省エネ系ヒロインの育て方

成咲せん

入学編

入学式

 桜舞う澄んだ春空の下、ここ桜ノ宮高校では入学式が行われている。


 桜ノ宮高校は中高一貫校だ。

 僕は編入組だから顔見知りは1人もいない。

 緊張しているのは自分だけかと周りを見渡すが、予想外に多くの新入生がソワソワとしていた。


 入学式は人生で3回目、おそらくほとんどの新入生がそうでだろう。

 けれど、今までで1番期待や希望でいっぱいの新入生は多いかもしれない。

 かくいう僕も嬉しいようで少し気恥しい不思議な感覚でいる。


 高校生とは特別感があると僕は思う。


 義務教育から解き放たれ、子供から大人へと成長する間にある曖昧な期間。

 それは、早く大人になりたいという気持ちと、まだまだ子供でいたいという気持ちが奇跡的なバランスで釣り合う特別な期間。


 青春と呼ばれるその期間に、僕達新入生が希望を抱かないはずがない。


 しかし、しかしだ、3回目の入学式で、これからの青春に夢を見ていて、こんなに長く青春について考察しても一つだけ変わらない普遍の心理というのがあると思う。


 校長先生の話は眠い。


 いや、必ずという訳ではないと思うし、全てがそうとは言えない。

 多分…。


 そう、校長先生の話というのはどの年齢になっても眠たくなるものだろう。

 眠くない人がいたら見てみたい。


 時計を見ると既に話し始めて10分が経過していた。


 校長先生の話し方も独特な間で皆が聞きやすく話している。

 それが逆に安眠へと促しているんだろう。


 隣の子も、もう夢の世界に入ってそうだ。


 トンッ


 フワッと甘い香りが鼻腔をくすぐり、腕から子供のような温もりがじわじわと伝わる。

 隣を見ると、こちらに体を預けて寝てしまっていた。


  一瞬ふわっといい香りが、いやいや違う。

 すぐに邪念を振り払う。


 完全に寝ちゃってるなこれは。

 起こすか、…いや先生も見てないしちょっとくらい肩を貸してあげようか。


 それにしてもよく寝てる、 小動物みたいで可愛い子だな。

 気持ちよさそうな寝顔見てると、なんだか、こっちも眠たく...








「これで入学式を終わります。一同、礼。各自解散して自分のホームルームへ移動してください」


 セーフ、危なかった。

 なんとか目を覚ませた。


 礼には間に合ったようだ。

 期待だの希望だの考えて胸を膨らませていたはずがほとんど寝てた気がする。


 周りを見るとすでに多くの新入生が席から立ち始めた。


 えっと、教室に行かないと行けないんだっけ。

 

 自分も席を立とうとすると足に温もりと違和感を感じる。

 よく見ると膝の上に女子生徒が静かに寝息を立てていた。


 なるほどこれは世にいう膝枕という奴なのか。

 なんて、冷静に判断してみるが内心はかなりドキドキしている。


 それにしても軽い、まったく気付かなかった。


「おーい、えっと、瀬羽君かなー 」

「あっ、はいなんでしょう」


  声を掛けられ周りを見るとすでにぽつぽつとしか生徒が残っていなかった。


「悪いけどー、起こして連れてきてくれないかなー 」


 そう声を掛けてきたのは、入学式で紹介があった僕の担任の先生だった。

 ふわふわした口調でニコニコして可愛らしい感じの先生だ。


「分かりました 」


  膝の上で夢の世界にいる少女の肩を優しくゆする。


「おーい、入学式終わったよ。起きなー 」

「...んっ。はぁ 」


 膝の上から温かさがじょじょに失われる。


 先程まで熟睡していた女生徒はうっすら目を開き、伸びをしながら恍惚な溜息を吐く。


 こうして座っているのを見ると、かなり小さい。

 サラサラとした髪が肩まであり、美人というより童顔で、可愛いという表現がとても合うと思った。


 やっぱ小動物みたい。


「おっ、起きたみたいだね 」

「白馬の王子様? 」

「どこをどう見たらそうなるだよ。白馬に乗ってないしキスして起こしたわけじゃないから 」

「夢で見たの」


 そう言う女生徒の瞼は重たそうで、ほとんど閉じかかっていた。


「へぇ、白雪姫とか? 。ずいぶんメルヘンチックな夢だね 」

「多分、そう。小人に囲まれて寝てた」

「そうか、それで王子様にキスされて起きたんだ 」

「いいえ、小人に止めさせてずっと寝てたわ」


 まさかの寝てたよ。

 わざわざ止めさせるほど眠かったのか。


「仕方がない、悪い魔女にやられた 」

「ああ、悪い魔女は出たんだ。毒りんごでも食べさせられたの? 」

「いいえ、校長先生のことよ 」

「悪い魔女じゃないじゃん。だいたい校長先生は男だよ 」

「うそ、眠たくなる呪文を唱えていたわ 」


 確かに、同意してしまう自分がいる。

 あれは強力な魔法だった。


「じゃあおやすみ 」


 そう言ってまた僕の膝の上に体を預けた。


「うん、おやすみ。って、寝ちゃダメだって 」

「いいじゃない。あなたの膝枕が絶品なのが悪いのよ 」


 女生徒は、膝の上で目を閉じたまま続けた。


「そ、そうなんだ、なんか照れる。じゃなくて、ほんと急がなくちゃダメなんだって 」

「細かいこと気にしてると、禿げるわよ 」

「細かくないし禿げないよ。さあ早くいくよ 」

「せっかく枕ランキングに入れてあげたのに 」


 なんだよ、その訳の分からないランキングは。


「寝心地がよくて、気持ちいいほど上位にランクインするわ 」

「へぇ、ちなみに僕は何位なの? 」

「8位よ」

「なんか微妙すぎる。もういいや、早く行くよ」

「おんぶ」


 赤ちゃんが抱っことアピールするように手を広げた。


 そんな小動物みたいな感じで言われたら、断わりにくい。


「だーめ 」

「じゃあ動かないわ 」


 時計を見るとホームルームが始まる時間に差し迫っていた。


「もう、しょうがない。ほらっ、早く 」

「ありがとう 」

「よっと 」


 密着する面積が広いからか先程より体温がよく伝わる。


 それにしても本当に軽いな。

 寝顔は可愛いいのにほんと変わってる子だな。


「ちゃんとご飯食べないと駄目だよ 」

「わかったわ。…面倒見がいいのね 」

「そんな事ないと思うけど 」

「それにしても、あなたおんぶもなかなかね。ベスト6位をあげる 」

「高いんだろうけど、やっぱり微妙なんだよなぁ 」


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