第二章
第9話 やっと最初の町かよ
「うぅん……」
小刻みな振動に身体を揺すられて目を覚ました。
「カケルさん、起きましたか!?」
後頭部辺りから声が聞こえてきた。
ぽよぽよとした感触が後頭部にある。どうやらヤマモトが横になった俺の枕になってくれていたらしい。
「ここは……」
「王国へ戻る馬車の中です」
今度は別の女性の声が聞こえてきた。
俺が横になっている椅子の反対側に、寝起きには眩しい美少女が座っていた。
青のショートカットの髪が馬車の振動に合わせて小さく揺れていた。
シャロン・ブルーとかいう名前の白魔導士だったはずだ。
「あんたは……」
寝起きの脳に記憶が散り散りになって蘇ってくる。
俺は確か……。
「――! あいつどうなった!?」
椅子から飛び起きる。
そうだ。俺はさっきまであの魔王軍幹部の一人、アーグヴァランと戦っていたはず。そしてヤマモトを使ってのパンチをお見舞いして……そこからの記憶がぽっかり抜けている。
あの後どうなったんだ?
「アーグヴァランは死亡しました」
「ほ、ほんとか!?」
「はい。この目でハッキリと確認しました。アーグヴァランの肉体は確かに消滅しました」
「……」
へなへな、と俺は椅子に座り込んで馬車の壁にもたれかかった。
「……た、助かったぁ~……」
作戦は上手くいったんだ。あの男に勝ったんだ。
「あー……寿命が半分くらい吹っ飛んだわ……」
「ええ!? 大変です、大丈夫ですかカケルさん!」
「喩えだよ喩え。そんくらい緊張したってことだ」
ヤマモトは「よかったぁ~」と安心したようにぷるんと身体を震わせた。
「……それだけ、ですか?」
不意にシャロンが言った。
それだけ? どういう意味だ?
「――――あっ。そうか。ごめん忘れてた。えっと、シャロン、だっけ? ありがとな。助かったよ。あんたがいなかったらきっとあいつも倒せなかった」
確かに、それは言っとかないとな。
どうしてもアーグヴァランの意識を俺から一瞬外す必要があった。そのために囮として背後から襲い掛かれ、なんて我ながら酷い作戦だったと思う。
しかも俺の魔力がほとんど残ってなかったから、シャロンには補助魔法を施す余裕がなかった。彼女は自前の補助だけで単身アーグヴァランに挑んだんだ。
一歩間違えればシャロンだってどうなっていたか。よくこんな作戦に付き合ってくれたよほんと。
自分で言うのもなんだが、俺だったら絶対断ってたね。
「……い、いえ。そういうことではなく」
シャロンは一瞬面食らったように頬を赤くしたが、すぐに頭をぶんぶんと振って仕切りなおした。
「魔王軍幹部を倒したんですよ? これが……どれほどの偉業か理解していないのですか?」
「……うーん」
そう言われてもなあ。
まあRPGで言うところの、始まりの町で四天王倒しちゃった的なことになるんだろうが、俺はこの世界の常識を全く知らないし、「理解していないのですか」と聞かれると、していないとしか答えられん。
「やっぱあれ? 表彰状とかもらえちゃったりするの?」
「……」
……なんだよその顔は。なんか言いたいことあるならハッキリ言えよな。
『表彰状とかいう問題じゃねえよ』みたいな顔しやがって。
「……あなたは、何者ですか?」
「……んー」
難しい問いだ。だが同時に核心を突いてもいる。
おそらく俺の力の異様さだけでなく、この世界への常識の欠如や果ては服装まで、多くの疑問点を一手に含める質問だ。
――まっ、別に隠す必要もないか。
ありのまま正直に答えるとしよう。
「実は俺、異世界人なんだ」
事情の説明は五分もあれば事足りた。
元の世界では普通の学生だった俺が、事故で死んでこの世界に転移。
転移した場所があの森の中で、ヤマモトに出会い、自分の能力に気づき、地竜を倒し、そのせいでアーグヴァランに目を付けられ、倒し、今ここにいる。
かいつまんで話せばそれだけの話だった。
振り返ってみると短いなー。八話もあれば終わりそうだ。
