第3話 神社がある

 次の日に、朝から紗夜と、教室の端で話をする。

「そもそも何で、悪夢を見る人がいるの? 悪夢は何で、毎日現れるの?」

「それは、わからない…。私も気にはなっていたけど…」

「紗夜しかあのコンパス持ってないんだよね? なら先生から何か聞いてないの?」

「いや、何も…」

「黙っていきなり渡されたわけではないでしょ?」

 親友を質問攻めにしている気がして申し訳ない。でも、答えを知りたい!

「それは、そうだけど…。本当にいきなり慎治と忠義と剛と一緒に呼び出されて、装置とコンパスを渡されて、悪夢と戦ってくれって…」

 何よそれ? じゃあ本当に何も聞いてないの?

「何か聞いてみても、ただ自分の言うことを信じてくれとしか…。それで言われた通り装置をつけて寝てみたら、本当に他人の悪夢の中に入っていて…」

「紗夜。一度、大崎先生を問い詰めてみましょう」

 朝の時間に先生はいなかったので、この日の昼休みを狙った。職員室に行き、先生を連れてまた屋上へと続く扉の前に来た。

「今日は何だ? 新しい候補でも見つけたのか?」

「今日の話は、それではないんです、先生」

「じゃあ何だ? もしかして、やめたいのか?」

「違います…」

「先生! 教えてください! どうして悪夢は発生し続けるんですか? そしてどうして私たちが戦わないといけないんですか?」

 先生は一旦黙って、それから、

「悪夢が発生し続ける理由は、俺は知らない。でもな、お前たちに渡した装置はお前たちしか使えない。それだけは確かだ」

 そんな答えは不十分!

「だから、何でなんです?」

「お前たちに夢ってあるか?」

「夢…?」

「そう、夢だ。将来の方のな。何がしたいだとか、何になりたいだとか、その類の夢だ」

「私なら、看護婦になりたいですけど」

「私は、画家…」

「それが、関係あるんですか?」

「今はどうなってるか知らんが、俺が大学にいたころは、将来に希望を抱いてる人にしかその装置は働かなかった。だから将来の夢を抱いていないといけない。俺たち大人はもう、そういうの、ないだろ? 歳とっても夢を追っている奴はどうなのか知らんが。とにかく俺は、教師になった。他にやりたいこととかなりたい職業なんてないから、俺には装置は使えん」

 先生は強く続ける。

「とにかく、危険なのはわかっている。でも、お前たちに戦ってもらうしかないんだ! それでしか悪夢はやっつけられん」

「だから、私たちを選んだんですね…。春の自己紹介の時に、将来の夢を発表させて」

 そんなこと確かにあった。その時瑠璃は、上手く表現できなかった。だから私は最初のメンバーに選ばれなかったんだ。それに対して、紗夜と慎治と忠義の語った夢は具体的で、それになりたいという強い思いが伝わって来たのを思い出した。きっと先生は同じことを他のクラスでも授業でやって、剛を選んだのだろう。

「そうだ。強く夢見ている方が、装置が働きやすい。だから、選んだんだ」

「それはわかりました。でも、悪夢の発生原因は?」

「それについては、本当に俺も知らないんだ。俺が研究していた時には既に、悪夢は始まっていたんだから」

 それでは、完全に八方ふさがりだ。

「でも待てよ…。確か…」

「何かあるんですか先生!」

「いや、何でもない」

「言って下さい!」

 先生は一呼吸おいて、

「この辺に夢見神社があるのを知っているか?」

「夢見神社?」

「そうだ。俺も噂程度にしか聞いたことがないんだが…。なんでも昔、この辺では夢見信仰があったらしい」

「何ですか、それ…」

「だから俺も詳しくは知らないんだ。それと何か、関係があるのかもしれない」

「なるほど」

「あくまでも可能性だがな。確か俺のクラスにあの神社の跡取り息子がいたろ? そいつに聞いてみる方が早いぞ」

 先生が言い終わると、チャイムの音が聞こえてきた。

 確かに先生の言う通り、私の二組にはその人がいる。名前は夢見丈。短髪で、眼鏡をかけた男の子だ。いつも静かで、同じクラスだけどあまり話したことがない。

 五時間目の授業が終わって、次の授業が始まる前に瑠璃は、紗夜とともに彼の机に行った。

「丈…君だよね?」

「ああ、そうだけど、僕に何かよう?」

「丈君の家って、神社なの…?」

「そう」

「そこで、さ。夢見信仰のことで聞きたい…」

 ことがあるんだけど、と言いたかったが、丈が続けさせなかった。

「今は、廃れてるから」

「廃れてる?」

「もう信じる人がほとんどいなくて、境内も荒れてるし、第一君たちに関係ないだろ?」

「あるよ…。悪夢のことで…」

 紗夜が何て続けたかったのかは、わからなかった。急に取り乱した丈が、

「う、うるさい! とにかく君たちには関係ない! 席に戻れよ、授業が始まるぞ!」

 これ以上は何も聞けなさそうだった。


 部活が終わった後、瑠璃は寄り道した。夢見神社は学校からも近い。場所もわかる。だからすぐに着いた。

「ここね」

 丈の言う通り、境内は荒れている。草はぼうぼうだし、砂利道もぐちゃぐちゃ。お地蔵さんまで倒れている。酷い有り様だ。

 上を見上げた。もう夕暮れ時で、暗くなり始めていたからよくはわからないけれど、鳥居も色あせて、今にも崩れそうって感じ。

 奥まで行く気はなかったので、そのまま帰ることにした。

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