第11話 これが一目惚れってやつ?


 王様が何か喋ってる。

 でも全然頭に入ってこない。右から左っていうより、俺の五感の中で今まともに動いてるのは視覚だけっぽい。


 ――それくらい衝撃的だった。


 俺の視線は、王様の傍に佇む一人の女性に釘付けになっていた。




 最初に玉座の前に案内されたときはかなり緊張した。

 両開きのデカい扉が開いたかと思えば、両脇にフルプレートの騎士がずらっと並んで道を作っており、その騎士ロードを進むと王様っぽい爺さんがデカい椅子に座って俺を待っていた。


 俺の右隣には例の白魔導士シャロン。左隣にはヤマモトが並んで立ち、シャロンの見様見真似で俺は王様の前に跪いた。


 そして顔を上げたとき……その女性に完全に目を奪われた。


 輝く金の髪に、美しいドレス。

 歳は俺よりも少し上くらいだろうが、大きなクルンとした瞳は少女のように可愛らしい。


 ――信じられないような美少女だった。


 もうこんなすげえ顔、偶然には生まれないでしょってレベル。

 顔のパーツというパーツが完璧。

 完璧っていうか、もはや『正解』? テストで『最も美しい顔を作図せよ』って問題が出たら、この人の顔書けばピンポンって音が鳴ること間違いなし。


 玉座の傍に立ってるってことは多分お姫様? 凄い偉い人なんだろう。

 あの顔でお姫様とか……甲羅背負ったバケモンに攫われても文句言えないよ?


「――では、本当に魔王軍幹部を撃破したのだな?」

「はい。私の部隊がアーグヴァランを足止めし、カケルさんの補助魔法で、こちらのスライム……ヤマモトさんを強化し……」


 王様とシャロンが何か話してるけど、俺は上の空だった。

 それよりこの女性のことで頭がいっぱいだった。

 うわあー……本当に超可愛いな……可愛いと美しいが奇跡的に共存してる感じ? こんなのゲームのキャラクリでも作れねえよ。


「――ふむ。ミルフィよ、お前からは何かあるか?」


 王様がその女性に声をかけた。

 おおー、ミルフィっていうのかこの子。こんな爺さんが考えたとは思えんくらい可愛い名前だし、この子に合ってる。

 さては王様、この子が美少女に育つって知ってたな? グッジョブ。

 ミルフィちゃーん、声聞かせてー!


 ……あれ、ミルフィってどっかで聞いた名前だな。どこだっけ……?


「何もございませんお父様。魔王軍幹部を倒せたこともそうですが、クラッフ村の平和が護られたことが私には何よりも喜ばしいです」


 やっぱりね! 声も絶対可愛いと思ってたよ!

 この顔で声が可愛くないとか有り得ないもんね。

 もう声だけで分かる。この子は心優しい純真無垢なお姫様だね。俺には分かる。


「うむ。その通りだな。一時はどうなることかと案じたが、貴殿らの尽力により……」


 あーミルフィちゃん可愛いな~……もう見てるだけで癒される。

 今まで三次元なんかに興味なくて、アイドルとかに熱を上げるクラスメイト達の気持ちが全く理解できなかったけど、こういうことなのか。


「カケルさんはアーグヴァランを相手に真っ向から挑み……」

「カケルさんは最強の白魔導士なんです!」

「うむ。まさに救国の英雄と呼ぶに相応しく……」


 でも王女だったらあれかな。やっぱもう婚約者とかいるのかな。

 あんな娘と結婚できるってもう人間としてやばいでしょ。選ばれし者すぎ。いいなー。

 いや、元々俺なんかとは縁のない人だ。俺は遠くからミルフィちゃんを眺めてるだけで満足だわ。


「……?」


 そのとき、ミルフィと目が合った。

 やべっ。思わずガン見してた。

 咄嗟に視線を逸らす。


 やべー。「キモ……」とか思われてたらどうしよう……せめて心の中だけで思っててくれ。

 面と向かって言われたりしたら俺もう生きてく自信ないわ。


「恐れながら申し上げます。魔王軍幹部を倒したともなれば、十分に勇者と呼ぶに値する人物かと思われます」

「うむ。無論だな」

「アーグヴァランとの戦闘を間近に目撃した私にはわかります。カケルさんの力があれば、魔王討伐も夢ではありません!」


 やだなぁ……ミルフィちゃん怒ってないかな。

 ちら、とミルフィを見ると、また目が合った。

 やばい! ずっとこっち見てる! キレられてる!?


