第6話 ひまわりのブレスレット
「さて、ふたりに渡すものがあります」
シルフィはそうかしこまり、ぱっと手を振った。
するとシルフィの手に緑色のステッキが現れた。
シルフィがそのステッキをサッサッと幾度か振ると、ひまわりがあっという間に消えた。
「ええっ!? ひまわり、消えちゃったよ!?」
女王様の分身なのに!
慌てる陽真に、亮が声をかけてくる。
「待て、片桐。なにかある」
「え? ……あ……」
ひまわりは消えてしまったが、そのかわり、ひまわりがいままで咲いていた場所になにかが落ちている。
「ふたりとも、それをひとつずつ拾って」
シルフィに言われ、亮と一緒に歩み寄ってそれを拾い上げた。
「ひまわりの……ブレスレット……?」
それは、ひまわり型のチャームがついたブレスレットだった。
腕に通す部分はゴールドチェーンになっていて、チャームはひまわりをかたどっている。それがけっこう大き目で、かわいらしい。
ひまわりの真ん中部分はつるりとしていて、その周囲を小さな七つの透明の石がぐるりと囲むようにしてはめられている。
花びら部分はきれいなイエローで、太陽の当たり具合できらきらと輝いて見える。
本当に太陽みたいだな、なんて陽真が思っていると、シルフィが説明してくれた。
「それは女王様の分身の形だけを変えたものよ。より『魂の欠片』を集めやすいようになっているの。ふたりとも、それをいつも肌身離さずつけるようにしてね」
「おー! なんかおそろいみたいで楽しいな!」
無邪気な亮の言葉に、ドキンとしてしまう。
「おそろいって、からかわれないかな? 学校で先生に怒られたりしないかな……?」
そろそろと口に出す陽真の不安を、亮が笑って一掃してくれた。
「そんなの、言わせとけばいいだろ。あとうちの学校はけっこう校則ゆるいし大丈夫じゃね? ピアスとかしてっても注意とかされないしさ」
「う、うん……確かに」
校則については、確かに亮の言うとおりだ。陽真たちが通う常翔中学校は、かなり校則がゆるいほうで、アクセサリをつけていっても注意されることはない。
でも、人気者の亮とおそろいのものをつけているというのは……なんだかドキドキもするし、ハラハラもする。
ハラハラはもちろん、「ほかの女子生徒にやっかまれないだろうか」「なにか言われたりしないだろうか」というものだ。
不安に思っていると、シルフィが顔を覗き込んできた。
「これをつけていないと、いざっていうときとっても困るの。あなたの女王様と波長の合った心をこのひまわりのブレスレットが仲介して、魔族を追い払うことができるのよ。そしたら、追い払ったところで起きていた悪いこともすっかりよくなるわ。同時に、魔族を退ければ退けただけ、このブレスレットに女王様の魂の欠片が集まっていくのよ」
「そうなの……? それじゃ、つける!」
自分に自信のない陽真だが、こうと決めたらまっすぐに進む面もある。
自分だけが魔族を追い払い、女王様の魂の欠片を集めることができるのなら、ブレスレットでもなんでもつけよう。
だって、魔族を追い払えば悪いことも消えるんだから。
みんなが困っていることも、なくなる。それを自分ができると思うと、「やってやろう!」と使命感のようなものに駆られた。
陽真と亮がブレスレットを腕につけるのを見届けると、シルフィは言った。
「じゃ、さっそくだけど……一匹の魔族を追い払ってもらうわ。場所はここの一番近くの家よ」
「えっ!? い、いまから!?」
まさか、いますぐに追い払うとは思っていなかった。一日置いてとかそんな感じだと思っていたのに。
「片桐、塾とか予定、あるのか?」
亮に問われ、
「ううん、予定は今日はなにもないけど……」
と答える。
部活も今日は学校自体がお休みだし、陽真は元々部活に入っていない。塾にも通っていない。亮はサッカー部の練習があったはずだが……。
「湯川くんは、サッカー部は?」
「休みの日は練習試合とかやったりするんだけど、今日は相手の都合で休みになった! だからこの時間にこれたんだよ」
「なるほど」
「魔族の悪さのせいで、指を骨折してしまった女の子がいる家なの。ピアノが弾けなくなって、すごく落ち込んでいるわ」
それを聞いて、陽真はハッとした。
幼稚園からの知り合い、桐原駒子のことだ──。
「もし魔族を追い払うことができたら、その子の骨折も治る?」
駒子の骨折は病院でみてもらっても、すぐには治らないとのことだった。骨折だから当たり前なのだろうけれど、もし魔族を追い払うことで治るのだったらやらない手はない。
シルフィは、力強くうなずいた。
「魔族が原因の『悪いこと』は、魔族を追い払えば必ずよくなる。その子の骨折もすぐに治るわ」
陽真も、大きくうなずいた。
「だったら、わたし……やる!」
シルフィはうれしそうにパタパタとはばたいた。
「よし! その意気よ! 亮もサポートしっかりお願いね!」
「おー!」
亮が楽しそうに、勢いよく手を上げた。
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