コンプレックス

 係は歩美を乗せ恵とともに、体操服で運動場に足を運んでいた。


「ほら、ついたよ 」


 そう言って背中を揺する。


「んん 」

「こらっ、寝るな 」

「ほら、歩美ちゃん、起きてください。そうでないと… 」


 ゴニョゴニョと歩美の耳元でなにか呟いた。

 するとすぐにムクっと体を起こす。


「起きてるわ 」

「おお、凄いね恵は。なんて言って起こしたの 」

「えっと、それはですね〜 」


 ニヤニヤして歩美を見る。


「別になんでもないわ 」

「まあいいけど、僕が起こした時も早く起きて欲しいものだよ 」

「それより練習始めるわよ 」


 そう、僕達は2人3脚の為に練習をしに来たのだ。

 歩美を説得するのに一苦労したが恵が先ほどと同じように耳元でボソッと何か言うとすぐについてきた。


 どんな魔法の言葉を言ったのだろうか。


「じゃあ2人ともこの紐で足をくくってね 」

「ありがとう、恵。練習に付き合ってもらって 」

「いえいえ、私が好きでやっている事だから 」

「それでもありがとう 」


 ニコッと笑いお礼を言うと恵の顔は少し赤くなる。


「もう、いいから早くつけてください 」


 恵は手でパタパタと顔を仰ぎながら言う。


「じゃあつけようか、ほら歩美、歩美? 」

「して 」

「なに、ムスッとしてるんだよ 」

「別に 」

「はぁ、まあいいけど 」


 歩美の右足と僕の左足をしっかり結ぶ。

 思ったより近いんだなこれ。

 

距離がピタリと埋まっていた。

密着しているところから歩美の体温が伝わる。


「むむ、以外と… 」

「どうした恵? 」

「いえ、なんでも 」

「そうか、じゃあ練習しようか 」


 そう言って肩を組もうとするが身長差のため歩美の腕は僕の肩に届かない。


「あらあらどうしましょうか 」

「別に腰でいいんじゃないか 」

「そうね、それより… 」

「どうしたんだ? 」

「意外と小さいのね 」


 係がピタリと固まる。


「今なんと 」

「だから意外と小さいのね、と言ったわ 」

「なにが 」

「身長 」

「確かに男性の中では小さいほうですね 」

「うっ… 」

「「う? 」」

「うるさい、うるさい、うるさい。別に小さくなんてないし、普通だし 」


 少し涙目になる。

 確かに僕の身長は男子高校生の平均から見ても低いと結果が出るであろう身長だった。


「なにもそんなにひっしにならなくていいじゃない、私より大きいし 」

「そうですよ、そこが係君の良さなんですから、結構人気なんですよ 」

「困る 」


 ボソッと放たれた言葉は僕には届かない。

 

女子生徒に人気がある、それは、かっこいいとか言われる類ではなく全く逆の理由からきている。


「うう、全然フォローになってないじゃないか 」


 別にそんなに小さくないはずだ、絶対…多分。

 そうだよ、普通なはずだ、多分。


「ごめんなさい、そんなに小さい事を気にしてると思わなかったわ 」

「そうね、ごめんなさい。別に身長がちょっとあれでも、係君は良いところがたくさんあるんですから 」


 うぅ、そんな強調しなくてもいいだろ。


「くそぉ、2人とも馬鹿にしやがって。全然気にしてなんかないんだからな 」


 係は、そっぽを向いてしまう。

 はぁ、僕はやっぱ小さいのかな。


「ごめんなさい、係をからかうのが面白くすぎて 」

「ごめんね、怒らないで。係君の反応があまりに可愛かったから 」


 2人は上目遣いでそう言ってくる。


「別に怒ってないし 」


 いくら上目遣いでもそんな簡単に機嫌を良くする僕じゃないと思い知ればいい。


「拗ねてる 」

「拗ねてないもん 」


 そう言って、しゃがみ込んで砂をいじり始める。

((なんだこの可愛い生き物…))

 2人はなにかに目覚めかけた瞬間だった。

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