シャロンだけでなくヤマモトも興味深そうに俺の話を聞き入っていた。
「……信じられません」
そう呟くシャロンではあったが、俺を疑っている様子ではなかった。
「カケルさんは異世界の方だったんですね! どおりで他の人間とは貫禄が違うと思いました! さすがです!」
ヤマモトは何故か誇らしげに俺の膝の上に飛び乗ってきた。
バスケットボールくらいのちょうどいい大きさだったのと、ヤマモトのぽよぽよした感触が気持ちよかったので無意識の内にヤマモトをぽよぽよしだしてしまった。
俺にぽよぽよされながら「あはぁ~♪」と気持ちよさそうにするヤマモト。
能天気なこいつとは違い、シャロンは俺についてもっと知りたそうな顔をしていた。
「あなたは、その世界でも白魔導士だったのですか?」
「いや、普通の学生だった」
「……? 別の魔法を専攻されていたということですか?」
「いや、そもそも魔法とかない世界だったから」
そう言うとシャロンは目を丸くした。
「……魔法が……ない、世界?」
「むしろ俺からすれば魔法がある世界にビックリしてるくらいだ」
「で、では何故あれほどの魔法を行使できるのですか!?」
知らん。
ここで「天才ですから」と言えたらキマるんだろうが、俺だって自分の力がどういうもんなのか未だによく分かってないしな。
「ちなみに質問なんだが、同じ補助魔法を重ね掛けできるスキルって、やっぱりこの世界でも珍しいのか?」
「あ、当たり前です! そんなことができたら、ステータスが上げ放題じゃないですか!」
ヤマモトと同じ反応だ。
言葉のニュアンス的に『聞いたことない』ってレベルじゃなく、『そんなもんあるわけねえだろ』的な、この世界の常識から完全に外れた能力らしい。
そんなスキルを俺が使えるなんて……やべえ、オラワクワクすっぞ!
「でも信じてくれるんだろ? 俺にそういう力があるって」
「…………信じないわけにもいきません。現にアーグヴァランを倒したんですから」
そう考えると初っ端に魔王軍幹部と出くわしちゃったのもあながち悪い展開じゃなかったのかもな。
なんかこう、分かりやすいチートスキルと比べてイマイチ効果がピンと来にくいというか、話だけ聞くと微妙に地味な印象があるスキルだし。
てか俺だって森での一件がなかったらこのスキルがどういうものか理解するまで時間がかかっただろうしな。
だから初っ端でアーグヴァランを倒せたことで、『魔王軍幹部を倒せるくらい強いスキル』っていう評価をもらえるのは嬉しい誤算だ。
「分かりました。今聞いた話のまま国王に報告します。まだまだお聞きしたいことは沢山ありますが、それは後にしましょう」
俺が異世界人だっていうのも、とりあえずは信じてもらえたらしい。
「国王、ってことはこの馬車は王国かどっかに向かってるのか?」
「はい。あの森での戦闘は決着しましたし、じきに王国軍も帰還を始めるでしょう。それより先に、まずはあなたを安全な場所にお連れする必要がありますから」
それは民間人を非難させる、というよりも事情聴取したい、ってことなんだろう。
魔王軍幹部を倒したっていうのは俺が思ってる以上に相当な戦果だったようだ。
あの森での戦闘も、無事集結したらしい。
どんな戦闘が行われていたのかは知らないが、アーグヴァランという指揮官を失った魔族を撃退できたようだ。
故郷の森が救われたと知ってヤマモトも嬉しそうに体を揺らしていた。
「で、その王国っていうのはどんな国なんだ?」
「? 王国は王国です。――――ああ、そうでした。あなたは異世界人……? なんでしたね」
シャロンの反応から察するに、その王国はこの世界では知らない者のいないほど有名な国なんだろう。
それこそ、王国といえばこの国だろ、って具合に。
「私たちが向かっているのは、バーランベイン王国。今や人類に残された……最後の砦です」
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