家族

 僕達が桜ノ宮市に引っ越して来たのは事情があった。

 僕や姉が大学に通いながら遊びの予定をほとんど入れず、バイトをしている理由も同じだ。


  それは、両親の死。

  本当に急で、なんの脈絡もなく、僕達家族を襲った地獄。


 昨年、結婚記念日に2人で旅行にいった両親は不帰の客となった。

 出発前にお土産買うからと言っていた笑顔が今でも忘れられない、どれだけ待ってもお土産も両親も帰ってはこない。


  両親が亡くなってから、お葬式なんかはあっという間に感じた。

 受け入れられない大きすぎる現実に僕達はまるで実感がなく、途方もない悲しみと虚無感でいっぱいだった。


 そんな僕達を他所に保護者を失った僕達をその後誰が引き取るか近縁の人達で話し合いになっていた。

 祖父母はすでに亡くなっていて誰も快く引き取るという人は居なかった。


 僕達は他人事のように3人で慰め合うことしか出来なかった。


 話し合いの結果1人1人別々の所に引き取られることが決められたのだが、とうてい別々に暮らすなんて考えられなかった。

 どうしても嫌だった。


 だから、今でもその時の事を後悔してはいない。






「僕が高校行かずに働いて2人を養います 」

「係? 」


 腕の中にいる凛姉と優香はいやその場にいた全員が呆気にとられている。


「係君、なにを言っているのですか。聞き分けのない子供みたいに 」

「おばさん、それに皆さん。僕達の為を思ってくださりありがとうございます。いや別にそこまで思ってもらってはいないのかもしれないですね 」


 そう、自虐っぽく言う。


「なにを、」

「僕は凛姉が好きです。優香が好きです。2人の事が大好きです。2人のいない生活なんて考えられません 」

「もっと現実を見なさい。優秀な貴方ならわかるでしょう 」


 手が震える。おばさんの言うことはきっと正しい、でも、それでも…。


 凛姉と優香が震えている僕の手をそっと握り、微笑みかける。


 そうだよなにを躊躇っている。

 こんなんじゃ父さんや、母さんに笑われる。


「現実はもう嫌というほど見ました。いつまで待っても母さんと父さんは帰ってこない。何度も何度も何度も考えました。おばさん達の言っている事が正しいって事も 」

「なら 」

「だけど、僕はあの日、両親が旅立ったあの日最後に任されたんです。2人の事をちゃんと守るんだぞって。だから…、2人の居場所はなんとしても僕が守る 」

「私も大学をやめて、働く。だからお願いします 」

「私もバイトして卒業したら働きます。お願いします。2人と一緒にいたいです 」


 2人を見ると涙がとめどなく溢れていた。

 両親が亡くなってから、1番泣いているのではないだろうかというほどだ。


「係も優香も高校は行きなさい。私がなんとかするから 」

「駄目だ凛姉。2人こそ高校も大学もちゃんと行かないと 」

「兄さん達だけずるい私だってなにかしたいです 」

「はっはっはっ 」


 その笑い声は決して大きい訳ではないが、その場にいた全ての人がその笑い声の方に向くほどの威厳を感じた。

 

 そして笑い声の主は今まで何も発言していなかった僕達の祖父の兄弟にあたる人だった。


「素晴らしい家族愛じゃないか。3人ともその覚悟は本物かい 」


 しっかりとこちらを見据えて言う。


 ぞわりとした感覚が体を走り、動悸が激しくなる。

 繋いでいる2人のても震えているのを感じる。


 覚悟…。

 2人の手を再び強く握りしめるり


「はい。2人は僕が守ります 」

「もちろん。私はお姉ちゃんですから。2人を幸せにしてみせます 」

「私は1番何も出来ないかもしれません。でもずっと2人を支えたいです 」


 凛姉と優香もギュッと手を握り返して言った。


 そのおじいさんは数秒、いや体感はもっと長く感じたが、じっとこちらを見据える。


 すると不意に優しい目へと変わり皺を刻みにっこりと笑った。


「はっはっはっ、そうかそうか。きっと両親も安心じゃろう。ここまで子供達が覚悟を見せたんじゃ、大人のわしらがそれ以上無粋な事を言っても仕方なかろう 」


 今度の笑い方はなんだか優しく、包み込まれるように感じた。


「ここはわしの顔を立ててこの子らの好きなようにさせてはくれんかの 」


 周りの反応は驚くことに誰も食い下がろうとする人は居なかった。


「そうですわね。子供達の家族愛、覚悟は素晴らしいものですわね 。ごめんなさい、別に追い詰めるつもりはなかったの、でも決心したわ。貴方達が3人で生活できる環境を作ります 」


 急な事に頭が追いつかず、僕はついついキョトンとしてしまう。

 凛姉と優香も同じ状態のようだ。


「君達は今までどうり生活したら良い。3人ともちゃんと自分の進路に進みなさい 」

「ほんとですか 」

「ええ、私達にも貴方達の居場所を守るのを手伝わさせてくれないかしら 」


 その場にいる皆が励まして応援すような声を掛けてくれる。


「あ、ありがとうございます 」

「何かあったら、気にせずわしらを頼るとええ 」





 それから僕達は、住んでた家を売り払い、近縁の人の伝手で元より安く住める一軒家に引っ越してきた。

 学費や最低限の生活費を援助してくれる事になっていた。


 それでも、少しでも自分達で生活できるよう僕と凛姉はバイトをしているというわけだ。


 あの日はこれまでにないくらい泣いて笑った日だった。

 あの日ほど愛というものを強く感じた日はないだろう。


 僕はあの時に決意した僕達を支えてくる人達に、愛をくれた人達に、いつかその恩を返すと。

 そして、2人の幸せをなんとしても守ると。

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