 俺がそう心配した直後、


「……くす」


 ミルフィは俺を見て小さく笑い、軽く会釈してくれた。


 ――ズキュウウウウウウウウンッ!!


 か、可愛いいいいい!!

 初対面の男にガン見されてたにも関わらず嫌な顔一つせず笑顔で会釈!

 しかもその笑顔がもう、天使!

 もしjpgでくれたら一生デスクトップの壁紙にするレベル。

 あぁ~可愛い~。


「聞いた話によると、その者はこの世界の人間ではないとか」

「そのようです」

「つまり、言ってしまえばその者にとっては我らと魔族との戦争は無関係の話なのではないか? そんな者に、勇者などという大役を任せるのは……」

「カケルさんはそんな器の小さい人じゃありませんよ! きっと勇者にでもなんでもなってくれます!」

「私もそう信じています。カケルさんならば、きっと」

「ふむ……」


 あーほんと可愛い。なんとかしてお近づきになれないかなー。

 いやでもあんな可愛い子とまともに会話できるか俺?

 現実世界では高校の三年間で合計しても女子と五〇文字も喋ってねえぞ!?


 ……いや、俺は生まれ変わったんだ。前の俺よりも五割増しで強引に、ちょいチャラく積極的にアプローチするって決めたんだ!



「――ホウジョウ・カケルよ。そなたの答えを聞かせてくれぬか」



「え?」

 そこでふと我に返る。

 見ると周囲の人間の視線が一斉に俺に向けられていた。


 ……やべ。ミルフィに見惚れ過ぎて話全然聞いてなかった……。

 今何の話だっけ?


「どうしたカケルよ。この者たちの言葉に間違いはないか?」

 国王が突っついてくる。

 この者たち、というのはどうやらシャロンとヤマモトのことらしい。


 あー、どうやらまだ森での戦闘の確認をしているっぽいな。

 シャロンがどう報告したか聞いてなかったけど、まあ間違いってことはないだろ。


「ええ、まあ……はい。そうですね。間違いないと思いますよ」


 ――おお!

 と周囲がざわめき立った。


「さすがカケルさんです!」

「カケルさん……ありがとうございます」


 見ればヤマモトが誇らしげにドヤ顔を浮かべ、シャロンは目尻に涙を抱えながら俺に礼を言ってきた。


 ……え、なに。何をそんなに喜んでんの?


「……よかろう、カケルよ。そなたの心意気、しかと受け止めた」


 国王が仰々しく立ち上がると、周囲に向けて声高に声を発した。


「バーランベイン王国国王の名の下に、この者、ホウジョウ・カケルを勇者として認めることをここに宣言する。魔王討伐という過酷な旅に挑む勇気ある者。そなたに大いなるヴェーラノーア神の導きがあらんことを」


 一斉に巻き起こる大喝采。

 何重にも折り重なった拍手が謁見の間に響き渡り、その真ん中で俺は呆然としていた。


 ……は? 勇者? 魔王討伐? なにそれ。初耳なんですけど。


 なんか勝手に勇者にされちゃったんですけど?

 魔王討伐ってなに。まさかまたアーグヴァランみたいな奴と戦えって?


 ……なにそれ超イヤなんですけど!?


「あ、いや、ちょっとタンマ。今のは……」

 俺の声は周囲の歓声に飲み込まれていく。

 今更撤回なんて受け入れられそうにない空気が満ちている。

 これが同調圧力ってやつ……?


 ……いや、単なる自業自得ってやつなのかもしれんけど。


「な、なあシャロン……俺さ……」


 一縷の望みをシャロンに託し声をかける。

 シャロンは俺の不安を全て見透かしたような笑顔で頷いた。


「大丈夫です。カケルさんならきっと素晴らしい勇者になれます」

「……そりゃどうも」


 ……もうなるようになれチクショー!

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