの歩美さんや 」

「なによ 」

「まさかおんぶなんて言わないよね 」

「何言ってるの、おんぶに決まってるわ 」

「もう疲れたんだけど 」

「別に1位じゃなくていいしゆっくりでいいわ」

「それはダメでしょ 」

「あら、お姫様抱っこでもいいのよ 」


 なんだか、歩美は楽しそうだ。


「はぁ、ほら 」

「よくできたわね 」


 僕におんぶされた歩美は背中の上で頭を撫でてくる。


「さぁ、行くよ 」




 流石に1位とは行かなかったが結果は3位とまずまずの記録だった。


「ほんとにモテるわね 」


 無言でこちらを見たあと呆れ顔でいった。


「もう、それでいいです 」

「さて、3位は3組、眠の親指姫こと水森歩美さんでーす 」


 そのニックネームやっぱ有名なんだ。


「お題はなんだったんですか 」

「さあ 」

「さあ、とは? 」

「お題なんて知らないわ 」


 背中の上で堂々と言う。


「えっとじゃあなんで彼を連れてきたのかな? 」


 委員の人も少し困惑している。


「そんなの、どんなお題でも係を連れて行くからに決まってるわ 」


 もう何度も浴びた黄色い声がより大きく聞こえてきた。


 急な言葉にドキッとする。

 委員の人も顔を赤くしている。


「ほんとにモテるわね 」


 なんの言葉も返せなかった。

 委員の人はそれだけ言い残し次の人の所に行く。


「歩美おりて 」

「まあいいわ 」


 背中から降りた歩美は何故かやり切ったという表情だった。


「係もお題で私を連れていってもいいわよ 」

「ほんといつも上から目線なんだから。やれやれ 」


 歩美は少し、いやかなりご機嫌な様子でクラスのスペースへと帰っていった。




「よぉ、モテ男 」

「勘弁してくれ 」

「流石に変わって欲しいとは思えねぇけどな 」


 何故か可哀想なものを見る目で言う。


「なんだよその目は 」

「だってなぁ。1人2人なら可愛いもんだが、グイグイ攻めてくるキャラが濃いのが4人もいる。1人はグイグイとはまた違う気もするが。俺には手に負えないね 」


 まあ、現状僕の手に負えているのかと言われたらそうではないだろう。


「まあ、美人に囲まれて純粋に羨ましいとは思うけどよ 」


 まあ、確かにみんな可愛いし目の保養にはなるけど。

 これを言ったら絶対に調子乗るから言わない。


「まあそもそも今僕を連れて行った全員、恋愛的な好意とかじゃなくてからかってるだけなんだろうけどね 」


 陽太はありえないという顔でこっちを見てくる。


「なんだよ 」

「こりゃ、あんなに攻められても文句言えねえわ 」

「それってどういう 」

「あっ、俺の番だ 」


 そう言って陽太はスタートラインに並びスタートした。


 もう疲れた…、走る気力が出てこないな。


「係 」


 陽太が申し訳なさそうな顔で走ってきた。


「なにさ 」

「来てくんねぇかな 」

「陽太もハーレムに加わりたいの 」

「からかうなよ 」

「はぁ、もう行くよ 」

「サンキュー 」


 こうなったらやけだ、とことん走ってやる。




 1位で到着するとまた君かと言う顔で見られた。


「ほんとモテモテですね 」


 陽太と僕を2回ずつ交互に見ていった。


「委員さん引かないで。違うから 」


 運動場に笑いが起きる。


「さて、気を取り直して1位は3組でした。お題はなんでした 」

「その、秘密で 」


 おい、陽太なぜ赤い顔で隠す。


 するとニヤリと笑った委員さんが陽太の手にあった紙を取りあげる。


「お題は、お母さん?でした 」


 すると1年生特に僕達のクラスのスペースから爆笑が起きた。


 お母さんで僕を連れてくるって…。

 めいいっぱいの蔑みのめで陽太を見る。


「ほら、係ってばみんなからお母さんとか聖母とか言われてるし 」


 最後のは初耳なのだが。


「君が最近有名な聖母だったのね 」


 なんですと有名?。


「今なんて 」

「聖母様。その優しさと母性溢れる笑顔、悪い事をした時はちゃんと怒ってくれて、落ち込んでいる時は慰めてくれる聖母のような新入生がいると噂ですよ 」


 それを言い残し委員さんは次へ去っていった。


 なんだその恥ずかしい噂は。


「なんでそんな噂になってるのさ 」

「俺じゃない 」


 ジト目で陽太を見るとちょっとずつ目を逸らした。


「それよりほら、すぐに係の番だろ。頑張れよそれじゃ 」


 早口で言って逃げていった。


「後で覚えてなよ 」




 僕の結果はと言うと疲れていたのもあり5位となった。


 お題は担任の先生で一緒にゴールに行くと委員さんが、


「どうやら本命は先生だったようです 」


 なんて言って再び運動場に笑いの渦を作っていた。


 借り物競争はこんなに疲れる競技だったっけ。

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