授業

「授業始まったから起きな 」


 休み時間から悠々と寝ている歩美の肩をゆする。


「んん 」


 僕の手がはたかれる。

 でもまあ、ここ数日でどうすればすぐに起きるか大体わかってきた。


「おい、起きなさい 」


 そう言って頬を引っ張る、何故だか頬を引っ張るとすぐ起きるのだ。


 歩美のほっぺたモチモチなんだよな。

 あれっ、これよく考えたら僕、変態なんじゃ…。


「あにすゆのよ 」


 半開きの目でこちらを睨んでくる。


「おはよ。授業はじまるから起きな 」

「そ 」


 そう言って半開きの目をまた閉じ始めた。


「寝ちゃダメだって。ほら準備しな 」


 机の中を確認させるが何も見当たらない。


「残念ね、ここには無いわ 」


 ふっふっふっ、とどこかの部長のようなポーズで言った。


「どこにあるんだよ 」

「そこ 」


 小さい指が示した先にあるのは僕の机だった。


「まさか。なんでここに入ってるんだよ 」


 中には水森歩美と書かれた教科書が数冊置かれてある。


「あら、なんでかしら 」

「なんでかしら、じゃないよ。今日1回もバックさわってなかったところから見ると、まさか、昨日から置いてたろ 」

「ふっ、真実はいつもひとつね 」

「なんだその下手な誤魔化し方 」

「いいじゃない。お願い 」

「上目遣いでもダメだ。ほら 」


 歩美の机にすべて入れ返す。


「ぷぅ 」

「ほらこれとこれ、あと筆記用具もほら 」


 次に使う教科書と、あと何故か僕の机の中にあった筆記用具を歩美の机に置く。


「なんだかんだいって世話を妬いてくれる、そんなあなたが好きよ 」

「なっ、なにを。いや冷静に考えると要は使えるやつだなって事か 」

「ふっ、よく気づいたわね 」

「あのー 」

「僕の純情を弄びやがって 」

「いいかなー 」

「あら、こんな可愛い子に好かれるなんて光栄でしょ 」

「ちょっとー」

「自分で言うやつがあるか 」

「それよりいいのかしら 」

「なにが 」

「先生が泣きそうだわ 」


 前を見ると半泣きで教科書とチョークを持ち教卓で立っている加藤先生の姿があった。


「うぅ、瀬羽君授業中なんだけどー、先生の話聞いてくれないかなぁ 」

「ああはい、すいません 」

「ふふっ、怒られてる怒られてる 」

「歩美もだからな 」

「私、なぜ 」

「歩美ちゃんもですー 」


 ほっぺを膨らました先生がしっかりと言ってくれた。


「すいません」

「ほらみろ 」

「私の方が怒られていないわ」

「いやいや、どの口がそれを言うのかな 」

「あら、この可愛らしい口に決まってるじゃない 」

「もー、2人とも悪いんですよー 」

「「ごめんなさい」」


 入学してからここ数日、加藤先生は、おっとりとし優しくて、クラスの皆とすぐ仲良くなり静ちゃん先生なんて呼ばれている。


 表情がコロコロ変わって子供っぽいと思う時もあるけれど、授業はわかりやすいし、いざとなった時相談もしやすく、ちょっとのことでも親身に聞いてくれる尊敬できる先生だ。


「聞いてくれる? 」

「もちろんです 」

「よかったじゃあ、この問題解いてみて 」

「えっ、えっと 」


 僕はあてられていたのか。

 やばい全く聞いてなかった、だいたい始まっていたこと自体気づいていなかった。


「紫式部よ 」


 歩美がボソッと言う。

 おぉー、ありがとう歩美。


「紫式部です 」

「うぅ、今はー、英語の授業なんだけどー 」


 そうだよ、ちょっと考えたらわかった事じゃないか。


 よくも騙したなと恨むような目で歩美を睨むが、何事も無かったかのようなすまし顔だ


 周りのくすくすと言う笑い声が辛い。


「じゃあ歩美ちゃん、答えてみて 」

「はい、”author”です 」

「素晴らしい、正解 」


 正解?!。

 何故分かったんだ。

 いや、知ってたならなんで教えてくれなかったんだ。


「ふっ 」

「ドヤ顔しやがって、なにが紫式部だよ 」

「あら、ヒントをあげたじゃない 」


 どこがヒントになっているんだよ。

 いや、紫式部→著者→author。


「そのヒントからわかったら僕は天才だよ 」

「まだまだね 」

「ふーたーりーとーもー、そろそろちゃんとしないと、パチンってしちゃうよー 」


 静ちゃん先生をみると、怖い笑顔になっていた。


 パチンってなんだよ、怖すぎるよ。


「「ごめんなさい」」


 僕と歩美だけでなく生徒全員がビシッと姿勢正し、以後の授業を取り組むのであった。

 

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