第5話 悪夢の真相

 その言葉の続きは次の日に聞けた。朝から四人は丈に呼び出されたのだ。

「君たちは、悪夢を倒せるんだよな?」

「そうさ! 悪夢討伐団さ! いいだろぉ? オレが名前考えたんだぜ!」

「本当にだっさい名前だよね」

「なんだと?」

「現実でも喧嘩、しない…」

「他に思い浮かばなかったんだから、悪夢討伐団でいいだろ? で、丈、話はなんだ? さては、お前もオレたちの仲間に入りたいんだな?」

 いや、違う。丈の目的はそんなんじゃない。昨日の言葉が気になる。

 ふと紗夜の方を見る。紗夜も、瑠璃と同じことを考えている。

「悪夢に思い当たることが、あるんでしょ…?」

 そう言うと思っていた。実際、紗夜が言わなければ瑠璃が聞いていた。

「そうだ」

 丈の返事は一言、しかも簡単だった。

「何!」

 慎治と忠義が一緒に叫んだ。教室にいる人がみんな振り返った。

「ゴホンゴホン。みんな、なんでもねえよ?」

 みんなの視線が消えたのを確認すると丈は、

「今日、僕の家に来て欲しい」

 とだけ言った。

「はあ? 人のこと呼んどいて、それだけかよ?」

「見せたいものと、聞かせたい話がある。それにここじゃあ、話せない」

「わかった…。少なくとも、悪夢に関係はあるんだね…?」

「そうだ。だから君たちに来て欲しい」


 バドミントン部を抜け出す理由は簡単でいい。それほど出欠に厳しい部ではないし、瑠璃は信頼されている。だから仮病でも、だれも疑わない。紗夜も簡単に美術部を抜け出した。

 問題があったのは慎治と忠義。

「なんでオレが部を休まねえといけないんだよ? 次期ピッチャー候補だぞ?」

「僕だって、できれば休みたくなかったよ。コンクールが近いんだ。それにあの曲、なかなか難しいし」

 不満を言いながらも、四人は丈についていく。

「こんな神社、あったの?」

「忠義くんの家はこっち方面じゃないもんね。昔から、行ったことはなかったけど、あるんだよ」

「しっかし、相変わらずの荒れようだな! 大丈夫かお前の家?」

「とにかくみんな、本殿に入って。話はそれからだ」

 言われた通りにする。用意されていた座布団に座った。

 本殿には、神主が木箱を持って待っていた。

「よく来たね、坊やたち」

 そう言って四人にお茶を配る。

「爺ちゃん、この人たちなら、解決できるはずだよ」

「そうか、そうか」

 そう言って神主は木箱を置いて、座った。その木箱はよく見るとあちらこちらにひびが入っていた。

「まずは、この話をせんとのう。少し長くなるが、聞いとくれ」

 神主は話始めた。


 昔、この神社は江戸時代くらいに建てられた。

当時、人々は困っていた。

毎晩毎晩、全く夢を見ることがなかった。

 御神木に神を宿し、建てられはしたが、夢は見ない。

 それどころか、悪夢を見始めた。

 そこで、村で一番若かった子供、というよりは産まれた直後の赤子が生け贄に選ばれた。

 その赤子を、殺して、御神体として木箱に入れ、本殿に収めた。

 生け贄にしたことで、悪夢は終わった。

 夢を見始めた。

 人々は喜んだ。


「これがその、御神体を祀った木箱じゃ」

「すると、じゃあ、そん中に、赤ん坊の死体が…!」

 四人は一斉に引いた。

「そう怯えるでない。あくまで言い伝えじゃ。わしも、いや先代も、中身を確認していないからのう」

「お。脅かさないでよ…」

「話はこれで終わりじゃない。爺ちゃん、続けて」

「うむ。まず言い訳からさせてくれ。わしは、ことの真偽なんてどうでもよかったのじゃ。神の怒りに触れるなんて思ってもみなかったのじゃ」

「だったら、どうしたんだよ?」

「言い伝え通りなら、木箱には赤子が収められている。わしはただ、その子がかわいそうでのう…」

 神主は続ける。

「だって、そうじゃろ? 未来ある赤子の命が奪われたのじゃ。その子にだって、将来があったじゃろうに。夢を見たかったじゃろうに。そう思わぬか?」

「確かにそう思うわ。で、神主さんは、何をしたの?」

 瑠璃が問い詰めた。

「わしはただ、供養してあげたかったのじゃよ。先代がいつも、放っておくのを見たからのう。若い頃から、かわいそうだと思ってたんじゃ」

「それで、去年事件が起きた」

「そうじゃ丈。いざ供養しようとしたら、この木箱がいきなり揺れ始めたのじゃ。そして見る見るうちにこんなに亀裂が走ってしまったのじゃ」

「本当にそんなことが?」

「わし以外見ていなかったから、信じられないかもしれんが、本当のことなのじゃよ。わしはこれは、神の逆鱗に触れてしまったのじゃと確信した…」

 箱を撫でながら、神主は話している。本当なら、衝撃的だ。そんなことが、実際に起こり得るのか…?

「その日、わしは夢を見たんじゃよ。それはそれは恐ろしい夢じゃった。がしゃどくろって言うとわかるかの? 骸骨の妖怪なのじゃが…。そいつがわしの夢に出てきて、言ったんじゃ」


 よくもやったな? 怒りを鎮めたければ、新たな生け贄を寄こせ。

 さもなければ、みなに悪夢を見せてやる。


「生け贄なんて、用意できるはずがなくてのう。わしは何もできんかった。その日以来、婆さんが悪夢を見るようになったんじゃ。婆さんはいつもいつも、がしゃどくろに追い回されていると言っていたのう。そして、一週間もせずに、死んだ。あいつが婆さんに悪夢を見せて、あの世へ引っ張って行ったんじゃ」

 四人は衝撃を受けた。

 あの悪夢を見続けると、そんなことが…。誰も驚きを隠せない。

 悪夢で、人が死ぬ。それがこの神社で実際に起こった。

「婆さんが死んでからは、これ以上被害を増やさぬために、わしが、できる限りの供養をしたのじゃ。毎日毎日、わしの夢にがしゃどくろが出てきたのう。昨日もじゃった。わしはそれで、他の誰かが悪夢をみることは防げてると思ったんじゃが…」

「僕が、昨日悪夢を見た」

「そうじゃ。あいつはわしにだけ、見しているのかと思ったんじゃが…。力が強いのか、同時に他の人にも見していたのじゃ」

「それだけじゃないはずだ」

 後ろを振り返る。いつの間にか、大崎先生が立っていた。

 どうして、ここに…?

「おお、大崎とやら、今来たのか」

「どういう、ことですか?」

 やっと口の空いた忠義が言った。

「あれは生け贄に選ばれた赤子の無念だけじゃない。今、生きている人たちの無念も集まっている」

 大崎先生の話についていけない。というかどうしてここにいるのかすらわからない。

 ポカーンとしている四人に気付いて、先生は説明を始めた。

「俺が大学時代に、神主さんから依頼されてな。悪夢のことを調査し始めた。そしてわかったんだ。みんなに忘れられていた、この神社に、みんなの無念が集まっていることを!」

 先生は続ける。

「人には夢がある。寝ているときに見る夢じゃなく、将来叶えたいと思う夢が。でも、それが叶うのは極わずか…。残りの人たちは夢を諦めてしまう。その無念が、ここに集まり、悪夢が力をつけたんだ!」

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