第5話 サポート役、任命!
「あなたが『花救人(キュート)』で間違いないんだけど……」
「うん?」
「このひまわりにかかわった人には、『花救人(キュート)』のサポートとして働く義務があるのよ」
「そうなんだ」
シルフィはいったいまたなにを言い出したんだろう。
そう思いながら陽真がシルフィを見ていると──彼女がなにかを言うよりも早く、元気のいい声が響き渡った。
「じゃ、俺は片桐のサポート役に任命されたってわけだな!」
声と同時に姿を現したのは、クラスメートの湯川(ゆかわ)亮(りょう)だった。
「ゆ、湯川くんっ……!? なんでこんなところに……!」
まさか誰かが盗み聞きしていたなんて思ってもいなかったから、本当にびっくりした。
湯川亮は、いわゆるイケメン男子。背も高いし、運動も勉強もどっちもできる。気さくで明るい性格だから、クラスの女子はもちろん、クラス以外の女子からも人気が高い。湯川亮の噂はほかの学年にも伝わり、女の先輩も見に来る始末。学校中の人気者と言ってもいい。
もちろん、男子からも好かれていて、お昼休みなんかは「一緒にサッカーやろうぜ!」「サッカーは昨日やっただろ、今日は俺たちとバスケットしようぜ!」とひっっばりだこなのだ。
「あなた、いい度胸してるわね。気に入ったわ」
シルフィがにやり、と笑う。
そのときには陽真のところまで歩み寄ってきていた湯川亮は、にこっと笑い返した。
「いやー、俺なんかおとといこのひまわりを見つけて、水をあげてただけだからさ。こんな面白そうなことに加わることができないのかって残念に思ってたけど……今日も水をやりにきてよかった! サポートができるってわかったからな!」
「えっ!? 湯川くんもこのひまわりにお水、あげてたの?」
「おとといと昨日だけだけどな。だってなんだかこのひまわりが、助けてって言ってるような気がしたから……」
亮は、いまはきらきらと咲き誇っているひまわりをうれしそうに見つめる。
「咲いてよかったな、おまえ」
そうか……。亮も二度だけ水をあげたけど、いまさっきシルフィが言ったように「このひまわりにかかわった人間」で。
だから、わたしのサポートになる……ということ?
そういえば亮の手には、たっぷりの水が入ったペットボトルが握られている。
今日も水をあげにきた、というのは本当なのだろう。
「湯川くん、ずっと隠れて聞いてたの? どこから?」
「最初っから! 俺が水をやりにきてみたら、ちょうどその妖精が現れたところだったんだ。これは見届けないとな、と思ってとっさに隠れたってわけ。おかげでいっぱい蚊に刺されちまったけど」
さわやかに笑う、亮。
「湯川くん、よくシルフィの言うことを一発で受け入れられたね……?」
「だって目の前で実際に起きてることだしな。受け入れるしかないだろ? おかげでおもしろいことになってきたしな!」
つ、強い。
亮の心の強さをうらやましく思う陽真だった。
だけど、ちょっと疑問がわいた。
「湯川くんもこのひまわりを見つけることができたっていうことは、湯川くんも清く素直で純粋な心を持っていたっていうこと?」
「そうなるわね。あなたよりも見つけるのが遅かったということは、あなたほどではないっていうことだと思うけれど。あとはやっぱり『咲いてほしい』って願ってくれたから、お世話をしてくれた回数は少なかったけれど、このひまわりが咲いたきっかけに、少しはなっているっていうことよ」
シルフィは、そう教えてくれた。
「すでにこの人はあなたのサポートをしていた、ということね」
そんな恐れ多い、と言おうとしたところへ、
「もうサポートしてたなんて、俺、すげぇ!」
と、亮が楽しそうに笑う。
本当にポジティブ思考なんだなぁ、と陽真は感心してしまう。
そこでシルフィがコホンと咳ばらいをする。
「改めて、湯川亮。あなたを片桐陽真、『花救人(キュート)』のサポート役に任命します。なにがあっても『花救人(キュート)』を守るように。『花救人(キュート)』だけが女王様復活の鍵を握っているのだから。わかりましたか?」
「わかった!」
力強く、目をキラキラさせながら亮がうなずく。
それを見ながら、陽真は「不思議だなぁ」としみじみ思っていた。
だって、陽真はおとなしい性格のほうだから、亮とかかわることなんていままでなかった。
まともに話したこともなかったし、挨拶も交わす機会だってなかった。
いまだって、けっこう勇気を出して亮と話している。
こんなにいきなりクラスの、ううん、学年中の人気者と話すことができるようになるなんて、縁って本当に不思議だ。
「……ん?」
そこでまた、陽真は首を傾げた。
「シルフィ。わたしも湯川くんも、まだあなたに名乗ってないよね? どうしてわたしたちの名前がわかったの?」
「それも妖精の力よ! それくらいできなくて『花救人(キュート)』のサポートなんてつとまりませんから!」
えっへん、とシルフィは胸を張る。
「ずーっと女王様の分身であるこのひまわりに張り付いて、見つけてくれたあなたたちを見守っていたのよ。無事咲かせてくれますようにって……本当によかったわ……!」
「妖精ってすげぇんだな!」
「あったりまえよ!」
素直に感心する亮に、またまた得意げになるシルフィ。
このふたり、いいコンビかもしれない。
なんて思う、陽真だった。
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