閑話 瀬羽凛

 私こと瀬羽凛は今年で大学2年だ。

 ここ桜ノ宮市に引越し来たのは今年の春。


 去年、両親が亡くなったのが大きな要因だ。


 係君が受験の時期というのもあり、去年は元々の家に住んでいたが、思い出の産物でしかなくなってしまった両親の影が色濃く残っていて精神的きついものがあった。


 それだけではなく、まあまあの広さの家に3人住むのは金銭的に援助して貰っている身として思う所があったからだ。


 前の家を売る決断をした私達は親戚の伝手を頼り新居を決めた。


 係君はこちらの高校に合格し、優香もこちらの中学に転入する事が決まった。

 係の選択肢を狭めてしまったかもしれないと思ったが、案外気に入っているようでよかった。


 私の通う大学は新居に越してきたことで距離は近くなった事は正直嬉しい。


「今日さ、新入生歓迎会するらしいから凛も来なよ 」


 大学からの友達、佐藤蘭が言ってくる。


「あー、今日はパスかな 」

「今日も、でしょ 」


 まあ、確かにそうだ。


 私は付き合いのいい方じゃない。

 バイトが忙しいというのが1つの理由。


「あははー、ごめんね 」

「男どもはみんな凛がくるのを心待ちにしているというのに 」

「別にそんな事ないでしょ 」

「あるよ。正直、こんな完璧な人がいるなんて思ってなかった 」

「えへへ、照れますなー 」

「可愛くて、勉強も運動もできるその上、性格もいいときた。あんたはどこぞのヒロインかっての 」


 自慢ではないが、確かに自分でも完璧な方だとは思っている。

 実際、そう思われるように振舞ってはいるつもりだし、努力もしてきた。


「そこまでじゃないわよ、ていうか蘭ちゃんもそうとう人気あるくせに 」

「まあね 」


 蘭ちゃんはドヤ顔をする。

 実際、明くて媚びない性格に誰にでも話しかけられるコミュ力、愛嬌のある可愛い顔から男女問わず人気がある。


「まあ、そういう事でもう帰るね 」

「凛っていつもバイトない日もすぐに帰るよね 」

「そう? 」

「そうだよ。はっ、まさか。家でイケメン彼氏が待ってるとか 」


 大袈裟な手振りでそう言う。


「まさかそんな事ないよ。彼氏とかいないし 」


 まあ、待ってるのはイケメン彼氏じゃなくて可愛い弟だけど。


「んー。怪しい 」


 じっと疑いの目でこちらを見てくる。


「あはは、じゃあ、またね 」

「まあ、いいわ。それじゃあね 」


 相手が話したくない事は深く聞かない、そういう所も彼女の良さだろう。

 人との距離のとり方が上手だと思う。


 まあ、係君の事を言いたくないのはその厄介な性格で係君と仲良くなるのが困るからなんだけどね。





 家に帰ると、珍しく係君の靴が先にあった。


 あちゃ、先越されちゃったか。

 別に早く帰って、用事がある訳ではない。


 ただ係君と優香が帰ってきた時、ただいまって言ってあげたい。

 家に帰って、誰もいなくて寂しい思いをして欲しくない、とか勝手に思ってやっている事だ。


「ただいまー 」


 と言って勢いよくリビングの扉を開ける。


 返事はなく、ソファーで寝息をたてている係君がいた。


「寝っちゃってるのか 」


 係君が起きないように、頭を浮かせ自分の膝に乗せる。


「係君はいつも頑張ってるもんね 」


 髪を撫でると、気持ちよさそうな顔をした。


「ふふっ、可愛い 」


 両親が亡くなってから係君は、明らかに無理して笑うようになって、辛そうだった。

 少しでも笑って私と優香の気を紛らわすためだろう。


 隠しているつもりだったんだろうけど、私達からしたらばればれ。


 私達を必死に守ろうと幸せにしようと頑張っくれている姿は嬉しい反面無理して欲しくないと思う気持ちもあった。


 元々、優しかった性格がさらに拍車を増した優しさとなっていった。

 この子の優しさは、決意と悲しさの表れなのだろう。


 そう思うと支えられているばかりじゃダメだといつも決意するのだが係君の優しさが私達を甘えさせる。


 それが心地よくて、でも少し寂しい。


 まあ今はあの時よりかは係君も辛そうじゃなくなったと思う。


 特に高校に入ってから楽しそうだった。


 もう疲れた、とか言って愚痴をこぼしているけれど、それを話す時はいつも楽しそうだ。

 きっといい出会いがあったんだろう。


 はっ…、もしかして女。


 係君が辛そうじゃなくなるのはいいけど…。


「嫉妬しちゃうぞ 」


 そう言ってちょっとほっぺをつついた。




 ふと、あの時の事を思い出す。


 3人で暮らすと決まったあの日を。


 私よりも小さくて、年齢も低い男の子のどこにあんな勇気が詰まっているのだろうか。

 私には、あの状況で親戚達に啖呵をきることなんて今でもできないと思う。


 あの時の姿を思い出すと今でもドキドキとし、胸が熱くなる。


 あの日、私はこの子の姉になれて、家族になれて本当に幸せだと思った。


 その反面、年上であるはずの私が何もできなかった事が不甲斐なくてしかたなかった。


 だから、あの日、決めたんだ。


 この子達は私が守ると。

 両親がいないなんて考えられないくらい暖かい家庭を作ると。

 この子達が帰ってくる居場所を、安心していられる居場所を作ると。


「係君、大好きだよ 」

 

 そっと耳元で呟いた。


 これじゃ優香に人の事言えないな。


 あぁ、私はかなり重度な病気らしい。

 別に嫌じゃなくて、むしろ暖かくて優しい気持ちになれる、胸を張って堂々と言える。


 私はブラコンだ。

 私達を救って、支えて、幸せにしてくれる、ちょっと小さくてすごく可愛い英雄。


 高校でいい出会いがあったのかもしれないけど…。


 それでも、これからもお姉ちゃんの係君でいてくれよっ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます