遭遇

 体育祭まで残すとこあと1週間となっていた。

 僕と歩美の練習はまあ予想どうり全く上手くはいってなかった。


「はぁ、体育祭大丈夫かな 」


 次の授業のに使う教材運びを頼まれ、地歴研究を探しているところだった。


 それにしてもこの学校広すぎやしないか。


 すでにどう帰るか分からなくなっていた。

幸い昼休みのため授業に遅れるといったことはないだろう。


「きゃー、あれ王子様じゃない 」

「ほんとだ、かっこいい 」


 前で歩いている女子生徒の声が聞こえてきた。


 僕も遠目からかっこいいとか言われてみたいものだ。

 もう少し背があったらまあまあいけてるはずだし、多分。


 別にこの前の事を気にしているわけではない、絶対。


「王子様かっこよかったね 」

「ねぇ 」


 すれ違った女子生徒までもが王子様の事を話していた。

 だいたい王子様なんて呼ばれてる生徒はどんな人だろう。


 女子生徒が暑い視線を送る方を見てみる。


「やあ、そこの可愛い子猫ちゃん重そうな荷物だね。こんなの、か弱くて可愛い君に持たせてられないよ 」


 そう言って両手で重そうに教材を抱えていた女子生徒からヒョイっと持ち上げた。


今どきそんな事をサラっと言ってのけるなんて。


「あの、あ、ありがとうございます 」

「いいよ。またね、子猫ちゃん達 」


 そういって優雅に去っていく後ろ姿を、まるで恋する乙女のように女子生徒達が見つめていた。


 僕より大きいし、でもあれって…。


 丁度いいや。

 僕は王子様なる人の向かった方へ駆け足で進んだ。


「はぁ、ちょっと重いな 」


ボソッと放たれた声が微かに聞こえた。


「やあ、そこの可愛い子猫ちゃん 」


 僕は悠々と廊下を歩く王子様に声をかける。


「なっ、可愛い子猫ちゃんだと。そんなこと言うやつは、だれ、って君は 」

「久し振り、桜 」


 この前会ったときは全く王子様らしくなくてその呼び名を忘れていたよ。


「ふんっ、久し振りだな。なんのようだ 」

「桜もか弱くて可愛い女の子だろ、ほら、貸してみなって 」


 そう言って桜の荷物をヒョイっと取り上げる。


「か、可愛いなんて、またそんな事を。…うぅ、反則じゃないか 」


 桜は顔を赤くしてあたふたかとしている。

 この桜しか見てないからこっちが素なんじゃないかと思ってしまう。


「あのさ 」

「な、なんだ 」

「道案内してくれないかな 」

「道案内? 」

「そう、これ運び終わった後でいいから 」

「いや、これは僕が 」

「いいから、桜は道さえ教えてくれたらいいんだよ 」

「むぅ、仕方ないな 」

「そういやそれどこに運ぶんだ? 」

「歴史研究室だ 」

「なんだ、じゃあこれが頼まれたものか。次の授業で使うから運ぶように言われたんだよ 」

「そうだったのか、じゃあなんでこんな所にいるんだ。ここは研究室から少し離れているぞ 」


かっこつけておいて迷子ですなんて言えない…。


「まあ、ちょっとね 」

「なんどよ、ちょっとねって 」

「いいじゃないか、それより桜は、体育祭なにに出るんだ 」

「2人3脚だ 」

「僕と一緒じゃないか 」

「なにっ、君もでるのか 」

「ああ 」

「も、もしかして歩美とでるのか 」

「そうだけど 」

「なっ、今日という今日は生かして逃がさないぞ 」

「なんの話だよ 」

「歩美とするなんて羨ましい 」


 また、めんどくさいのが始まりそうだ。

 あっ、そうだ。


「僕は、桜としたかったな 」

「へっ 」

「だから、可愛い桜としたかったなって 」

「なっ、なっ、なにを。嘘つけ 」


 みるみると顔が茹で上がる。


「ほんとだよ 」

「う、うぅ、しょんなこと言われても嬉しくなんてないんだからな。お、覚えてろよー 」


 そう言って走り始める。

 ちょっとやり過ぎたかな、ちょっぴり反省。


この学校で僕がからかう側に初めて立てた気がする。


 でもやっぱり王子様って感じじゃないんだよなぁ。

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