これは個人的な印象ですが、八束さんのものがたりは、排他的で廃退的だなあとおもいます。とてもゴシックな世界観と甘やかさの物語のなかにも泥くささが含まれています。
でもそれが、とても八束さんの描くお話らしくてわたしは好きです。
『魔女のみだらな生殖』もまた、閉じられた世界のなかの甘美だけでなく、歴史背景と宗教観の混ざり合い、それでいてホラーでした。
土着といえば良いのか、その地に根付いたものが物語の土台としてある力強さを感じます。
読み始めたとき、「八束さんの百合だー!」ぐらいのテンションだったのですが、読み終えた時には「八束さんの、百合だ……」となりました(笑)
少女たちの愛の囁きとぶつかり合いと、記憶が失われた故の恐怖と謎めく日々……。
とても面白かったです!
これはいけない。
記憶のない女主人公と謎多き少女の情交、しかも産卵というショッキングな内容。
それを指の隙間から覗いているような、屋根裏からこっそり盗み見ているような背徳感がぞわぞわと背中を走る物語。
常に陰鬱な空気が漂い、逃れられない恐怖と匂い立つ卑猥さがお話全編にべったり貼り付いて、どうしてよいかわからない混乱さが読者を引きずり込みます。
しかしそこに囚われてはいけない。
魔女、産卵、巡礼者、植民地、あらゆる歴史とそこに存在した人々の営みや思惑。二人の少女たちが抱える願い。そこには人間たちの深い欲望に溢れています。
そしてラスト。正直、最終話がある事がなによりも救いです。この状態がもし現実にあり、しかも永遠に続いたとしたら……発狂するしかないでしょう。
ショッキングなタイトルと雰囲気に飲まれすぎないよう、どうぞ気をつけて覗いてみてください。
架空の植民地ブラックスワンプを舞台にした極上のホラー作品。
この世界の文化は【洋】であり、まさに洋画ホラーで見られるような廃れた屋敷の中へと読み手は誘かれるのですが、しかし根底に流れているのは、和製ホラーに見られるような陰鬱であると感じました。
特に光と音の描写が凄まじく、時に私自身が洋燈に照らされているような、あるいは文章の中から群れる翅音を聞いているような、そういった感覚に陥るほどで、それが更に先述の陰鬱を加速させています。
お化け屋敷を思い浮かべてみてください。
心許なく配置された光源と、耳朶を打つ不気味な音源。
臨場感溢れる恐怖が、多分に演出されていますね。
それらを、綴られる言葉のみでやってのけた作品。
それがこちらの【魔女のみだらな生殖】です。
どうぞご覧になってください。
この屋敷には、真実を探すのも嫌になるほどの恐怖があります。
ジャンルはホラー、タグにはガールズラブと産卵。何のこっちゃと思いながら読み始めましたが、ここには愛を求める二人の少女のはてなき愛憎が刻まれていました。
しかも面白いことに、主人公のガートルードもパートナー(?)のジャンヌも、彼女らが求めているのは互いからのモノガミーな愛ではありません。誰でもいいから自分を受け入れてほしい、という、なりふり構わぬ欲望です。二人の悲劇はそこから始まっていたのかな、と思います。
しかし、では彼女らの想いが互いを見つめる双方向なものであればハッピーエンドだったか、というと、きっとそうではない。
二人の血に刻まれた呪いは滅びの時を待っていて、卵が孵る瞬間を真の意味では望んでいなかったのではないでしょうか。そして滅びの最後の瞬間のためにガートルードという生け贄を望んだ。
ガートルードが卵を必死に憎むのは、母が卵のせいで死んだという恐怖ゆえではなく、ガートルード自身がジャンヌや自分の境遇を受け入れていなかったがゆえのことではないか、と私は思うのです。
受け入れられなかった――あるいは開き直れなかったガートルードは、滅びの時を血に求められるという運命と真っ向から戦う力を持ち合わせていなかった。だから記憶を消し去ってしまったし、ジャンヌを信じきることができなかった。もしガートルードにその強さがあれば、あるいはその強さを持とうとする気概だけでもあれば、運命は変わったかもしれません。
運命と真っ向から戦う気のない少女に待ち受ける末路は――最後、この屋敷は収まるべき形に収まった。ガートルードが自らの中に眠る負の感情をコントロールできなかった以上はこうなる運命だったのです。
崖の上に立つ古い屋敷、ほの暗い海辺、絡み合う少女たち、黒山羊――洋画で見たい雰囲気だな、と思います。とても美しい画面になるでしょう。退廃の見せる美です。