概要
彼女の前に姿を現した少女ジャンヌは、ここが入植地ブラックスワンプであり、白亜の崖上に建つ館であるという。記憶を失った彼女はジャンヌ、そして黒人の奴婢である娘アティエノと生活を共にすることになるが。
血と復讐をめぐる、エロティックホラー。
《登場人物》
・ガートルード
主人公。18〜20歳。記憶喪失の状態で目覚める。
・ジャンヌ
ガードルートの使用人を自称する少女。外見年齢は16歳くらい。
・アティエノ
奴婢の娘。13歳。ホーンという名前の黒山羊を飼っている。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!仄暗い甘さと、闇の中に蠢く美しさが混ざり合う物語
これは個人的な印象ですが、八束さんのものがたりは、排他的で廃退的だなあとおもいます。とてもゴシックな世界観と甘やかさの物語のなかにも泥くささが含まれています。
でもそれが、とても八束さんの描くお話らしくてわたしは好きです。
『魔女のみだらな生殖』もまた、閉じられた世界のなかの甘美だけでなく、歴史背景と宗教観の混ざり合い、それでいてホラーでした。
土着といえば良いのか、その地に根付いたものが物語の土台としてある力強さを感じます。
読み始めたとき、「八束さんの百合だー!」ぐらいのテンションだったのですが、読み終えた時には「八束さんの、百合だ……」となりました(笑)
少女たちの愛の囁きとぶつか…続きを読む - ★★★ Excellent!!!見てはならないものを見てしまった
これはいけない。
記憶のない女主人公と謎多き少女の情交、しかも産卵というショッキングな内容。
それを指の隙間から覗いているような、屋根裏からこっそり盗み見ているような背徳感がぞわぞわと背中を走る物語。
常に陰鬱な空気が漂い、逃れられない恐怖と匂い立つ卑猥さがお話全編にべったり貼り付いて、どうしてよいかわからない混乱さが読者を引きずり込みます。
しかしそこに囚われてはいけない。
魔女、産卵、巡礼者、植民地、あらゆる歴史とそこに存在した人々の営みや思惑。二人の少女たちが抱える願い。そこには人間たちの深い欲望に溢れています。
そしてラスト。正直、最終話がある事がなによりも救いです。この状態がもし現…続きを読む - ★★★ Excellent!!!照らすは洋燈。鳴るは翅音。彼女から産まれるは──。
架空の植民地ブラックスワンプを舞台にした極上のホラー作品。
この世界の文化は【洋】であり、まさに洋画ホラーで見られるような廃れた屋敷の中へと読み手は誘かれるのですが、しかし根底に流れているのは、和製ホラーに見られるような陰鬱であると感じました。
特に光と音の描写が凄まじく、時に私自身が洋燈に照らされているような、あるいは文章の中から群れる翅音を聞いているような、そういった感覚に陥るほどで、それが更に先述の陰鬱を加速させています。
お化け屋敷を思い浮かべてみてください。
心許なく配置された光源と、耳朶を打つ不気味な音源。
臨場感溢れる恐怖が、多分に演出されていますね。
それらを、綴られ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!この物語の根底にあるのは愛への渇望でした
ジャンルはホラー、タグにはガールズラブと産卵。何のこっちゃと思いながら読み始めましたが、ここには愛を求める二人の少女のはてなき愛憎が刻まれていました。
しかも面白いことに、主人公のガートルードもパートナー(?)のジャンヌも、彼女らが求めているのは互いからのモノガミーな愛ではありません。誰でもいいから自分を受け入れてほしい、という、なりふり構わぬ欲望です。二人の悲劇はそこから始まっていたのかな、と思います。
しかし、では彼女らの想いが互いを見つめる双方向なものであればハッピーエンドだったか、というと、きっとそうではない。
二人の血に刻まれた呪いは滅びの時を待っていて、卵が孵る瞬間を真の意味では…続きを読む